ツレヅレグサ

雑記と愚痴と、時々小説

Red Sparrow(9)

2006-07-14 22:00:31 | 小説
  Red Sparrow -AKASUZUME-

 第九話『星の中心で』

 正義は時として悪となり、悪は時として正義となる。
 愛は時として悲しみに変わり、悲しみは時として憎しみに変わる。

                       -古より伝わる無名の詩-

 俺は『星の中心』を正確に割り出すため、レモン屋に協力してもらった。
その結果、もっともその場所の確率が高い建物は、この街の象徴だった。
「なるほど・・・。確かにここは戦場としては最適だ・・・」
俺はそうつぶやきながら軍のデータベースを調べて、その建物の詳しい見取り図を取り出した。
それを端末にダウンロードして使用できる状態にした。もっとも、見る暇があるかどうかは別だが。
「で、まさか今すぐ行くわけじゃないですよね?」
ドネットがそうたずねてきたので、それはない、と俺は答えた。
「今の時間帯では一般人に被害が出るのは当然。夜中に行くしかない」
「じゃあそれまで僕は仮眠とってますから、行く前に起こしてください」
いや、早朝に寝たんじゃないのかよ。それに自分で起きろよ。俺はつっこみを入れながらも了承した。
ドネットはアイマスクをするとすぐ、そばの壁にもたれかかった。寝ているかどうかはわからない。
だが、俺もそんな事を気にしている場合ではない。今のうちに武器類の整備をしなくては。
 俺が自分の拳銃を分解して掃除していると、紅が一振りの刀を持ってこちらに来た。
鞘に納まったその刀は、おそらく小太刀だろう。刀身の長さがそう長くないからだ。
「お前が頼んでいた刀だ。銘は「赤雀」。こいつにピッタリな名前をつけておいた」
「おお、サンキュ」
俺は紅からその刀を受け取ると、試しに鞘から抜いた。顔を見せたその刀身は、燃えるような紅色だ。
鞘から完全に抜いたとたん、刀身が勢いよく赤い炎をまとった。それは雀というよりは竜か蛇の様だった。
「これで斬った相手は、切り口から業火に身を焼かれる。ダメージは大きいだろう」
なるほど、さすが名刀匠。これなら俺も力を発揮できそうだ。鞘にしまうと、炎は消えた。

