ツレヅレグサ

雑記と愚痴と、時々小説

Red Sparrow(6)

2006-06-21 22:32:45 | 小説
  Red Sparrow -AKASUZUME-

  第六話『仮面の下の姿』

 俺たちが紅の家に着いたのはおおよそ19:00だった。戦闘開始まであと三時間か。
俺は弾倉に対装甲弾を詰めていく。昔からやっている事なので、それは数分で済んだ。
ドネットはガンブレードの回転式弾倉にずんぐりとした銃弾を詰めていく。その五つの穴は、すぐに銃弾で塞がれた。
そして俺はアタッシュケースを開けてあの刀を取り出そうとし、あっちに忘れてきた事を思い出した。
しまった。俺としたことが、一番重要な物を忘れてるとは。まあ何を言っても刀が飛んでくるわけではない。
俺は刀の事はあきらめて、その代わりに今回一応アタッシュケースに入っていた
護身用のアーミーナイフを懐に入れた。リーチは短いが,一応役には立つだろう。
俺は紅も一緒に行くのかどうか気になって仕方がないので、きいてみた。
「で、紅はどうする?多分お前の家が襲撃される事はないだろうが」
「俺も行こう。もしもの事を考えると、俺がいた方が都合がいいのではないか?」
紅はそう言いながら二振りの刀を腰に差した。確か刀の銘は「正宗」と「村雨」だったと思う。
ドネットもガンブレードを鞘にしまってベルトに固定した。そして拳銃と弾倉を軍配給ベルトの多機能ポケットに入れた。
「ドネット、今回は威力の高い銃弾を使う。外したら器物破損でえらい目に遭うから気をつけろよ」
「わかってます」
そう答えるドネットの表情は既に硬く引き締まっていた。失敗は許されない。もし失敗すれば、そこで終わりだ。
俺も拳銃をベルトのホルスターにしまい、家の外に出た。もうすでに陽は沈み、白色の三日月が空に浮かんでいた。
再びこの三日月が拝められますように。俺は心の中でひそかに祈った。
俺は神は信じないが、こういう時には何か神秘的な力にすがりたいものだ。
「じゃあ行くか」
「ああ」
そして俺たちは家を後にして、みなとターミナルビルへと、今宵の戦場へと向かった。

