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映画批評&アニメ

◆ シネマ独断寸評 ◆

基本は脚本(お話)を重視しています。
お勧めできるか否かの気持を総合評価で示しています。

映画寸評「クローズ EXPLODE」

2014年04月28日 07時42分01秒 | 映画寸評

「クローズ EXPLODE2013年 日)
 
監督 豊田利晃

「けんか映画」に夾雑物が多すぎる

高橋ヒロシの漫画を原作とする映画の3作目。古くは「けんかえれじー」などから続いて日本映画に1ジャンルをなす「けんか映画」。

悪名高い鈴蘭高校に鏑木(東出昌大)が転校して来た時、けんか勢力の頂点(てっぺん)を目指す争いは、強羅(柳楽優弥)がリードしながらも混沌としていた。そこに黒崎工業高校や、黒崎を退学し少年院帰りの藤原(永山絢斗)らがからんでくる。やがて、藤原らが高校生を敵視し、両校のけんかグループを片っ端から襲って痛めつけたことから、彼らと鏑木の対決に向けて状況が煮詰まっていく。そして藤原らのトップとしては、藤原が新たに所属した暴力団の死んだ幹部の息子である、鈴蘭の新入生加賀美(早乙女太一)がいるのだが、彼の位置づけはわかりにくい。あるいは、自分が漫画も前2作も見ていないせいなのか。東出は群れずに陰のある男を好演しており魅力的なのだが、最後に鏑木が勝つまでの、数々のけんかシーンは鏑木以外の面々のものがほとんどで、物足りない。

これらのけんか映画の魅力は、死者や重度身障者が出てもおかしくないようなけんかを、「高校生のけんか物」という枠組みの中で疑似スポーツ的に描き、けんかを通して、青春のエネルギーや根性・友情などを表現するものとしてあると思われるが、本作は変に現実の要素を絡ませた、その他の夾雑物が多すぎる。足を洗った元暴力団の健一が勤めることになった中古車販売店を、力ずくで立ち退かせようとする暴力団の話や、そこに所属した藤原のあいまいな位置づけと心情の描写など。さらに父親の死で子供の時に鏑木が預けられた児童施設の話や、半端に吐露される各高校生の家庭の事情など。また、高校生が出入りするロックのライブをやっているクラブのシーンも度々入り、無駄に冗長なものになっている。けんかや集団乱闘のシーンは、なかなかに見ごたえがあるのだか、途中で何度もだれてしまう。余談ながら、仲村トオルのデビュー作「ビーバップハイスクール」の1作目・2作目がすっきり面白かったのを思い出した。群れずにいた鏑木が最後に勝った後は、結局皆で群れて「鈴蘭の鏑木だー」と叫ぶのもしっくり来ない。

なお、映画の最後に「未成年の喫煙・飲酒は違法」「放火は犯罪」と、とってつけたように言い訳字幕が入ったが、それを言うなら全編を通して暴行罪・傷害罪のオンパレであろう。

総合評価 ② [ 評価基準(⑥まれにみる大傑作)⑤傑作 ④かなり面白い ③十分観られる ② 観ても良いがあまり面白くはない ①金返せ (0 論外。物投げろ)]

 


映画寸評「ローン・サバイバー」

2014年04月13日 10時11分24秒 | 映画寸評

「ローン・サバイバー」2013年 米)
 
監督 ピーター・バーグ

迫力ある銃撃戦で米兵賛美

2005
年アフガニスタンにおいて、米海軍特殊部隊ネイビー・シールズの失敗した作戦で敵地から1人のみ生還したという、実話に基づく映画。こういう宣伝とタイトルから考えて、敵地から脱出するサバイバルものと思ってみたのだが、映画の中心は激しい銃撃戦である。

タリバンの幹部暗殺のために、敵地の山岳地帯にヘリコプターから降下したラトレル(マーク・ウォルバーグ)ら4人は、任務遂行の前に地元の山羊飼いたちに見つかってしまう。彼らを殺すか、束縛して放置するか、見逃すかの選択を迫られるが、束縛したままだと狼に食われるか凍死するので、結局、見逃して解放することとし、作戦はあきらめて敵地から脱出することを目指す。そして、予測したとおりに、山羊飼いから通報を受けた多数のタリバン兵に包囲されてしまう。その後は激しい銃撃戦を繰り返しながらの撤退場面が繰り返される。銃撃戦は緊迫感・迫力があり、なかなかに見せる。また、その中でラトレルたちの互いへの信頼感が強く描かれ、命がけで任務に当たる彼らを称賛するものとなっている。無線担当が命がけで無線を成功させたものの、救助に来たヘリコプターもロケット砲で撃墜されてしまう。後は死に物狂いで銃撃を繰り返しつつ動き回るのみのこととなる。