 その十数時間後、空は真っ暗な闇に包まれ、街の光が蛍のように光っていた。
路という路を埋め尽くすほどいたたくさんのAAたちはもう既に郊外の住宅街に帰ってしまい、
街中がほぼ完全に静まっていた。昼に生き、夜に死ぬ街。まさにその通りだった。
時折人影がまばらに現れては消える。それは路地裏に住む人々だった。
何とか生きていけるだけのわずかな金しか持たない彼らには、郊外に住む事など不可能なのだ。
彼らが金を得る方法は闇取引か、脱法ドラッグを横流しするぐらいしかない。
そしてその仕事は、辺りに人気のない夜中でなければ行う事はできない。そのために夜の街を歩き回るのだ。
かつては理想郷とうたわれたこの世界も、結局は現実の世界となんら変わりはない。
生きるためなら、どんな犯罪でも普通に犯す。それがこの世界の現実だ。
 話を戻そう。その街のちょうど中央に、遠くからでも目立つような巨大な高層ビルがあった。
そこのオーナーはBAI社の子会社で、ビルのほぼ三分の二をBAI社のオフィスが占めている。
そのため、ほとんどの階は他社の人間にとって一種のブラックボックスになっていた。
そのビルのエントランスホールに俺たち三人がいた。紅は自分の愛刀を、ドネットはガンブレードを持っている。
そして俺は紅の打った刀『赤雀』を持ち、静けさの漂うエントランスホールを眺めた。
「さて、奴らはどこにいるんだ?さすがにビルの中を探し回るのは大変だぜ」
「奴らの事だ。上の階で待っている可能性が高い」
紅はそう言いながら、エレベーターに近づいてボタンを押す。どうやら電源は落ちていないようだ。
俺は拳銃をエレベーターの方に構え、もし敵が乗っていた時に備えた。
数秒後にエレベーターは俺たちの階で止まり、ドアが開いた。誰も乗っていない。
俺たちは用心しながらエレベーターに乗り込んだ。そして外に気を配り続けた。
 エレベーターはぐんぐん上昇し、何事もなく最上階にたどり着いた。ドアが開く。
そこには巨大な水槽がいくつも並べて置かれ、その上にはコードの束が蜘蛛の巣のように広がっていた。
その中には何もない。しかし、以前何かがそこに入っていたかのような状況だ。
あるいはこれからその中に何かを入れるかのような雰囲気があった。とそのとき。
 「そのうち来るとは思っていたが、これほど早かったとは思っていなかったよ」
あの仮面の男の声が辺りに響き渡った。しかし、その姿はまったく見えない。
その声はそのまま響き続ける。
「なぜ俺が貴様らをここに呼んだか。それはこれを見せたかったからだ。
 さてここで問題を出そう。これは何の目的でここにあるのかわかるかな?」
「知るかよ。少なくともまともなモンじゃないな?」
俺はその姿のない声に向かって言った。彼は笑って答えた。
「さて、それはどうだろうな?まあ、貴様らがそれを知る必要は、ない!」
彼が最後に強く言った瞬間、もう一人が攻撃してきた。ドネットはそれを受けると斬り返した。
そのまま二人は激しく切り結びながら奥の闇へと消えた。まずい。
「紅!ドネットを援護してくれ!」
「わかった」
紅はドネットと仮面の消えた方向に走り去った。すぐにその姿は闇にとけこんだ。
さて、俺はヤツを倒すか。俺は刀を抜いて左手に持ち、拳銃を右手に持った。
そしていまだ姿を現さないもう一人の仮面に向かって怒鳴った。
「来い!お前の相手は俺だ!」
「最初の獲物はお前か。すぐに終わらせてやるよ!」
仮面は斧ではなく、透き通った剣を振りかざして襲い掛かってきた。俺はその剣を受け止める。
「やっと出てきたか」
「死ねぇ!」
やつは一瞬間合いを取り、そして懐に飛び込もうとした。俺は剣を受けながら鍔迫り合いに持っていく。
さすがに片手で受けているせいか、力では押されている。だが、俺には右手の拳銃がある。
「動くなよ」
俺はヤツの胴体めがけて拳銃を連射した。それをかわし、ヤツは俺から一旦離れた。
この尋常でない速度と回復力からすると、ヤツともう一人は何らかのコード改造を行っているようだ。
「まったく・・・お前らは一種の化け物か?」
俺がつぶやくと、ヤツは笑って答えた。
「化け物?フン、そんな下等な存在と一緒にするな。この力は我々の研究の成果だ」
研究?という事はこいつらはBAI社のAAなのか?じゃあ、この事件にはヤツも、蒼も関わってたという事か。
俺は軍時代の蒼の顔を思い出し、嫌な気分になった。あの一件以来、ヤツは何か企んでいたが、
まさかこんな能力を持った奴らを造り出そうとしていたとは。嫌、現にこいつらがいる。
「我々の研究を邪魔する者は、たとえ軍の高官といえども殺さなくてはならない。
 貴様らもまた、その例外ではない。貴様らはここで我々が殺す!」
仮面は剣を再び握り締め、俺に向かって突進した。再び俺と仮面は斬り合った。

