ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

『グスコーブドリの伝記』を観てきました。

2012-07-19 | 観るものにまつわる日々のあれこれ
 
かつて、映画『銀河鉄道の夜』にドキドキした者としては行かねばならぬと、我ながら妙な使命感をもって観てまいりました。
キャラクター原案のますむら・ひろしさんは県民だし、監督も同じですし、製作にはなにやら紆余曲折があったようですし。

【グスコーブドリの伝記】clickで公式サイトへ。
 グスコーブドリの伝記

 監督:杉井ギサブロー
 出演:小栗旬(ブドリ)
    忽那汐里(ネリ・妹)
    佐々木蔵之介(コトリ)
    柄本明(博士・語り)


作品には思い入れがないどころか、そもそも、宮沢賢治の作品は読んでいても楽しくないと子供心に思っていたので、否応なしの教科書掲載作品など申し訳程度しか読んでいません。
この『グスコーブドリの伝記』もあらすじは知っているという程度。
そういう宮沢賢治の作品に対して蓄積のない状態で見た今回の作品です。

ざっくりと比較しますと、原作よりもずっと幻想的な雰囲気を持たせている印象です。
もともと登場人物たちの姿をすべて二足歩行の猫にしたという時点で、かなりのファンタジー化ではあるのですけれど、それを差し引いても相当の違いに思えます。
コトリ(子取り)の扱いなどが特にそうで、人買いというよりすっかり魔の物。
背景が冷害による飢饉のさなかでもあり、「彼に連れて行かれる=死ぬ」というイメージでみるのは自然なことだろうと思います。
その後、コトリが登場する場面はいずれも、通常の世界ではないもの。
ブドリの現実に紛れ込んだ夢あるいは幻想といった扱いで、それが最終的な場面にもつながっていきます。

再び彼らの世界イーハトーブを襲った冷害。
飢饉のために家族を失ったブドリは、あんなつらいことが再びあってはならないという一心から、孤島の活火山を人為的に噴火させることを思いつきます。
原作では採用されるその案は、今回の映画では具体的な実行に至りません。
実行のためには、だれかひとりが火山に残る必要があり、それはとても認められないという判断が下るためです。
物思いに沈むブドリの部屋に突如現れるコトリは、ブドリの強い意志をくんでか、彼を連れ去ります。
そして、次には青い光を噴き上げる火山が描かれるのです。

この変更によって、原作では犠牲として容認されたブドリの行動が、孤独な英雄的行動になりました。
現代に合わせた変更、ということなのでしょうか。
これは映画化すること自体にムリがあったかと思います。
あれこれと自問自答しながら、ひっそりと読むべきものであったかもしれません。
自分をどの位置において考えるかにすら、もう悩むような作品です。

そのムリを帳消しにすることを狙ったのか、どうなのか、画面はとても美しく、またいろいろな種類のアニメーションの技法が使われていました。
混ざっていることに若干違和感がありますが、それぞれにとてもきれい。
通常のセルアニメと、いまではすっかり普通のCG、あとはモーションピクチャーというのでしょうか、実際の模型を動かしているように見える部分がありました。
イーハトーブの街で使われている乗り物などがそうで、みていて楽しい感じです。
たまご型のヘリコプターとか、自転車っぽい飛行船とか、レトロな雰囲気のスチームパンク。
SMAPのクサナギくんが声をあてていた映画『ROBOTS』とか、実写の『キャシャーン』とかをちょっとだけ思い出したりして。

声といえば、主演のブドリは小栗旬さん。
失礼な言い草ですが、思ったよりも違和感がありません。
もともと、宮沢賢治の作品は生き生きとしたセリフとか、激しいセリフ回しがあるわけではないので、すべての登場人物がわりあい淡々とした印象です。
ちょっとすてきだったのは、命令口調のときの草刈民代さん。
それから、コトリの役の佐々木蔵之助さん。
最初誰だかわからなくって、考えてました。
蔵之助さん、実写でもこの役、イケるんじゃないでしょうか。

物語の終わりには、はまりすぎなほどの小田和正さんの曲、『生まれる子供たちのために』。
全体的な音楽はバンドネオンの小松亮太さん。
一瞬、そちらだけを聴いてしまう時もありました。
もし、この音楽のイメージが作品のイメージに重なるのだとしたら、思う以上に、力強く高らかなものがテーマとして意図されていたのかもしれないと思います。









参加しています。地味に…。
 ▼▼▼
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ
にほんブログ村


  

コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« アヴィ・スタインバーグ【刑... | トップ | フージンは、うぱぱぱ、と笑... »

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ほーいほいほい (るい)
2012-07-19 01:07:21
比べるなって方が無理な話だよねぇ…。改めて「銀河鉄道の夜」って凄かったんだな!!と部屋に帰って細野さんのサントラを聴きました。
DVD買おうかしら。

ブドリも映像は綺麗だったけど、途中で出てくる「千と千尋の神隠し」みたいなの、いらなかったんじゃないかな。
それから声ね!!やっぱりプロの声優さん使えばいいのにさ。妹役の忽那汐里の下手くそなこと!!!!「うふふ、あはは」「あんちゃ~ぁん」って…あまりに不快で早く拐われねぇかな、と思ったよ。
返信する
るいちゃん… (きし)
2012-07-19 22:18:55
さくっと、ぶった斬ってるねー。さすが、るいちゃんです。

>途中で出てくる「千と千尋の神隠し」みたいなの
確かに…。でも、あれがないと、ブドリは火山にいけないのよねー。連れてってくれる人いなくなっちゃうから。
でも、あんな気持ち悪くなくても良かったと思うわー。
返信する

コメントを投稿

観るものにまつわる日々のあれこれ」カテゴリの最新記事