 21:55。最後の高速フェリーが出発して人気のなくなったそのエントランスに、二つの黒い影があった。
そのどちらもが、黒と白の二色で塗られた不気味な仮面をつけていた。そしてコントラストは対になっていた。
「さて、間もなく血塗られた劇の幕開けだ。油断するなよ」
仮面の右側の黒い方が楽しげにつぶやいた。それにもう一人が静かに応じる。
「・・・了解」
そして灯台の光が彼らを一瞬照らし、その不気味な仮面をいっそう不気味に照らした。
しばらくの静寂の後、数人の足音が重なって聞こえてきた。暗闇で見えはしないものの、それは彼の待っていた人間だった。
「やはり来たか。しかもどうやら死を覚悟した上でここに来たようだな」
彼がそうつぶやく間にも、足音が近づいてくる。そして薄明かりが足音の主たちを映し出した。
そして彼らは仮面の二人から数メートル離れた場所で立ち止まった。
「よく来たな。俺はとてもうれしいよ」
「俺もだ。これでお前らとの追いかけっこを終わらせることが出来るんだからな」
「ふっ。相変わらず口だけは達者だな。しかしその口は己を破滅に導く事になるぞ」
仮面の一人は笑い、そしてあの戦斧を出して構えた。もう一人の仮面も細身の剣を仮面の前に構え、振り下ろした。
一方の訪問者たちは拳銃や刀を抜いた。双方はそのまましばらく対峙を続けていた。が。
 エントランスの巨大な時計が22:00を告げたその瞬間、双方が戦闘を始めた。
戦斧を持った仮面は片耳の欠けた訪問者と激しく斬り合う。訪問者はアーミーナイフで戦斧を受け流す。
そして細身の剣を持った仮面はガンブレードを持った訪問者と切り結ぶ。
仮面のすばやい突きを訪問者は刀身で受け止め、斬り返す。
そしてもう一人の訪問者はいつでも刀を抜く事が出来るよう、刀の柄に手をかけていた。
激しく散る火花、響き渡る銃声。拳銃から放たれた銃弾が仮面をわずかにかすり、壁に突き刺さる。
そして次の瞬間には戦斧がうなりを上げて振り下ろされる。そしてナイフに受け止められ、火花が散る。
戦いはいつの間にかエントランスから吹き抜けの広がった出発ロビーに移っていた。
仮面は吹き抜けの壁を蹴りあがり、上の階に昇る。訪問者の一人もそれを追って上の階に上がった。
「さぁ、そろそろ終わらせようか」
仮面が戦斧を再び構えながらそう言った。それに対して、ナイフを持った訪問者は笑って答えた。
「俺もそう思ってたところだ。じゃあ行くぜ!」
再びその二人は激しくぶつかり、斬り合った。そして時折銃弾が飛び交う。
「食らえ!」
訪問者は仮面に向け至近距離で銃弾を浴びせる。そのいくつかが仮面の体にめり込み、破裂した。
対装甲弾は、目標物にある程度めり込むと起爆し、穿った穴の周囲を大きく広げる。仮面の足元に血が滴り落ちた。
「ぐっ」
仮面が傷の痛みに一瞬気をとられた。そのせいで彼に一瞬の隙ができた。
「もらった!」
拳銃を構えた訪問者はその瞬間を狙って突撃した。仮面が戦斧の刀身で防ごうとしたが、やや遅れた。
バキィ。戦斧の柄は、次の瞬間完全に折れてしまった。丸腰になった仮面に向け、訪問者がさらに発砲する。
「ちぃっ!少し油断したか」
仮面はそう吐き捨てると、訪問者から離れた。
 一方、その下の階では、ガンブレードと細身の剣が激しく火花を散らしていた。
「・・・」
「くそっ、こいつ強い」
仮面がすばやく突きを繰り出すと、訪問者の方はガンブレードでそれを受け流していく。
そしてガンブレードが横一線に振られ、そばにある観葉植物をなぎ倒した。
しかし本来の狙いだった仮面には当たらず、仮面が彼に対し再び突きと斬撃を繰り出す。
「くそっ」
訪問者はその攻撃をかろうじて防ぎつつ、相手からやや距離をおいた。仮面は剣を構え直すと、再び攻撃を仕掛ける。
しかし、その刃先が訪問者に届く前に、ガンブレードの刃先が仮面の胸部に深く刺さった。
「・・・っ!」
仮面が一瞬ひるんだ。訪問者は撃鉄を起こして言い放った。
「食らえ!」
そして発砲。発射された銃弾が仮面の胸部を貫き、銃弾の数倍の穴を開けた。
仮面はその反動でガンブレードから抜け、数メートル後ろに吹っ飛んだ。その弾みで仮面の一部が割れた。
訪問者はガンブレードの銃口を倒れた仮面に向けたまま接近する。仮面はぐったりしたように倒れたままだった。
