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映画批評&アニメ

◆ シネマ独断寸評 ◆

基本は脚本(お話)を重視しています。
お勧めできるか否かの気持を総合評価で示しています。

映画寸評「ハクソー・リッジ」

2017年07月26日 05時55分26秒 | 映画寸評

「ハクソー・リッジ」(2016年・米・豪)
監督 メル・ギブソン

戦争の矛盾を体現する主人公

人を殺さず銃も持たないという宗教的信念を持って、1945年5月の沖縄戦に衛生兵として派遣された米兵の話。デズモンド・ドス(アンドリュー・ガーフィールド)は当時のアメリカではある程度認められていた良心的兵役拒否の道を選ばず、宗教的信念のもとでも国に貢献したいと衛生兵としての参戦を希望して入隊する。

軍隊での訓練の中で、周囲から臆病者・厄介者と見られてリンチに会ったりもするが、本人も自分の位置づけを理解しているため、それらに反発することなく人一倍熱心に訓練をこなす。リンチの犯人を上官に問い詰められても明かさず、ひたむきに進む姿勢に、同期兵たちも次第に一目置くようになる過程がうまく描かれ、前半も飽きさせることは無い。沖縄のハクソー・リッジ(のこぎり崖)に着いてからは一転して至近距離での銃撃戦が始まり、頭を撃ち貫かれ、手足が引きちぎれ、はらわたがはみ出し、火だるまになる凄惨な場面が続くが、それらを徹底的に描写することで戦争のひとつの真実を伝えているのは確かである。このシーンの凄惨さが過去の多数の戦争映画を上回るのは大方の認めるところであろうし、監督の狙いは成功している。

ドスは一人でも多くの人命を助けたいと、殺し合いのさ中で手当てして回る。しかし手当てする余裕を得るためには、攻撃してくる敵兵を防がなくてはならず、味方が敵兵を銃撃し続けることよってドスの行為が成り立っているのである。負傷兵を引きずって逃げる最中に、引っ張られる負傷兵が追ってくる敵兵を一人また一人と殺し続けないとたちまちドス共々殺されてしまうのである。ドスが自ら手を下さないとしても、「殺すなかれ」というドスの信念は、「救うために殺す」という事実とはっきりと矛盾しているのである。これは戦争という絶対悪のもとでは避けられないことであろうし、大きく言えば「正義のための戦争」などという言葉の自己矛盾と同列のものであろう。とは言え、ドスの立場としてどのような選択肢があるのかと言えば、絶対的な正解は無く、良心的兵役拒否よりも銃を持たない参戦を選んだドスとしては、その是非を問うことは無くても、それを貫き通す困難に打ち勝ったのであり、やはり立派であると言えよう。

難点は、当欄でもすでに指摘されているように、なぜ日本兵は縄梯子を切り落とそうとしなかったのかということである。崖上を制圧した状態で、なぜドスがいる崖際まで追撃してこなかったのだろう。またもうひとつは、崖から次々と負傷兵が降ろされて来るのを見た米兵が、見ているだけで誰一人応援に行こうとしなかったのかということである。ドスが75人の命を救ったという実話を基としての映画なのだが、実際のそのあたりはどうなっていたのだろうか。また細かいことでは、ドスがベジタリアンであると中盤以降に唐突に明かされるのだが、それまでの軍隊での食生活はどうしていたのだろうか。しかしながら、これらの穴にもかかわらず、全編を通しての緊迫感と迫真性は十分に優れており、監督としてのメル・ギブソンの手腕を評価したい傑作である。

日本兵の描き方に特に問題は感じないが、終盤とエンドロールを見るとアメリカにおける一種のハッピーエンドと描かれているような感じがする。それでも、前述の戦闘の凄惨な描写の徹底に於いて、監督の意図か否かに関わらず、一つの反戦映画となっているのは確かである。

総合評価 ⑤  [ 評価基準: (⑥まれにみる大傑作)⑤傑作 ④かなり面白い ③十分観られる ②観ても良いがあまり面白くはない ①金返せ (0 論外。物投げろ)]


映画寸評「コンビニ・ウォーズ ~バイトJK vs ミニナチ軍団~」

2017年07月19日 07時38分34秒 | 映画寸評

「コンビニ・ウォーズ~バイトJK vs ミニナチ軍団~」(2016年・米国)
監督 ケビン・スミス 

身内で遊んでいるだけの大駄作

ジョニー・デップの娘と監督の娘が女子高校生役で主演したコメディ。二人のバイト先のコンビニの地下で眠っていたミニナチ軍団が目覚めて現われ、二人がそれらと戦うという話だが、見るべきところは全くない。いろいろな映画であらゆる角度からテーマに取り上げられているナチスという素材に便乗し、今風の女子高生・コンビニバイト・ヨガを組み合わせてみただけのもの。

最も馬鹿馬鹿しいことは、ミニナチ軍団と戦うと言いながら、それらは二人がモップで叩き潰すだけでやられてしまう弱いクローンでしかないことであろう。気がつかないうちに男の肛門から体内に入り込んで移動し口から出てきて殺す、という登場の仕方をしたミニナチの脅威はどこにもない。二人はヨガの技などと口走るが、ただ手足を振り回しているだけのアクションである。何のひねりも無く、単にSF・ホラー・アクション・ドタバタなどの思い付きを並べて遊んでいるだけの映画である。親ばかB級映画などとも紹介されたりしているが、B級映画とは、金をかけていず傑作とは言えなくてもそれなりに楽しめるところのある映画を言うもので、こんな単なる親バカのお遊びをまともに取り上げる批評家に腹が立つ。映画館では、冬眠から覚めた元ナチス派幹部の男がとってつけたように行う映画俳優の物まねシーンで笑っている人もいたが、そのほかはほとんど笑いは起きなかった。

エンドロールでは、楽屋うちのひそひそ話が流れ、仲間内でクスクス笑う声が入るのだが、当然面白くも何ともなく煩わしいだけで、この映画の性格を端的に表している。今まで観た映画の中で最悪のエンドロールである。

総合評価 ①  [ 評価基準: (⑥まれにみる大傑作)⑤傑作 ④かなり面白い ③十分観られる ②観ても良いがあまり面白くはない ①金返せ (0 論外。物投げろ)]