映画批評&アニメ

◆ シネマ独断寸評 ◆

基本は脚本(お話)を重視しています。
お勧めできるか否かの気持を総合評価で示しています。

映画寸評「ノーボーイズ、ノークライ」

2009年08月31日 19時42分18秒 | 映画寸評

「ノーボーイズ、ノークライ」2009年 日・韓国)

  監督 キム・ヨンナム

 

お粗末極まる脚本で空回りの熱演

 

韓国から日本へ麻薬その他の物を密輸する裏組織のボス・ボギョンに使われている日韓のチンピラ・亨(妻夫木聡)とヒョング(ハ・ジョンウ)の友情と、それぞれの家族愛を描いているらしい。秀作「ジョゼと虎と魚たち」「メゾン・ド・ヒミコ」の脚本家・渡辺あや脚本とのことなので期待させられたが、どうしたらこんなにつまらないお話が作られるのか尋ねてみたくなるような駄作である。前2作もあるいは監督(犬童一心)の力量によるだけなのかもしれないと思えてくる


ボギョンが誘拐した韓国企業の重役の娘をヒョングが小船で日本に運び、ホギョンに届ける前に齟齬が生じ、結局、亨に巻き込まれ、金のために組織を裏切って、二人で娘を匿いやはり逃げ隠れしている重役(娘の父)を探すことになる。ここまでの発端は良しとしても、この後、亨の家族(ボケた祖母と、父親違いの3人の幼児を育てる妹)や亨の元の彼女などの描写が無意味にだらだらと続き、退屈させられる。さらに組織に見つかりそうになり、家族ごと車で移動しホテルに隠れたりするが、それまで同様、緊迫感の無いこと甚だしく、亨とヒョングが街中の広場で行われているカラオケ大会に飛び入り出場してデュエットで熱唱するというアホらしさ。さらに、ボギョンからヒョングの携帯に初めてかかってきた(なぜ今頃初めてなのか)らしい電話で、ヒョングが子供の時に彼を捨てて逃げた母親を捕まえているので殺す、と脅かされただけで、娘をボギョンのところへ連れて行こうとする。案の定母親を捕まえているというのはウソ。ヒョングと亨のやり取りが続き、結局、娘を連れずにヒョングのみボギョンのところへ出向いて、簡単に殺されてしまい?亨が泣き叫んでお終い。何のこっちゃ。


確かに主役二人の熱演は伝わってくるが、このお話では空回りと言うほか無いだろう。

 

総合評価 ① [評価基準(⑥まれにみる大傑作)⑤傑作 ④かなり面白い ③十分観られる ②観ても良いがあまり面白くはない ①金返せ (0 論外。物投げろ)]

 

 

 

 

 

 

 


映画寸評「コネクテッド」

2009年08月12日 10時25分23秒 | 映画寸評

「コネクテッド」2009年 香港)

  監督 ベニー・チャン


緊迫感途切れぬ上出来リメイク


2004年のハリウッド映画「セルラー」のリメイク版。誘拐された女性から唯一偶然につながった携帯電話の持ち主、無関係のサラリーマンがなりゆきから女性救出のために大活躍する、というストーリー。その携帯電話のみが女性との繋がりであり救出に向けて右往左往しながら通話を続ける、というアイデアが秀逸であり、「セルラー」も非常に面白かった。リメイクで基本設定を踏襲している以上、オリジナル版を超える内容を持つことが要求されることになる訳だが、その意味でこの作品は十分に及第点だ。


元特別捜査隊で今は交通警官に降格されているやり手の警官を脇役にからませ、腐敗警官を含む「セルラー」には無い設定や、スーパーヒーロー並みのアクションシーンの数々は、それぞれ良くできている。過激なカーチェイスやアクションは、成り行きではまり込んだ気弱なサラリーマンとしてはいささかやり過ぎにも思えるが、まあそれはそれで結構楽しませてくれる。主人公たちのシングルマザー・シングルファーザーという設定も一味つけたものとしてうまく活かされている。最後にどんでん返しもあり、緊迫感は途切れない。単にスケールアップしただけのリメイク物もあるが、リメイクするならこれくらいのものを作るべきだという見本になるような作品である。

また、各シーンで携帯電話が重要な道具として使われているが、完結後のエンドロール(クレジットロール)にもうまく使われているのには笑った。

総合評価 ⑤ [評価基準(⑥まれにみる大傑作)⑤傑作 ④かなり面白い ③十分観られる ②観ても良いがあまり面白くはない ①金返せ (0論外。物投げろ)]

 