「やったか・・・?」
彼がそうつぶやいたとき、仮面がゆっくりと起き上がった。胸部の穴は、もうすでに塞がっていた。
仮面はそばに転がった剣を拾うと、銃を向けた訪問者をゆっくりと睨みつけた。
彼のほうもガンブレードを構え、斬りかかろうとした。
が、すぐに仮面をつけた刺客は驚いた表情になった。
「!」
一方の訪問者も仮面の吹っ飛んだその顔を見た瞬間、驚愕した。
「う、嘘だろ・・・!?」
それは、彼が昼に会ったばかりの女性、ソフィリアその人だった。
まさか彼女が連続殺人の犯人だなんて。彼のガンブレードを持つ腕が震えた。
たとえ犯人とはいえ、僕に彼女を斬ることはできない・・・。僕は彼女を殺したくない・・・。
彼は頭の中で彼女と戦うことをためらっていた。しかし、彼女の方は我に戻り、攻撃を繰り出した。
彼は攻撃を防ぎつつ、彼女に叫んだ。
「やめろ!僕は君を殺したくない!」
しかし、彼女の目はすでに殺気を帯び、彼女の瞳には敵の姿しか映っていなかった。
殺さなければ殺される。それがたとえ大切な人であったとしてもそれは同じ事。
彼女の剣が、彼にまっすぐ向かっていく。彼は死を覚悟した。が、その時。
「戦いをやめろ。退くぞ」
仮面の男がその刃を素手で受け止めていた。彼女は素直に従い、剣を鞘におさめた。
「今回は我々に不利だ。次は必ず殺す」
仮面の男はそう言うと、三人の訪問者に顔を向けた。
「逃げる気か」
一人が拳銃の弾倉を取り換えつつ言うと、男は無言の返事をした。
「次に会うときは必ず仕留める。星の中心で会おう」
「星の中心・・・?」
そう思う間に、彼らの姿はその場所から消え去っていた。残ったのは仮面の欠片と折れた斧の残骸だけだった。
 灯台の明かりが薄く辺りを照らす。あと数時間もすれば早い夜明けが訪れるだろう。
「また逃げやがって・・・」
拳銃を持った一人はそれをホルスターにしまった。もう一人も刀を鞘に納める。
ただ一人、ガンブレードを持った彼は仮面の欠片を拾い上げ、彼女の表情を思い出した。
彼女が僕たちの追っている刺客だったなんて・・・。彼は驚きと迷いをあらわにしていた。
「とりあえず軍の連中に連絡しておく。今度は証拠も残ってる。これでヤツらの正体がわかるかもしれない」
「だが、やつの言った「星の中心」が何を示しているのかが気になるな・・・」
「ああ、それさえわかれば・・・」
ほかの二人が話し合っている間、彼は剣を収めず、ずっと考えていた。
果たして僕は彼女を捕まえるべき、または彼女を殺すべきなんだろうか?彼の中で迷いが生まれていた。
「おい、ドネット」
一人が彼の名を呼んだが、彼はボーッとしたままだった。肩を叩いて、やっと気づいたようだった。
「え?」
「え?じゃねえだろ。早くその物騒な代物をしまえ」
彼は指摘されて、慌てて剣をしまった。しかし、頭の中ではさっきの戦闘を思い出していた。
あれは、確かに彼女だった・・・。
めちゃくちゃになった出発ロビーの真ん中で、彼はほとんど割れた窓をずっと見つめていた。

 次回予告
最近ボーっとしているようだな、ドネット。
何かあったのか?まあいいだろう。
こちらの方も忙しいからな。
次回『討つべき敵』
お前に何があったかは知らないが、深く考えないほうがいい。

 作者のひとこと
というわけで第六話公開に踏み切りました。
時間がかかってしまったのはまあいろいろとあったからです。
というわけで今回も小話をひとつ。
各キャラが使っている武器ですが、『剣』と『刀』の二種類の表記を使っています。
なぜかというと、区別しておいた方がこちらとしてはイメージしやすいという事です。
一般に『刀』は日本刀を、『剣』はその他の刀を示しています。
また、細身の剣はレイピアあたりをイメージしてもらうといいです。
まあややこしいとは思いますが、その辺は近くの雑学オタクに聞いてみてください。
そっちの方がおそらくまともな答えだと思います、はい。
そんなわけで、次回のキーワードは『星の中心』。
ここ次の定期テストに出るから覚えろよ。(嘘ですよ

・・・あの、よかったら押してください。
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