映画批評&アニメ

◆ シネマ独断寸評 ◆

基本は脚本(お話)を重視しています。
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映画寸評「ハート・ロッカー」

2010年03月26日 10時48分13秒 | 映画寸評

「ハート・ロッカー」(2009年 米)

  監督 キャスリン・ビグナー

 

生死紙一重の緊張感で描いた戦争の現実

 

イラクにおける米軍の爆発物処理班を描いた、ドキュメント風なドラマである。ブラボー中隊の爆発物処理班班長のジェームズは、豊富な経験とスキルで果敢に爆発物の処理に立ち向かう。その勇気あるというより、向こう見ずとも言えるような行動は、同じ班のサンボーン(アンソニー・マッキー)たちをも危険な目に会わせ、軋轢を生むのだが、淡々と成果を挙げていく。しかし、爆発物は次々と現れ、彼らの行動に切りは無く過酷な日常が続く。除隊までの日数がカウントダウンで表示され、その日が来るのが彼らの希望かのように描かれる。繰り返される爆発物処理の現場は細部までリアルに表現されており、その生死紙一重の緊張感は観客にまで確実に伝わってくる。


その緊張感を楽しんでいるかのようにも見えるジェームズの突き進む行動だが、彼は決して悟りきっているわけでも、神経が麻痺しているわけでもない。ちょっと親しくなったサッカー好きのイラクの少年が殺され、体内に爆発部を埋め込まれて利用される現場に立ち会って、本気で怒り悲しむ。死と隣り合わせの緊張感にある種の生きがい、生の充実感を感じてしまっているのであり、自分でもそれに気づいてはいる。満期除隊後の日常生活に適応できず、ラストに彼が選択する行動が、如実にそれを表している。恐らく、ここまでの人物は実在せず、居たとすれば早晩戦死しているであろうが、「戦争は麻薬だ」という一面を的確に表現しており、ドキュメント風な展開によって、違和感を感じさせない出来映えである。


爆発物処理という、あまり知られてはいない戦争の局部から、イラク戦争の現実を描いた傑作で、アカデミー賞作品賞受賞というのも十分うなずける。

 

総合評価 ⑤ [ 評価基準:(⑥まれにみる大傑作)⑤傑作 ④かなり面白い ③十分観られる ②観ても良いがあまり面白くはない ①金返せ (0 論外。物投げろ)]