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映画批評&アニメ

◆ シネマ独断寸評 ◆

基本は脚本(お話)を重視しています。
お勧めできるか否かの気持を総合評価で示しています。

映画寸評「運び屋」

2019年03月15日 16時51分43秒 | 映画寸評

「運び屋」(2018年・米国)
監督 クリント・イーストウッド

元気で気骨ある老人像が爽やか

主演は「グラン・トリノ」で終わりだと思っていたクリント・イーストウッドの主演新作なので早速見た。園芸業で成功していたがネット販売に押されて行き詰り、自宅も差し押さえられた90歳の老人アール・ストーン(クリント・イーストウッド)がうまい話に乗って麻薬の運び屋となる。最初は麻薬と知らずに受けたアールだが、途中でそれに気づいた後も平然とこなし、稼いだ大金を断絶していた家族や、退役軍人会の仲間のために使っていくという話。それまで仕事と仲間との交流のみにかまけて、家族を全く顧みなかったことで、妻にも離婚され娘からは縁を切られ拒絶されているが、大いに後悔し、孫娘の結婚を機に何とか修復したいと考えている孤独な老人という設定である。

しかしそれは一面に過ぎず、アールは元気いっぱいである。75歳以上免許返納検討など何のことかという感じで、古い歌を口ずさみながらドライブを楽しんでいる。麻薬組織のボスや指示を押し付ける幹部にも物おじせず、相手の立場による差別をしないので次第に組織の若者たちに溶け込んでいく。麻薬取締捜査官(ブラッドリー・クーパー)にずけずけ意見して「年とった人の言葉には遠慮がなくていい」と言われ、「俺は元から遠慮なんかしない」と我流を強調するが、組織の下っ端にスマホのメールを習うなどの好奇心と柔軟性も持っている。パンクで困っている黒人カップルには手助けを買って出て、「ニグロ」と言って、「今はニグロではなくブラックと言うのよ」とたしなめられ、「そうなのか」と受け入れるのも同様である。組織のボスのパーティではグラマーな娼婦をあてがわれ、積極的な楽しんでいる。年相応によたよたはしているが、特に持病もなく、何の薬も飲んでおらず、介護問題やボケるなど考えられもしないかくしゃくとした老人である。

こういった、誰にでもできることではない老人像は、おそらくイーストウッドそのものであり、彼が理想と考える姿なのであろう。エンドロールに流れる歌の歌詞「老いを受け入れるな」に象徴的に現れている姿勢でもある。それまで自分が積み上げてきたやり方にこだわって生き、法律やモラルにも必ずしも縛られない、しかしその責任はすべて自分が負う、という老人の気骨である。そのことが一貫して表現されているために、十分楽しめて爽快感を与えられる作品である。家族との関係修復というテーマは、どちらかと言うと二次的なものに思えるし、それに真摯に向き合う姿こそが強調されていることのようだ。ストーリーは穴もありそれほど大した出来ではないにも関わらず、最後まで惹きつけられた。

作品宣伝のインタビューなどを見ても、イーストウッドはこの元気さなら、今後の主演作も期待できるのではないかと思えてきた。

総合評価 ④ [ 評価基準: (⑥まれにみる大傑作)⑤傑作 ④かなり面白い ③十分観られる ②観ても良いがあまり面白くはない ①金返せ (0 論外。物投げろ)]


映画寸評「THE GUILTY / ギルティ」

2019年03月13日 18時37分52秒 | 映画寸評

「THE GUILTY/ギルティ」(2018年・デンマーク)
監督 グスタフ・モーラー

優れた設定を活かした一人芝居

警察の緊急通報指令室に誘拐されたと思われる女性から電話がかかってきて、その携帯電話との繋がりのみで事態を把握・解決しようと奮闘する警官アスガー(ヤコブ・セーダーグレン)が主人公。同様の設定の「セルラー」やその韓国版リメイク「コネクテッド」がかなり面白かったのだが、本作は画面をアスガーの側のみに絞り時間経過も実際の進行と同じに描かれている、という点で全く斬新である。画面上はアスガーのほぼ一人芝居で、相手は全て彼の通話先の声のみである。したがって観客はアスガーと同等の知識しか与えられず、電話のみの利用でどう対応すべきなのかを一緒に考えさせられるのだ。とにかくその設定が秀逸である。

アスガーが外部の上司や同僚にかけた電話での会話により、次第に彼のおかれた立場も明らかになって来るのだが、それにより職務に真摯に取り組む姿勢と、「しょせん電話のみではできることは限られている」という突き放した考えが同居しているのが見えてくる。このあたりのセーダーグレンの演技が非常に上手い。携帯電話の位置情報や女性との会話などから、女性の自宅も分かって来て、そこに残された子供との会話などから徐々に事態が明らかになるようで、どうもすっきりしないもどかしさにとらわれつつ、緊張感は途切れない。どんでん返しもあり、単調な画面に関わらず最後まで退屈するなどということはあり得ない。

やたら派手な展開で惹きつけようとする退屈な大作の対極に位置する秀作である。何度目かの女性の電話でアスガーが女性に反撃を指示するが、これはリスク面でちょっとどうかと思われる。また、最後にもうひとひねりとも期待したのだがそれは欲張り過ぎか。

総合評価 ④  [ 評価基準: (⑥まれにみる大傑作)⑤傑作 ④かなり面白い ③十分観られる ②観ても良いがあまり面白くはない ①金返せ (0 論外。物投げろ)]