蝸牛の歩み

「お話」を作ってみたくなりました。理由はそれだけです。やってみたら結構面白く、「やりたいこと」の一つになっています。

昔々あるところに 参

2015-07-14 18:50:09 | 日記
 そして、7月31日がやってきました。その日は朝から快晴で、スーパーの店頭には月見団子が並べられていましたが、おじいさんもおばあさんもそんな気にはなれませんでした。
 昼過ぎたころでした。
 「今帰ったよー!」という元気な声が響き渡りました。一寸法師が、小槌を持っています。自分の身体の四倍ほどある小槌です。
 「かぐや姫―!」という声も聞こえてきました。桃太郎です。桃太郎は、たくさんの仲間を連れていました。金太郎、赤鬼、青鬼、熊、雉、犬、猿・・。

 さて、夜に備えて作戦会議が開かれました。
 一寸法師が、小槌を取り出して、これを使ってあるものを出すつもりだといいました。みんな、この小槌は、一度しか願いをかなえてくれないことを知っていましたし、何よりも一寸法師が背が伸びて立派な若者になるためにこれを使いたがっていることを知っていましたので、他の作戦を考えようと説得しましたが、一寸法師は頑として聞き入れません。とうとう、夕刻から夜になりました。

 かぐや姫が、そしてみんなが恐れていたことが起きました。月から、雲に乗った使者たちがやってきたのです。
 一寸法師は、小槌を一振りしました。その一振りで、縦50m、横100mほどの巨大スクリーンが現われました。なんと、4K対応のテレビです。金太郎と桃太郎がこの大きなスクリーンを支え、鬼や熊、雉や猿と犬はBGMを流しました。
 スクリーンに映ったのは、おじいさんがかぐや姫を竹筒の中に入れて持ち帰り、おばあさんに見せたときの映像でした。そして、桃太郎の登場、一寸法師の来訪、すくすくと育っていった二人が夫婦になり、子宝にも恵まれ幸せに過ごしている姿が映し出されました。

 天人たちにむかって、おじいさんは言いました。
 「かぐや姫は月に帰らねばならないというのは、あなた方天界の方たちの身勝手な理屈じゃ。私たち夫婦の、小さな幸せを踏みにじり、仲良く暮らす家族を引き裂いて何が嬉しいんじゃ!」

 おばあさんも言いました。
 「たしかに、かぐや姫は私のお腹を痛めた子どもではありません。しかし、実の子よりも可愛い子なんじゃ。私が疲れた様子をしていると肩を揉んでくれたり、料理を手伝ってくれる。引き離さないで、ずっと一緒に暮らさせてほしいんじゃ!」

 桃太郎も言いました。
 「かぐや姫は、私の妻です。一緒に育ち、日に日に好きになり、結婚しました。今ではこんな可愛い子まで授かりました。あなたたちにお願いがあります。かぐや姫を、私の妻を連れて行かないでください。そして、この子に名前を付けてやってくださいませんか?」

 実は、何という事でしょう、赤ん坊にはまだ名前がついていなかったのです。それというのも、「~子」はもう古いとか、今風の名前がいいとか、キラキラネームはだめだとか議論百出でまだ名前がついていなかったのです。
 
 かぐや姫も言いました。
 「月の世界の皆さま、私が去った後、この家ではだれ一人として月を見なくなるでしょう。それを皆様は本当に望んでおられるのでしょうか。私たちがいつまでもいつまでも月をながめて美しいと思えるようにしていただきたいのです。」
 
 天人たちが取り巻いていた輿から、一番偉そうな人が出てきました。ちょっと美輪様に似ていました。
 「よくわかりました。これは、私たちの身勝手だったようです。それに、子までなしていては、それを引き裂くわけにはまいりません。
 わかりました。かぐや姫はこれから先もみなさんと一緒に暮らして行っていいでしょう。さて、この子の名前の事ですが、「月」の一字でどうでしょう。で、「ムーン」と読むことにしたら」
 
 桃太郎たちは、「キラキラネームじゃねーか」と思いましたが、ここは黙っていた方がいいとみんなに目配せをし、一斉にお辞儀をしました。
 気が済んだと見えて、天人たちは月へと帰って行きました。
 みんなほっとして、とたんにお腹が減ってきました。
 お腹が減るのは健康な証拠です。

 こんなお話の締めの言葉。「そしてみんな幸せに暮らしましたとさ」。おしまい。

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