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カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

「桃色」「墓標」「正義の流れ」ジャンル「サイコミステリー」より・僕の水蜜桃

2015-03-08 18:38:29 | 三題噺
 春になると、街を見下ろす小高い斜面は見渡す限りが桃の花で覆われる。桜よりも華やかな色彩で桜のように儚げな風情も持たない強い桃色の花は、まるで生前の彼女そのものだ。
 だから僕は彼女の骸の灰をこの地に撒いた。灰となり土と入り混じった彼女はやがて美事な花を咲かせ、信じがたいほど甘い水蜜桃を実らせるだろう。そして僕は生前には味わえなかった彼女の水蜜桃を思う存分堪能するのだ。
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「天使」「屍」「きわどい脇役」ジャンル「SF」より・死天使

2015-03-07 20:13:42 | 三題噺
 その惑星には当時厄介な奇病が蔓延していて、ある日突然背中に発生したコブが異常増殖して患者を衰弱死させるという。そのコブが鳥の羽に見えるので「天使病」と呼ばれるのだが、そんな事も知らずに惑星に降り立った我がシャトルの乗組員の一人にもコブが発生した。が、ヤツの機械の体はコブを枯死させ、それでようやくコブが寄生体だと判った。

 干涸らびた羽のようなコブを記念に持ち帰ると言って聞かないヤツを説得するのは、乗組員総動員で三日を要した。
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「島」「箱」「バカな可能性」ジャンル「悲恋」より・夢語り

2015-03-06 20:50:38 | 三題噺
 箱庭のような島で生まれ育ち、近所の子供と遊び、喧嘩しながら一緒に大きくなり、恋をして告白して男女の付き合いが始まり、やがて結婚して子供が産まれ、更にその子供が大きくなって孫が産まれ、年老いたのちに大勢の家族に看取られて亡くなる。

 こうやって、自分の人生は穏やかで平凡な日々を重ねていくのだとずっと思っていたが、結局そうはならなかった。
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「北」「フクロウ」「最強の恩返し」ジャンル「サイコミステリー」より・北の梟

2015-03-05 19:01:33 | 三題噺
 大きく潤んだ瞳の持ち主だった彼は、フクロウと呼ばれ苛められていた。
 でも彼は本と自然散策が大好きな優しい子で、私達は良く一緒に遊んでいた。
 そして現在、故郷を離れて暮らしている私の周囲では不自然なほど私に害意を示した相手に災厄が相次ぎ、その度ごとに私の元に無記名でフクロウの絵葉書が届くのだ。
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「東」「目薬」「消えた物語」ジャンル「悲恋」より・あなたが嫌いになったわけではありません

2015-03-04 19:36:36 | 三題噺
 それほど珍しい話ではないが、かつては私も東京に憧れ、ついに上京して暮らし始めた時は有頂天だった。
 やがて街の砂埃を避ける術も知らぬままに目を痛め、病を得て、ようやく自分が東京と言う街の華やかさに恋をしていた事に気付いた。

 けれど、多分それは私が悪いのではなく、そして東京と言う街のせいでもなく、きっと何かの間違いなのだろう。



作者註・今回の元ネタはさだまさしの「殺風景」でした。
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「北」「化石」「見えない遊び」ジャンル「サイコミステリー」より・一億五千年後の天使

2015-03-03 20:41:14 | 三題噺
 北にある僕の山に彼女の骸を埋めた。僕以外は誰も訪れる者のない山奥で、いつしか彼女は堆積した地層の狭間で化石になるのだ。そして彼女を発掘した考古学者は感激のあまり叫ぶだろう。これこそ天使の化石に違いないと。

 それは僕を裏切り他の男と生き腐れていくより遥かに素晴らしい彼女の未来と言える。
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「おもちゃ」「魔女」「きわどい関係」ジャンル「青春モノ」より・Mの証明

2015-03-02 19:41:05 | 三題噺
 いい加減に目を覚ませ、お前はあの魔女にオモチャにされているんだと言われ続けて幾星霜。うるせーこちとら昔から承知の上だ別にテメーに迷惑を掛けた訳でもあるまい他人の人間関係にクチバシを突っ込むんじゃねぇと反論するのも面倒になった今日この頃。

 俺の魔女はいつも笑いながら無理難題を吹っ掛けてきて、俺はそれを何とか解決しようと駆けずり回る。
 それは、魔女と俺だけの楽しいゲーム。
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「春」「人形」「燃える殺戮」ジャンル「ラブコメ」より・雛の昇天

2015-03-01 17:14:13 | 三題噺
 その旧家に代々伝わる雛人形には、女雛と男雛それぞれに身分違いで引き裂かれ死を選んだ姫と家臣の魂が宿っていた。二人は年に一度だけ、雛祭りの日に箱から出されて飾られる際にお互いの姿を確認するのを唯一の幸せとしていたが、ある日起こった火事で屋敷ごと燃えてしまった。
 天に届くかのように燃えさかる炎の中で、人形から抜け出た二人の魂は数百年ぶりにようやく直に抱き合う。
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「音楽」「サボテン」「バカな城」ジャンル「学園モノ」より・青春の墓標

2015-02-28 18:38:43 | 三題噺
 今から少し昔、新しい社会を夢見た学生が角材で学舎を占拠して気勢を上げた時期があった。
 彼らは若さと唄と未来に対する幻想以外は何も持たず、結局は理想と現実の狭間で様々な矛盾を晒しながら立ち枯れることになったが、あの時代を青春の証と胸に刻んだ筈の世代は現在、しばしは若い世代に対して「今時の若い者は年長者に対する尊敬が足らん」と罵りの言葉を上げる。
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「海」「告白」「新しい存在」ジャンル「ラブコメ」より・さよなら人類

2015-02-27 21:52:54 | 三題噺
 その日海岸から次々と砂浜に上がってきた異形の者は、人間の男に出遭う度に相手が愛しく思う姿に変わり、次々と結ばれていった。当然ながら世界は恐慌状態に陥り、異形狩りと称して各地で凄惨な殺戮が発生した。

 やがて異形の者は再び異形に戻って海に帰り収穫の時を終えたが、遺された人類は疑心暗鬼で滅んだ。
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