「 ゴーストライター」(2010年 仏・英・独)
監督 ロマン・ポランスキー
優れた描写で惹き付けるがミステリーは不出来
元英国首相のアダム・ラング(ピアース・ブロスナン)の自伝を執筆することとなったゴーストライター(ユアン・マクレガー)が、政治には興味が無いと言いながらも国際政治の裏の謎に関わっていくミステリー&サスペンス。舞台となるのはラングが滞在しているアメリカ東海岸の孤島で、荒涼とした風景のなかで雨や曇りの天気が続き、陰鬱な雰囲気を醸し出していることが、サスペンス性を高めるのにうまく使われている。まず冒頭の土砂降りの中で着岸したフェリーに1台だけ動かず残された車とそれに続く浜辺の死体の描写で、見る者をその雰囲気の中に取り込む。
ゴーストライターがラングにインタビューしながら執筆を始めるが、ラングの首相当時の捕虜虐待問題が持ち上がり、押し寄せる報道陣たちや国際政治の騒ぎに巻き込まれてしまう。一方で、ライターの前任者の死に関わる謎もあり、自然に真相を追究していくこととなる。ラングの妻ルース(オリヴィア・ウイリアムズ)や秘書アメリア(キム・キャトラル)を始め周囲の人物の描写が丁寧で、ライターとの会話の端々にユーモアもあって楽しませる。しかし、前任ライターの死因が事故または自殺とされていることは、明らかにおかしい、つまり他殺の可能性が高いということが明らかになっていく以外に、取り立てて謎の解明が進むわけでは無く、また主人公の身に何か危険が迫るということも無く、見る者は次第にだらけて来る。
結局、終盤になってゴーストライターが関係者たちに接触することによって、一気に展開していくのだが、推理的な謎の解明はほとんど無く物足りない感じだ。最終的に意外な真相が明らかにされて、確かにそれには驚かされるが、推理的な必然性は無く、そうだったのかと思わされるだけであり、そこに至る伏線が有った訳でもなく、ミステリーとしては不出来である。またライターが最後にとった真相の提示の手法もうなずけない。サスペンスとしても竜頭蛇尾の感が免れない。
総合評価 ③ [ 評価基準: (⑥まれにみる大傑作)⑤傑作 ④かなり面白い ③十分観られる ②観ても良いがあまり面白くはない ①金返せ (0 論外。物投げろ)]