各地の湖や河川、ダム湖に静かに漕ぎ入ってゆくカヤック。
水面近く、あるいは水際からみた世界が、著者独特の感性の深さで描かれるエッセイです。
水辺にて on the water / off the water
著者:梨木 香歩
発行:筑摩書房
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著者がいかに「水辺」に親しみ、またひそかに恐れ、カヤックでゆく水辺の風景を深く味わっているかがよく伝わる1冊ですが、それだけでなく、どの作品にもつながるエッセンスや言葉がいっぱいで、なるほどと思ってしまいます。
勝手な「なるほど」ですが。
この方のエッセイは小説との関係が強いと常々思っていました。
『春になったら苺を摘みに』と『村田エフェンディ滞土録』などは最たるものでしょうか。
もちろん、それは体験がそのまま小説になるということではなく、五感すべてを使って感じたことが熟成されていくつもの物語に深くつながっているような感じ。
物語を頭だけでつくるというより、物語が生まれてきてしまうとでもいうような。
他の小説家の方も多かれ少なかれ同じではあるでしょうけれど、この方の場合は特にそんな印象があります。
この『水辺にて』や、同じくエッセイの『ぐるりのこと』を読んでいると、こういうことをこう感じてこう思う人だから、ああいう小説(たとえば、『ピスタチオ』とか『沼地のある森を抜けて』とか。)ができあがるのだと実感できて、つい「なるほど」と。
その精神の豊かさ、鋭敏さに思わずため息が出てしまうのと同時に、あまりにも理想的で正しく美しいと思える言葉に読んでいて苦しくなってしまいそうです。
決して声高に責められているわけではないのに。
そうだろうとも思うのに。
この方の本を読むたび、私はゆるく生きすぎているとつくづく思います。
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