シネマ独断寸評 やっぱり言わせろ
「地下室のヘンな穴」(2022年・仏・ベルギー)
監督 カンタン・デュビュー
奇抜な設定のみで深みはない
(以下、ネタばらし有り)
アラン(アラン・シャバ)とマリー(レア・ドリュッケール)の夫妻が、地下室に不思議な穴があるという新居を購入したことから始まるSF的な設定のコメディ。その穴からハシゴで下に降りるとその住居の2階の部屋に出るのだが、時間は12時間後となっており、体は3日間若返るというものだ。そこからさらに色々とヘンな現象が起こるのかと期待したが、結局ヘンなのはそのことだけで、それを前提とした話が進む。
12時間というタイムトラベルだが、タイムトラベルに付き物の問題提起は一切無い。例えば、12時間後の情報(競馬の勝ち馬など)を持って現在の世界に戻り、使うことができるのかという初歩的な問題等。また、12時間後の世界にそのまま居続けたら、その建物に地下室はなく、上に行くハシゴガ有ったりするのか、といった疑問は一切出てこない。アランは地下室に全く興味を示さないように見え、マリーが12時間後のことは捨象して3日間若返るという点にのみ執着してどんどん若返ろうと穴への出入りを繰り返す。その過程での2人の軋轢が描かれるのだが、結局マリーは二十代まで若返るのだが精神のバランスを崩してしまう、という結末である。
一方で、アランの友人でありアランが働く会社の社長でもあるジェラールは、ペニスを電子ペニスという人工物に取り換えて、コントローラーで自在に動かせると誇らしげに打ち明ける。しかし余りにも無理な設定であり、そのことに付随して当然考えられる様々な問題は一切不問のままで、単に電子ペニスの故障と修理が問題として展開するだけで、そのうち発火してしまい運転中のため事故死してしまうという結末で、さほど面白くもなんともない。地下室の穴の件だけでは、やはり弱いと思って無理やり付けたテーマなのか。
結局、設定だけは奇抜で興味を惹くが、期待したような不条理な展開は全くなく、設定以上の深みや面白さはない、という出来だ。ただ、俳優がいずれも自然な演技で、いろいろな会話も飽きさせないので見続けることはできる。
唐突に、昔、「マルコヴィッチの穴」という秀作があったのを思い出した。
総合評価 ③ [ 評価基準: (⑥まれにみる大傑作)⑤傑作 ④かなり面白い ③十分観られる ②観ても良いがあまり面白くはない ①金返せ (0 論外。物投げろ)]