映画寸評「ディファイアンス」

2009年08月09日 07時53分43秒 | 映画寸評

 「ディファイアンス」2008年 独・チェコ・仏)

  監督 エドワード・ズウィック


集団逃亡の実話に基づく感動作


遅ればせながら名画座で見た。ナチス・ドイツに両親を虐殺されたユダヤ人の3兄弟は、森の中に逃げ込み、抵抗しつつ隠れた移動生活を始める。他から逃げてきた女性や老人子供など弱者も受け入れ、やがてゲットーからの集団逃亡も手助けし、多人数となって森の中での集団生活を続け、最終的に1200人が生き延びたという実話に基づいている。


単なるゲリラ部隊ではなく、戦闘しつつも食料調達を始めとして厳寒の中での集団生活の困難さが描かれており、リーダーである長男の統率力による秩序ある行動が感動を呼ぶ。そのリーダーも、ヒーローとしてではなく人間的な弱さや葛藤も描かれているが、集団の中の反抗的な行動をとる人物に対する処置の瞬間的決断など、説得力がある。このような組織的行動の成否は、その時々の歴史的政治的社会状況と自然環境、彼我の力関係等と、もちろん「運」という偶然性に規定されることは言うまでも無いが、リーダーの力量と人間性に大きく左右されるのもまた事実である、ということを再確認させられた。立場と状況は全く異なるが、昨年の「実録・連合赤軍 浅間山荘への道程」の連合赤軍と比較し、その思いを強くした次第である。


また、弱者を抱えた集団ではなく、戦闘能力のある者だけのレジスタンス部隊を目指して袂を別かった弟がやがて合流する、進駐してきているロシア赤軍の対ナチス抵抗部隊との関係の描き方も興味深いものがある。

余談だか゛、007でもジェームズ・ボンドを好演している主役のダニエル・クレイグは、故スティーブ・マックィーンと体形・雰囲気が似ており、マックィーンファンとしてはなかなかに好ましい。

総合評価 ⑤ [評価基準(⑥まれにみる大傑作)⑤傑作 ④かなり面白い ③十分観られる ②観ても良いがあまり面白くはない ①金返せ (0論外。物投げろ)]

 


映画寸評「不灯港」

2009年08月09日 07時46分41秒 | 映画寸評

「不灯港」2008年 日)

  監督 内藤隆嗣

 

無意味・無内容な大駄作

 

全くの駄作である。港町に一人暮らしの38歳の漁師、万造は、一人暮らしにいやけがさし結婚したがっており、町役場主催の集団見合いにも参加するが不器用で全くうまくいかない。そこに、男に逃げられて行き場の無い女が男の残した子供と共に、留守中の万造の家に入り込み冷蔵庫の食物を食べたり睡眠したりしていることに気づき、一旦は現場を押さえて追い出すが、呼び戻して擬似家族としての生活が始まる。万造は女に夢中になるが、女は子供に仮病を使わせ、入院費が必要、と万造が船を売って作った金を一人持ち逃げし、万造と子供の生活が始まる、いうストーリーである。


ストーリーは他愛が無いものでも各シーンで引き付けたり笑わせるものであればそれでよいが、全く見るべきところの無い不自然なシーンが多すぎる。展開が例え荒唐無稽のようでも各シーンにはそれなりの説得力が無ければならない。子供が高熱を出して入院させなければならない、金が要る、と言いつつ、病院には連れて行かないで、翌日いきなり船を売る、という展開にはあきれるが、買い手と値段が折り合わず、あわてた万造が船の他に諸々の家財道具を付けるということに、何故なるのか。入院費というのはいくらかかるのか。また、細かいことでは、集団見合いに申込むため役場に行った男たちが受付で姓名を名乗るが、万造は「万造」とのみ言って姓を言わない。後の場面では「石黒万造」と名乗っているのであるが、うるさ型のような受付の女性はなぜそのまま受け付けてしまうのか。見合いパーティ用のおしゃれ服を買いに行った万造が店主に勧められたスーツを試着もしないですぐに買って、大きさは合うのか。


途中、荒唐無稽でファンタジーになるのか、それならそれで面白くなるかもしれない、と思ったりもしたがそうでもない。説明を省いたぶつ切りのハードボイルド風のセリフは必ずしもいやではないが、成功しているとも言いがたい。さらに主役以外の役者の演技も総じて下手である。


弱冠28歳の新人監督とのことで、応援する気持ちがあるのかもしれないが、このような作品を持ち上げる批評家がいて、それにつられて観てしまったが全く腹が立つ。人によって好き嫌いが分かれる、というレベルのものでは絶対にない。

