映画批評&アニメ

◆ シネマ独断寸評 ◆

基本は脚本(お話)を重視しています。
お勧めできるか否かの気持を総合評価で示しています。

映画寸評「クワイエット・プレイス」

2018年10月22日 09時43分21秒 | 映画寸評

「クワイエット・プレイス」(2018年・米国)
監督 ジョン・クラシンスキー

秀逸な設定を活かしきった傑作

外来種と思われる正体不明の怪物によって、人類が滅亡しかかっている近未来が舞台。目は見えないがあらゆる音に反応して瞬時に襲いかかる怪物に対抗手段を持たない人類は、とにかく音を立てないで生活するしかない。農場に生き残った身重のエブリン(エミリー・ブラント)と夫のリー(ジョン・クラシンスキー)と子供二人の家族がどう生き延びるのか、という設定。この設定が秀逸で、ホラーという分類よりも、むしろサスペンス主体と言うべき映画であろう。

一家は手話で会話し、日常の動線には砂を敷き詰めて裸足で歩くといった工夫を凝らして生活しているが、全く音を出さない生活というのが、いかに緊張感にあふれた困難なものかが、段々と見ている側にも伝わってくる。気がつくと、まさに息を詰めて観ている自分を発見して驚いた。世界がどのようにしてこういう状況になったのかという説明は一切なく、のどかな農場や森の風景と緊迫した生活の対比を繰り返しつつ画面に惹きつけてゆく。夜、遠くの山裾にポツリポツリと明かりが点り、生き延びた人間がいることを示すシーンも印象的である。エブリンは生活の工夫をさらに考え、リーは息子にサバイバルの術を教えつつ、心に葛藤を持つ思春期の娘との関係に心を砕く中で家族愛が描かれていて、違和感なく収まっている。しかし、それは特筆するほどのものでもなく、上記の設定を活かしたハラハラ感で全編を通しているのが成功している基であろう。

せっかく優れた設定で興味を引きつつも、その扱いに失敗してストーリーに齟齬をきたしたり、面白くもない内容を付け加えて台無しにしたり、という映画も多い中で、本作は際立っている。ラストも細かい説明は一切ないのだが、難点は正体不明の怪物の不気味さがみなぎっている前半に対して、後半、怪物の姿をちょっと描きすぎという点であろう。また、細かいことを言えば大きな音を出して、怪物に襲われるまでの2、3秒の間、無音で走って逃げた時はどのようにやられるのかと、疑問を持った。

すでに続編の制作が決まったらしいが、意外性を持った設定ゆえに、続編は二番煎じなるのではないかと心配される。でもやはり観てしまうかな、と思わせる。

総合評価 ⑤  [ 評価基準: (⑥まれにみる大傑作)⑤傑作 ④かなり面白い ③十分観られる ②観ても良いがあまり面白くはない ①金返せ (0 論外。物投げろ)]