映画批評&アニメ

◆ シネマ独断寸評 ◆

基本は脚本(お話)を重視しています。
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映画寸評「ダンケルク」

2017年09月27日 13時25分34秒 | 映画寸評

「ダンケルク」(2017年・米国)
監督 クリストファー・ノーラン

臨場感は素晴らしいが説明不足の難
(以下、ネタばらしあり)

第2次大戦初期の1940年、ドイツ軍によりフランス北部の海岸ダンケルクに追い詰められた英仏連合軍の、イギリスへの救出作戦を描いたもの。冒頭よりトミーやアレックスという若い兵士たちの視点で、追い詰められ浜辺で救助を待つ兵士の状況が描かれる。大人数が整列する浜辺を爆撃するドイツ機に対し、彼らは伏せることしかできない。ようやくやって来た駆逐艦に乗り込んだ第一陣は空とUボートによる爆撃で沈められてしまい、桟橋も破壊される。トミーたちが隠れて聞いた指揮官たちの会話によると、40万人の兵士に対し救出作戦は4万5千人を目的としているとのことでもある。絶望的な状況に思える状況が映像と音響で巧みに描かれ臨場感たっぷりで、兵士たちの恐怖が確実に伝わってくる。当欄でも言われているように、IMAXで観なかったのが少々悔やまれるシーンだ。この部分が本作品のクライマックスと言っても良いのではないか。

映画はこの浜辺の1週間と、救出作戦の一員として出航した民間の小舟の1日間、援護のために飛び立ったイギリス戦闘機の1時間が交互に描かれる。つまり、最後に戦闘機が燃料切れで不時着した時間からさかのぼっての1週間、1日間、1時間ということになる。それが判ると、なるほどと思えるが、事前に紹介記事をよく読んでいなかったので、冒頭の字幕だけでは理解できず戸惑った。あの字幕だけでこの変則的な構成が理解できる人は少ないのではないか。上述したような起点となる日時等、何らかの表記が不可欠と思われる。

戦闘機の空中戦もなかなか良く出来ていたが、沈没船から民間船に救助された兵士のパニック症状をめぐる出来事や、浜辺に座礁した船にもぐり込んだ兵士たちのエゴイズムと恐怖を描いた、個々のエピソードはあまり良い出来とは言えない。最も気になった点は、序盤の絶望的な状況から終盤のスムーズな救出場面への唐突とも思える転換である。確かに想定以上ともいえる民間の小舟900隻の到着や、イギリス戦闘機の個別的勝利が描かれており、その意味は大きいのだが、それでドイツ軍の攻撃が終了したかのような描かれ方だ。特にUボートはどうなったのだ。結果的に33万人が救出されたとのことだが、実際はイギリス軍、フランス軍それぞれが別の地点で救出作戦成功のために犠牲的防衛戦を遂行しており、イギリス空軍もかなりの犠牲を出しており、ドイツ軍内の戦況判断の問題等も絡んでいたとのことである。もうちょっと大局的な戦況説明が欲しいところである。

大局的な戦況云々よりも、戦場の迫力、大画面の臨場感が評価されるべき映画ではあるのだが、戦況の位置づけがないままに、落ち込んで帰還した兵士たちを迎える最後のイギリス国内の万歳状況を描いたため、そのシーンがとってつけたように浮いて見えるのであろう。

総合評価 ③  [ 評価基準:(⑥まれにみる大傑作)⑤傑作 ④かなり面白い ③十分観られる ②観ても良いがあまり面白くはない ①金返せ (0 論外。物投げろ)]