 

総合評価 0 [評価基準(⑥まれにみる大傑作)⑤傑作 ④かなり面白い ③十分観られる ②観ても良いがあまり面白くはない ①金返せ (0 論外。物投げろ)]

 


映画寸評「レッドクリフ Part II」

2009年08月09日 07時38分49秒 | 映画寸評

「レッドクリフPartⅡ 未来への最終決戦」

2009年 米・中・日・台湾・韓国)

  ジョン・ウー監督

 

観るべきは壮大な戦闘シーンのみ

 

見所は繰り返される大規模な戦闘シーンである。大人数の兵士と騎馬が入り乱れ、矢の雨、投擲による火攻め、城壁の攻防など、かなりの迫力であり一見の価値ありと言える。特に、縦列の歩兵がしゃがんで、上部と左右を盾ですっぽり覆った陣形で敵の矢を防ぎながら前進する、というアイデアには感心した。


それに対し、三国志としての大筋のストーリーはともかく、各エピソードのお粗末さにはあきれてしまう。将軍・孫権の妹・尚香が敵陣に潜り込んで男装のスパイとなり、まったく安直に敵の小隊長と親友となる。敵の配置図を長い布に描きとって体に巻きつけて戻るのだが、あのような詳細図をいつどのように描いたのか(しかもその都度裸になりながら)。さらに最後にはこの小隊長が安直な対面の直後に戦士して尚香の安っぽい号泣シーンもある。それから、敵軍・曹操の陣営で伝染病が流行り、隔離された将兵に対し総大将が熱烈なアジ演説をすると、病人たちが立ち上がり共に戦おうとするのだが、おいおい、感染の心配はどうなったのだ、何のために隔離されていたのだ、と言いたくなる。また、終盤で将軍・周ユの妻が唐突に単身敵地に乗り込み、曹操軍の総大将が自分に気があることを利用して、開戦までの時間稼ぎをするのだが、案の定、最後に人質とされ、砦を攻め落として迫ってくる周ユたちに向かって「この女を死なせたくなかったら刀を捨てろ」と言われることになるのだ。まったくこの女は何考えとんじゃ、と思わせる。そしてこのようなシチュエーションの後で、史実に背けないのだろうが、周ユ達は敵将の命をとらず引き上げるのである。


こうなってくると、映画冒頭でジョン・ウー監督から日本人に対して送られた勇気や連帯のメッセージも白けてしまう。大宣伝に対しては、つい辛口評価ととなりやすいのではあるが、繰り返して、戦闘シーンのみは良かった、と言いたい。

 

総合評価 ③ [評価基準(⑥まれにみる大傑作)⑤傑作 ④かなり面白い ③十分観られる ②観ても良いがあまり面白くはない ①金返せ (0 論外。物投げろ)]

 


映画寸評「インスタント沼」

2009年08月06日 17時16分59秒 | 映画寸評

「インスタント沼」2009年 日)

  三木聡 監督


ゆるーいギャグが惹き付ける三木ワールド

 

ストーリーよりも各シーンごとの面白さで笑わせる、三木聡監督らしい、ゆるーい映画であり成功作と言える。「沈丁花ハナメ」役の麻生久美子のコメディエンヌとしての演技もなかなかである。特に印象に残ったのは、ライターと一緒に「猛臭ラーメン」を取材に行って帰った後の編集会議で、臭いに閉口する編集長たちに「しょうがないでしょうっ」と繰り返し絶叫するシーンだ。「可愛面白」とでも言うべきか。


繰り返しのギャグで最も笑ったのは、会社帰りらしいサラリーマン風の中年男が携帯電話でしゃべりながら、2階にハナメのアパートがある四辻まで来て、窓から見えるその都度異なるシュールな光景にびっくりして、そそくさと立ち去る、というものだろう。胡散臭い骨董品屋の風間杜夫や気弱なパンクロッカー加瀬亮もそれぞれ好演してはまっているまた、演技ではないが、「大阪ハムレット」の時よりもさらに太った松阪慶子の開き直り?ぶりにも脱帽物である。

 

 三木監督作品は人によって好き嫌いが大きく分かれる映画だろうが、個人的には「イン・ザ・プール」で引き付けられ、「亀は意外と速く泳ぐ」でおおいにがっかりし、「転々」で再評価していたので、この映画でさらに続けて観ようと思わせられた。

 

総合評価 ④ [評価基準(⑥まれにみる大傑作)⑤傑作 ④かなり面白い③十分観られる ②観ても良いがあまり面白くはない ①金返せ (0 論外。物投げろ)]