オータムリーフの部屋

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高齢者の地方移住は姥捨て山の発想

2015-06-12 | 政治

 有識者らでつくる「日本創成会議」がまとめた提言が物議を醸している。東京と周辺3県で高齢化が進み、2025年には介護施設が13万人分不足する見込みで、高齢者に対し医療・介護に余力のある全国41の地域への移住を促すというのだ。
 これに対し、菅官房長官は「地方の人口減少問題の改善や地域の消費需要の喚起、雇用の維持・創出につながる」と、もろ手を挙げて賛同。一方で自治体からは「高齢者を地方へ誘導させることには違和感がある」(黒岩祐治神奈川県知事)などと懸念の声が上がっている。全国介護者支援協議会の上原喜光理事長は言う。「地方の介護施設や病院などのベッドがあいているからと、縁もゆかりもない土地に行けというのはあまりにも乱暴すぎます。家族や親戚のいない土地へ急に移住して、それまで通りの生活ができるとは思えません。これではまるで“姥捨て”です。そもそも、国は高齢者に住み慣れた地域で充実した医療・介護を提供する『地域包括ケアシステム』を提唱している。今回の提言とは明らかに矛盾しています。菅官房長官にしても『地方創生につながる』と言いますが、地方経済を活性化させるのなら、若年層が地方に行って働ける環境を整えるのが先決でしょう」(日刊ゲンダイ)

 
 「高齢者が移住した地方で、健康でアクティブな生活を送り、医療介護が必要となった時には継続的なケアサービスが受けられるようなコミュニティづくりを進める」という政府による「日本版CCRC構想」(コンティニューイング・ケア・リタイアメント・コミュニティの頭文字での略語。米国で普及している高齢者コミュニティ)につながる。政府の「日本版CCRC構想有識者会議」も7~8月に構想の中間報告を行い、年内に最終報告をまとめる予定だが、その座長も日本創成会議の座長と同じ増田氏である。安倍政権の別働隊のような「日本創成会議」だが、効率だけを重視し高齢リスクの地方分散を唱える提言は、あまりにも非人間的な発想だ。
 
「人口減少で、このままでは896の自治体が消滅しかねない」「地方自治体の経営は破たんする」といった警鐘をきっかけに、政府は地方の活性化策に力を入れるようになった。
 
「少子化対策」と「地方活性化」をセットにして、「若者×地方活性化」といった政策を出したのは去年だが、早くも若者移住は無理だと認識したのか、今度は高齢者移住政策だ。思い付きでコロコロ変わる猫の目政策。まるでリアリティが感じられず、だまされて乗ったら詐欺にあうと考えていた方がよい。
 
都市部に人口集中が進むのは、雇用機会、医療福祉サービスの充実というさまざまなメリットがある。とにかくサービスを受けたいのではなく、選択肢が多い高レベルの医療・福祉を受けたいというニーズがある。医療福祉サービスを受けたければ地方へ行けというのは、無理な提言だ。
 
肝心の地方医療だって、問題を抱えている。ときどき不釣り合いな巨大病院がそびえ立っているところがあるが、そうした巨大病院でさえ、医師不足だけでなく、地元自治体の財政負担が重いなどの問題がある。
 
昨年の「地方消滅」に関連した提言では、主に出生率の違いだけをみていた。今回の提言では、主にベット数の「空き」と「不足」ばかりを見ている。人手不足はロボットで解消するという思い付きもあり、リアリティ欠如の浅はかな提言なのだ。
 
 地方自治体からは「財政的な支援についても併せて考慮してもらえるのだろうか。高齢者だけ押し付けられても困る」といった声があがっている。地方自治体にとって人口問題の以前に、財政問題がある。財政負担となる医療福祉を必要とする人たちを受け入れる財源が地方にないことは周知の事実だ。
 
 地方への移住促進のために、補助金を出すなどの提言もあるが、これまでも地方自治体から、移住促進の金銭的インセンティブは出された。しかし、それだけで人の流れが変わることはなかった。
 
さらに年金の減少や今後の生活不安を考えると、定年を迎えても、働けるだけは働こうという考え方になる。結局、無理やり人を地方へ移動させようと思えば、魅力的なインセンティブを用意し、関連施設整備をしなくてはならない。地方に医療福祉の余剰ベッドがあるというだけで、地方に行けば良い、とはなかなか言えないのだが、やはり無責任提言の域を出ない。
 
 非現実的なプランを考えるよりも、首都圏の介護施設増設や首都圏の空き家対策と向き合い、健康年齢を上げる施策を展開し、高齢者が住みやすい環境を作っていく方が現実的だ。一方、地方においても、独自の医療福祉サービスによって、高齢者から「選択されるようなモデル」を目指すのがベストだと思う。
 
 重要なのは、送り込むのではなく、積極的に選択してもらえるような地方を作ることが大切なのは、高齢者であろうと、若者であろうとまったく同じであり、子供でも分かる論理だ。トップがダメなら、その諮問機関も低レベル。第一、同じ人間が複数の諮問機関に参加しているのだから、同じような提言しか出てこない。決められない政治も困るが、議論や検討もなく、どんどん決まっていく政治も恐ろしい。

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