「グッドライアー 偽りのゲーム」(2019年・米国)
監督 ビル・コンドン
大筋から細部までちょっとお粗末
(以下、ネタばらし有り)
ベテラン詐欺師ロイ(イアン・マッケラン)が、夫を亡くして間もない老資産家ベティ(ヘレン・ミレン)に出会い系サイトで近づき、その資産を騙し取ろうという話。詐欺師の話は、その過程が如何に巧妙に組み立てられているか、成功するかどうかの緊張感があるかどうかで面白さが決まる。本編も十分に期待させ、当然さらなる裏が有るだろうとも思わせる滑り出しなのだが、ちょっとお粗末すぎる話だ。
ベティに対してと、その前段階の投資家たちを騙す話の内容が、単に「我々の積み重ねた実績に示される通り、この投資により確実に資産が倍になります」というだけの無内容なものなのに、まずあきれるしかない。これにより詐欺話としてはすでに失格なのだが、細部にもいろいろと粗が目立つ。詐欺話には細かいところまでリアリティが重要であるはずなのだが。投資家たちとロイグループの会合で、投資が完了したとたんに、「盗聴器が仕掛けられていた。警察が来る。」となって、投資家たちが逃げ出す仕掛けだが、単に投資の会合で何故すぐに逃げる必要があるのか。またロイは後日、騙された投資家たちに簡単に見付けられて追われるのだが、これがベテラン詐欺師の仕事と言えるのか。しかもその相手の一人など、追われた末に地下鉄のホームでもみあい、電車の前に突き落として殺してしまうのだか、イージー過ぎる対処で、これで済むのなら全て深く考える必要も無いはずであり、とても詐欺のベテランどころではない。
ベティは騙されたと見せかけて別の狙いがある為なのだが、簡単にロイを同居させるのも不自然すぎる。また、投資するにあたって共同口座にしなければならない理由も、金に困っているわけでもないのに全預金をつぎ込む必要性も、全く説得力が無い。当資金が倍になったら、ヨットや豪華旅行ができるとベティが夢見るように言うのも白けるだけだ。今でも十分できる話なのに。
そして、ロイは60年以上昔の第二次大戦直後のナチスがらみの事件で、別人に成りすました人間だとわかったり、ベティの狙いが単に逆騙しでロイの金を奪うだけでなく戦争末期の家族の復讐だと明かされるのだが、やはり唐突感は否めない。ここまでは読めなかったでしょう、とでも言いたいのか、どうにも無理が有る。ベティが家具を運び出した後の屋敷で、騙されたことに気づいて引き返して来たロイに真相を明かす場面で、全く護衛が隠れていないというのも変な話である。
イアン・マッケランとヘレン・ミレンという老俳優の演技で、それなりに最後まで退屈せずに見ることはできるが、やはり大いに期待外れであった。
総合評価 ③ [ 評価基準: (⑥まれにみる大傑作)⑤傑作 ④かなり面白い ③十分観られる ②観ても良いがあまり面白くはない ①金返せ (0 論外。物投げろ)]
「ジョジョ・ラビット」(2019年・独・米)
監督 タイカ・ワイティティ
子どもの眼を通したナチス信奉
(以下、ネタばらし有り)
第二次世界大戦末期のドイツで、ナチスとヒトラーにあこがれながら成長する10歳の少年を通して戦争を描いた映画。父親が戦場に行ったまま行方不明で、母親と二人暮らしのジョジョ(ローマン・グリフィス・デイヴィス)は、ことあるごとに想像上のヒトラーを出現させて相談しながら自分を鼓舞している。ヒトラーユーゲント(ナチス青少年団)加入して訓練を受けるが、自宅では、母親が隠し部屋に匿っていた年長のユダヤ人少女エルサ(トーマシン・マッケンジー)と遭遇し、とまどいつつギクシャクした交流が始まる。教わった通りにユダヤ人は悪い劣等な人間だと信じ込んでいるラビットだが、目前のエルザがそうとも見えず、そのギャップを処理できずに困惑する。そしてそのたびにヒトラーを登場させて相談し、ナチスの教えを信じようと努める姿が笑わせるのである。
国中を支配するナチスの思想に洗脳されているのは、ジョジョも他の大人たちと同様なのだが、それだけで全てを考えることができず、10歳の子どもとしての自然な感性が働いてしまうということがミソなのである。靴紐も満足に結べないジョジョがやがて結べるようになったように、家宅捜索を受けたりなどナチスとの関わりとエルザとの交流が続いていく中で、考え方も変化していく。やがて、秘かに反ナチ活動を続けていた母親が、殺されて広場に吊るされている姿を発見し、その足に取りすがって泣きながら、靴紐をきちんと結び直すシーンは感動を呼ぶ。連合軍のベルリン侵攻で敗戦となるが、部屋に隠れていたエルザにどっちが勝ったのか聞かれて、次第にエルザに好意を寄せるようになっていたジョジョは、エルサと離れたくないためについドイツの勝ちと答えるシーンも面白い。
ナチス信奉者が破滅へと突き進んでいく中で、子どもの眼を通して当時の状況を描くという狙いは成功しているだろうが、そのためにあえて戦争の残虐な面を抑えて、ややファンタジーに流れ過ぎたという嫌いは確かにある。ベルリンの市街戦でも派手に撃ち合って砲撃も続くのだが、飛び散る血しぶきも引き裂かれる肉体も死骸の山も描かれることはないのである。ジョジョの親友のヨーキーも戦場を右往左往しながら結局無事に助かる。また、二人暮らしの母親の死がジョジョに与える衝撃もあまりにもあっさりし過ぎているし、その後の日常にも大きな変化は無いように見える。
母親役のスカーレット・ヨハンセンとドイツ軍大尉サム・ロックウェルは好演だが、監督が演じたヒトラーはいただけない。演技が下手ということなのか、想像上の人物とは言え、あまりに威厳が感じられず、存在感の無い浮き上がった感じだ。
総合評価 ④ [ 評価基準: (⑥まれにみる大傑作)⑤傑作 ④かなり面白い ③十分観られる ②観ても良いがあまり面白くはない ①金返せ (0 論外。物投げろ)]