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映画批評&アニメ

◆ シネマ独断寸評 ◆

基本は脚本(お話)を重視しています。
お勧めできるか否かの気持を総合評価で示しています。

映画寸評「パブリック 図書館の奇跡」

2020年08月14日 10時09分35秒 | 映画寸評

「パブリック 図書館の奇跡」(2018年・米国)
監督 エミリオ・エステヴェス

問題提起は良いが話はイマイチ
(以下、ネタばらし有り)

大寒波襲来の米オハイオ州の図書館に、避難場所を求めてホームレスたちが立てこもるという事件を描いた映画。冒頭で、朝の開館を待って列をなしたホームレスたちが図書館のトイレで洗面髭剃り等を行い、職員とも親しく会話するシーンが描かれ、日本と違ってホームレスにとって図書館が大きな位置づけをされていることが判る。

凍死者も出るほどの大寒波の中、市が用意した「シェルター」というザコ寝場所もいっぱいのため、図書館で夜を明かすのだとして押し掛けた数十人のホームレスたちによって図書館が占拠される。初めは戸惑った図書館員のスチュアート・グッドソン(エミリオ・エステヴェス)も、事態の深刻性を理解し図書館の「公共性」という役割からホームレスたちに協力することを選ぶ。実際、米国図書館協会の報告書に寄れば、アメリカの図書館は単なる「本がある場所」ではなく、社会的なライフラインとして生活の広い範囲にわたって社会的弱者支援し、利用者の知的欲求に応えるサービスやプログラムを提供しようとするものだとのことである。

一方で、不法占拠として彼らを排除しようとする検察官ジョシュ・デイヴィス(クリスチャン・スレイター)や、聞きつけて駆け付け大きな事件にしたがるテレビキャスターたちによって、スチュアートが大勢の人質を取って立て籠もっているかのような話にされたりする。市長選に立候補予定のデイヴィスは、派手な人質事件にして突入し自らを目立たせたいのだが、その描かれ方はあまりに類型的である。もっとも、トランプのような大統領もいることだし、ありえない人物ではないのだろう。しかし、腕利きの交渉人として警察署長からも信頼されているビル・ラムステッド(アレック・ボールドウィン)が、ろくに交渉らしい交渉もせず警官の突入に同意してしまうというのは、明らかにおかしい。夜が明ければホームレスたちが退去する可能性は高く、それを電話で確認もできるはずなのに。人質なるものに差し迫った危険があるわけでもなく、法の支配を強調したければ夜が明けて出てきたところを検挙すればよいであろう。

また多くの人が違和感を持ったと予想されるが、全員が裸になって出てくるというラストに何の意味があるのだろうか。単に見る者の意表を突くためだけの仕上げに思える。しかも猛烈な寒波の中で裸になって、誰も寒そうに見えない。

スチュアートや同僚、図書館長が、図書館の理念に則ってホームレスの側に立ち、図書館長の「図書館は民主主義の最後の砦だ」と言う姿にパブリック(公共)の意味が問われている。またホームレスたちも、「従軍もして国に貢献したし、まじめに働いていたのに失業しただけでこのありさまだ」として「今回は引き下がるつもりは無い」と声を上げることで、普段みんなが見ないことにしているかのような社会矛盾を告発している。そういう問題提起が大きな意味を持つ映画だが、ストーリーはもうちょっと何とかならなかったか、と残念である。

総合評価 ③  [評価基準: (⑥まれにみる大傑作)⑤傑作 ④かなり面白い ③十分観られる ②観ても良いがあまり面白くはない ①金返せ (0 論外。物投げろ)]