蝸牛の歩み

「お話」を作ってみたくなりました。理由はそれだけです。やってみたら結構面白く、「やりたいこと」の一つになっています。

エイプリルフール

2017-04-01 20:16:58 | 日記
 四月一日の七時ちょうどに、全世界のテレビに突然ヒト型のロボットが現れ、しゃべりだした。

 「私は、人間たちの欲望のために世界各地で子どもや女性、老人が殺されていくのを見ることにあきあきした。一週間の猶予を与える。各国の武器メーカーは、すぐに生産を止め、在庫品を廃棄せよ。在庫品を廃棄せずに横流しすることは許さない。もしもこの命令に従わなかった場合は、まず、最高責任者の子ども、あるいは孫を殺害する。態度で示し、新聞に一面広告を出せ。一週間だ。忘れるな。」

 画面はぷつんと途切れ、通常の番組に戻った。各国の公共放送は数回このことについてニュースを組んだ。武器メーカーへのインタビューも行われたが、はっきりとした声明はなかった。

 一週間たった。各国の新聞、テレビ、ラジオは、夜のニュースで一斉に、今日何が起こったかを伝えた。

 予告されたことがそのままおこった。あるものは手足がばらばらになり、あるものは首が吹っ飛び、あるものは身体が真っ二つになった。当然ながら、その映像は流されなかった。

 しかし、次の日、七時ちょうどに、流されなかった映像が突然流れた。各家庭ではスイッチが切られたが、そんなことは関係なかった。人々が平凡な日常を送っているとき、戦場で子供たちがどのように殺害されているかを髣髴とさせるような映像が流れ続けた。映像が流れたのはテレビだけではなかった。映画館のスクリーンにも、街角の巨大なスクリーンにもその映像は流れ続けた。

 二日たった。兵器会社各社は声明を出し、兵器製造の中止、在庫品の廃棄を確約した。違反した社はなかった。各種のスクリーンを乗っ取るような技術を持った組織、あるいは個人がそんなことを見逃すわけがないという極めて合理的な推測だった。

 それから一週間。またヒト型ロボットが登場した。

 「現在、戦闘行為を行っている組織、あるいは国家は、二週間かけて、停戦協定を結べ。実行しなかった場合は、その組織、あるいは国家の重要人物を10人づつ、10日間にわたって殺害する。よく考えよ。」

 つまりは、逆らえば、100人殺されることとなる。殺されるのは、下っ端の兵士ではない。「重要人物」なのだ。こういうときだけ、「一般市民」にはなれない。彼らは初めて「戦闘」というものに直面した。他人が死ぬのはどうという事はないが、自分が殺されるという事になると、真剣さがアップするものと見えて、各組織、各国は初めて真剣な話し合いに入った。何しろ自分の命がかかっている。

 戦闘は停止した。胸をなでおろした「重要人物」たちは、一週間後に、人型ロボットの声明に戦慄した。

 「◎◎、××、□□、・・・・・(ここには実在の人物の名前が入る。何々社の誰それ、投資会社の誰それというふうに)は、手元に一億円(これは、各国の通貨で語られた)を残して、すべての資産を難民救済、被害地の復興、経済格差の縮小のためにあてよ。供出された資産の使い方は▽▽、☆★、〇〇、※※・・・・・(100人ほどの名前が挙がった)が中心となって考えよ。また、タックスヘイブンを利用して資産隠しを行っている者は、全額供出せよ」

 供出された資産の使い道については、指名された経済学者と、歴史学者、そして、紛争地、貧困に苦しむ国と地域で地道に活動を行っていた人々が現地の実情に即した使用方法を考え、急がず、しかし確実に成果を上げて行った。


 この年のエイプリル・フールは、人間の歴史にとって重要な日となった。

 来年、またあの人型ロボットは現れるのだろうか?

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