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映画批評&アニメ

◆ シネマ独断寸評 ◆

基本は脚本(お話)を重視しています。
お勧めできるか否かの気持を総合評価で示しています。

映画寸評「レッド・ファミリー」

2014年10月17日 17時47分45秒 | 映画寸評

「レッド・ファミリー」(2014年 韓国)
監督 イ・ジュヒョン

コメディタッチで描く北工作員の悲哀

仲の良い4人家族を偽装して韓国に入り込んだ北朝鮮工作員たちの話。にこやかに隣の家族に挨拶して家に入るなり、妻役のリーダーが夫役のミスを厳しく責め、他の者は直立姿勢で「班長同志!」と緊張する場面への転調で、まず笑わせると同時に状況設定を提示する手法が秀逸。4人家族は夫婦に娘と夫の父親という構成だが、隣家も夫婦に息子と夫の母親というそれぞれ同年代同士の構成で付き合いが始まり、それを通して工作員たちの苦境があぶりだされていく。

彼らは協力し合いながらも相互監視という状態に置かれ、さらに外部から連絡・指導係や監視者たちの目も光っていて、任務に忠実かどうかという一点のみが常に問われている。情報収集の他に脱北者の暗殺も指令されるが、躊躇は許されない。任務を遂行しなければ北に住む彼らの家族に害が及ぶことになるという設定が繰り返し語られ、我々にその実情は定かでなくてもいかにも「さも有りなん」と思わせる。工作員たちの偽装家族と対照的に隣家はけんかばかりしているダメ家族で、特に妻が家事もできずマナーも守らぬ浪費家としてオーバーなダメぶりである。北の思想自体には忠実な工作員たちが隣家のくだらないけんかを見ては、「資本主義のダメさの現われ」と嘲笑う場面に度々笑わされる。馬鹿にしながらもにこやかに付き合っていくうちに、工作員たちそれぞれに個人的な感情も芽生えていき、本当の家族である隣人をうらやましく思ったりもする。その思いは土壇場での彼らの行為に噴出し、感動的である。妻役の班長の状況判断の誤りから起こした重大なミスが元で、隣家の四人を殺害せよという命令が来て、工作員たちはさらなる苦境に陥り、悲劇的な結末に至るまで、笑わせながらシリアスな展開がだれることなく続く。

いわば「家族を国家によって人質としてとられている家族思いの工作員」という設定で、北朝鮮の抑圧体制を端的に表すとともに、問題多いダメ家族でも好き勝手を言い合って自由にふるまえる韓国、という対照で北朝鮮を糾弾しつつ、個々人の人間性を国家とは別の尊重すべきものとして謳っているのであろう。そのためのキーワードとして「家族」を取り上げていて、それがうまく成功して傑作となり得ている。玉石混交で低迷していた時期もあった韓国映画が、ここのところ勢いづいているように感じられる。

総合評価 ⑤  [ 評価基準:(⑥まれにみる大傑作)⑤傑作 ④かなり面白い ③十分観られる ②観ても良いがあまり面白くはない ①金返せ (0 論外。物投げろ)]


映画寸評「テロ、ライブ」

2014年10月02日 09時35分33秒 | 映画寸評

 

「テロ,ライブ」2013年 韓国)
 
監督 キム・ビョンウ

斬新な手法でサスペンスを表現

自らの主張をテレビによって伝えたいテロの犯人と、独占スクープで視聴率を上げたいテレビキャスターが電話でやり取りしつつ、リアルタイムで爆破テロが進行するというサスペンス映画。かつての不祥事によりテレビからラジオに左遷されていたキャスターのヨンファ(ハ・ジョンウ)の番組に脅迫電話が入り、その直後に漢口にかかるマボ大橋が爆破される、という導入部から引き込まれる。テレビ復帰のチャンスと捉えたヨンファは、報道局長(イ・ギョンヨン)と掛け合いテレビ中継に切り替えて、断続的に犯人とのやり取りを放送する。犯人の目的は2年前の改修工事で死んだ3人の作業員に対する大統領の謝罪というものだが、当然、政府は受け入れるはずもない。ユンファはさらなる爆破による人命被害を防ごうと、犯人の要求が実現しつつあるかのように中継を続けるが、犯人逮捕優先の警察や視聴率のみが目的の局上層部は、死者が出ても犯人の動機に同情が集まらなくて好都合という考えなので、やがて取り繕いは破綻し爆破が続くことになる。

出世のみが狙いの報道局長と同様に見えたユンファが、自身の命も危ない仕掛けを知らされたこともあって、何とか大統領の謝罪を実現させようと躍起になる変化をハ・ジョンウが好演している。スタジオにあるテレビ画面での現場中継と、ハ・ジョンウのスタジオ内での演技のみで話は進むが、だれることなく徐々に緊迫感は強まり、最後まで目を引き付ける。下層労働者に対する支配層の対応を告発する犯人の目的が事件に重みを持たせており、メディアも告発対象であることが明らかになる。その社会問題に対する掘り下げはそれ以上には進まず、政府・警察の対応は余りに一麺的に描かれてはいるが、それらを踏まえてのユンファの最後の選択が説得力を持つ。

電話のやり取りで犯人と喧嘩になってしまう警察の長官や、自己利益のみ考える報道局長の描き方も類型的すぎるし、爆破現場の被害者たちの行動ももっとやりようがあろうと思われ、また、犯人はどうやってあれほどの仕掛けが可能だったのか、などなど粗もある。しかし、ほぼスタジオのみを正面から映し続けるだけでサスペンスを高める手法は斬新で、十分引き付けられるものとなって成功している。

総合評価 ⑤ [ 評価基準: (⑥まれにみる大傑作)⑤傑作 ④かなり面白い ③十分観られる ②観ても良いがあまり面白くはない ①金返せ (0 論外。物投げろ)]