「沈まぬ太陽」(2009年 日)
監督 若松節朗
テーマのつぎはぎ感が否めぬ大作
昨年度の各種映画賞受賞作とのことで、遅まきながら観た。
日本航空をモデルに、ジャンボ機の御巣鷹山墜落事故を一つの柱に、労働運動、派閥抗争の中で真摯に生きた企業人が主人公のドラマである。労働組合の委員長である恩地(渡辺謙)は会社との交渉に勝利するが、その後、報復人事により海外勤務を命じられ、当初の約束と異なりカラチ・テヘラン・ナイロビと長期に亘る結果となる。恩地は結果的にそれを受け入れ、各赴任地で真剣に業務を遂行した後、帰国し、折からのジャンボ機墜落事故の現地責任者として、遺族に対し誠意ある対応を心がける。また一方、会社再建のため政府より指名された新会長(石坂浩二)の元で企業上層部の不正を糾そうと活躍する。元労組副委員長でその後、事故の出世のみを追求する行天(三浦友和)との対比で、恩地のまっとうな企業人としての生き方は良く表現されており、2人とも好演している。
また、御巣鷹山事故とその後の遺族の問題を描いたドキュメンタリー風ドラマとしても十分に見応えのあるものとなっている。しかし、このテーマと企業内正義を求める社内抗争のドラマは安全性問題以外、関連付けは弱く、結局どちらも中途半端な結果となってしまっている。現実の日本航空の事実がまさにそうだったからといえばそれまでであり、現に今日の会社破綻に陥った状況となっているのではあるが。
さらに、タイトルにもなっている「沈まぬ太陽」はケニアの自然を謳っているのだが、それは傷心の恩地を慰めるものでは有っても、ドラマの本筋とは結びつかない単なる背景でしかない。実際、アフリカの自然・社会に関する掘り下げは全く無く、悠久の大地、といった自然と野生動物が描写されるのみである。
最終的に社内改革は中途半端に頓挫し、事故の遺族対応セクション勤務を希望する恩地はまたも会社に裏切られ、ケニアへ赴任を命じられるが、上記の大自然に慰めを見出してそれを受け入れることになる。こうなると、「企業人としての生き方を真摯に追求する主人公」という言葉の前に「一企業に縛られた」という修飾語が必要になってくると思われる。
力の入った大作で見応えはあるが、人物描写は類型的で、つぎはぎ感が否めぬ作品である。
総合評価 ③ [ 評価基準:(⑥まれにみる大傑作)⑤傑作 ④かなり面白い ③十分観られる ②観ても良いがあまり面白くはない ①金返せ(0 論外。物投げろ)]