結局ラトレルのみが、運よく反タリバン派の村人たちに遭遇し助けられるのだが、したがって実話だからやむを得ないとしも、ストーリー的な盛り上がりはない。一方では、撤退しながら彼らは何度も崖から転げ落ちるのたが、たびたび岩や大木にたたきつけられて、誰も骨折した様子がないのはちょっとやりすぎで、せっかくのリアルな感じが台無しである。それと、山羊飼いを解放するにあたって、何の工夫もないのは変ではないか。たとえば素人の自分でも上半身のみを強く縛って開放するくらいのことはすぐに思いついたのだが。案の定、岩場を飛ぶように駆け降りた若者によってあっという間にタリバンに通報が行ってしまったのだが。結局、任務遂行のためタリバンと命がけで戦う米兵を単純に賛美する宣伝映画となっていて、タリバンは大嫌いな自分でも素直には受け入れられないものである。

総合評価 ③ [ 評価基準(⑥まれにみる大傑作)⑤傑作 ④かなり面白い ③十分観られる ②観ても良いがあまり面白くはない ①金返せ (0 論外。物投げろ)]

 


映画寸評「それでも夜は明ける」

2014年04月10日 17時46分17秒 | 映画寸評

「それでも夜は明ける」2013年 米)
 
監督 スティーブ・マックイーン

奴隷制のリアルな描写で圧倒

南北戦争より20年前のアメリカ南部における奴隷制をリアルに描写した映画。当時も北部諸州には奴隷ではない自由黒人という身分の黒人がいて、主人公のソロモン・ノーサップ(キウェテル・イジョフォー)がそうであり、彼はバイオリン奏者として妻子とともに恵まれた生活を送っていた。ところが騙されて拉致され、南部に奴隷として売られていき解放までの12年を、名前もプラットと変えられて耐え忍ぶこととなる。結局12年後に、北部からの自由主義者である旅人へ手紙を託すことができて、運よく解放されたという実話に基づくストーリーである。

ストーリー的には特別な盛り上がりはなく、奴隷生活の赤裸々な描写が観客を圧倒するのである。当然ながら、自由黒人であったソロモンの目には奴隷制の全てが理不尽なものとして感じられ、観客と同じ見方のものとして映る。最初は当然、扱われ方に反発し、自由になる方法があるはずだと思っていたが、圧倒的な現実を受け入れざるを得ないことを理解して耐えることになる。主人の気分次第で運命がどうにでも変わってしまう奴隷として、どこまで自己の主体を保つことができるのかを常に自問しつつの生活となる。偏執的性格の主人エップス(マイケル・ファスベンダー)の命令とあれば、優秀な女奴隷のパッツィー(ルビタ・ニョンゴ)を鞭打つことも断れず行ってしまう。また、ソロモンが罰として爪先立ちの状態で木に吊るされているときも、周りの奴隷たちには何もできず、むしろ気にも掛けていないかのようにも見える。あるいは、ソロモンの前の主人フォード(ベネディクト・カンバーバッチ)のように奴隷に対し人間的な扱いをしようとし、ソロモンの能力を高く評価している白人であってもそれ以上のことはできずに、金のためにソロモンたちを売り払ってしまう。さらに、結局手紙の投函でソロモン救出のきっかけとなる自由主義の旅人(流れ労働者)であるバス(ブラッド・ピット)でさえも、それが精いっぱいの行為だと述べる。全て、奴隷制を当然のものとしている社会で権力の支配体制に大なり小なり従わざるを得ない人間の姿なのである。監督は奴隷制の過酷な実態を描くと同時に、この点についても我々に問いかけているかのように思えた。

字幕の後日談でも語られているように、ソロモンのように助かった例はごく少ないとのことだし、まして、元から救出の望みなど持てない大多数の黒人奴隷たちのことを思うと、アメリカの民主主義の背景にあった奴隷制を改めて反省させる映画としての意味合いはやはり大きい。

総合評価 ④ [ 評価基準(⑥まれにみる大傑作)⑤傑作 ④かなり面白い ③十分観られる ②観ても良いがあまり面白くはない ①金返せ (0 論外。物投げろ)]