 一方、ドネットともう一人の仮面は、水槽の置かれた部屋から出て、さまざまな機械の置かれた部屋で戦っていた。
双方激しくぶつかり合い、斬り合う。それによって周囲の機械が破壊されていく。
機械部品が散乱する中で、二人は鍔迫り合いになった。剣の刃が擦れて、火花が散った。
「もう、こんな戦いはやめよう、ソフィリア。僕らにも君たちにも得るものはないじゃないか」
ドネットは彼女の剣を押さえ込みながら言った。しかし、彼女は黙ったまま、彼の剣を押し返した。
そして突然間合いを開けると、鋭い突きを連続で繰り出した。ドネットが防戦一方になった。
「私は戦わなければ死ぬ。だから、あなたと戦ってあなたを殺す」
彼女は仮面の奥からわずかに殺気のこもった声でしゃべった。
「違う。戦わなくても君は生きていける」
ドネットが言い返すが、彼女はそれに耳を貸さずにしゃべり続けた。
「私にとって生きることは戦うことと同じ。そしてあなたは私の敵。私のターゲット」
「何で・・・なんでそう言いきれるんだ!」
ドネットは彼女の言葉を吹き飛ばすようにして叫ぶと、彼女の剣を横にそらした。
それによってできた一瞬の隙に、彼は剣で剣を持つ手を斬った。彼女の片手が吹っ飛び、剣が落ちた。
「そうやって戦って、他人を殺して!それで君は平気なのか!」
「私の気持ちを知らない人が、そんなことを言うな!」
彼女は切り落とされていない方の拳でドネットを殴り、その隙に剣を拾った。
「僕は・・・君の気持ちなんか全然わからない。だけど僕は、君を傷つけたくない!」
「黙れ!私は戦わなければ生きていけない存在。だから、戦いはやめない!」
彼女がドネットに剣を突き刺そうとした。が、ドネットはそれを刀身で受け止めた。
そして受け止めたままガンブレードの向きを変えると、ドネットは彼女の足を銃で撃った。
銃弾が直撃し、彼女の足に穴が開いた。バランスを失って彼女が倒れる。ドネットはさらにもう片方も撃ち抜いた。
「もう戦うのは無理だ。降参しろ!」
「ふん、こんな傷すぐに・・・」
と、彼女は足の傷を見て驚いた。傷を負った部分が回復していない。
「何で!?こんな傷すぐに回復するはず・・・!?」
その彼女に、ドネットが彼女の頭部に銃口を向けながら言った。
「これに入っている銃弾は、君たちの回復機能を妨害するウイルスが組み込んである。
 放っておけば、君はデータの大量流出で生命維持機能がストップする。
 そしてこのウイルスの削除薬は僕だけが持っている。もう君に勝ち目はないんだよ」
「・・・っ!」
「だから・・・、もうやめてくれ。こんな戦い」
ドネットの構えるガンブレードが小刻みに震えていた。彼女は黙ってうなずいた。
 そのとき、紅が二人に気づいて歩いてきた。紅は青い刀身の刀を抜き身のままで歩いている。
「何だ。もう戦闘は終わったのか」
紅はややがっかりしたようにドネットにきいた。
「見たらわかるでしょう。それより彼女の応急処置を手伝ってください。
 足の怪我が結構ひどいので」
紅は彼女を見た。その両足には穴が開き、血が流れ出ている。
「・・・出血がひどいな。早くしないと死ぬぞ」
「彼女の回復機能を止めてしまったのでこうなったんですけど。僕のせいです」
ドネットはそう言って彼女に抗ウイルス薬を打った。だが、すぐに効き目が現れるわけではない。
ドネットは傷口を修復薬でできる範囲で修復すると、後は布切れを巻いて止血した。
「たぶんこれで大丈夫。しばらくしたら、彼女の回復機能が元に戻るはず」
「はず、か。本当に治ればいいが」
ドネットは紅の言葉を聞き流し、医療キットをポケットにしまった。

 一方、俺ともう一人の仮面はまだ戦っていた。
「死ねぇ!!」
仮面が剣を振りかざして斬りかかってきた。それを受け流して俺はヤツの脇腹を浅く切り裂いた。
赤雀の効果で傷口が燃えた。が、すぐに火は消え、傷も完全に回復してしまった。
「ちっ」
「いつまでそれを続ける気だ?お前が力尽きるまでやろうと、俺は死なない!」
ヤツの剣が右頬を掠めた。悔しいが、確かにヤツの言うとおりだ。このままでは俺の方が死ぬだろう。
そんな俺に向かって仮面が挑発をかけた。
「お前の相棒も、今頃はヤツに殺されている頃だろうな」
「それはどうかな。あいつはなかなか死にそうにない面だぜ」
とは言い返しつつも、俺はドネットのことが気になっっていた。紅があいつの死骸なんて運んできたら困る。
さっさと終わらせる方法はないか・・・?俺がそう思ったとき、俺の頭に一つのアイデアが思い浮かんだ。
いちいち切り裂いていたら時間が足りない。ならばいっそ、ヤツの体を一気に潰す方法なら。
幸か不幸か、ここには水が満タンの水槽がいくつもある。こいつを使ってヤツを片付ける。
 とそのとき、再びヤツが突撃して来た。俺はその攻撃を左にそらして後ろに行かせた。
そして振り向きざまに銃弾を見舞った。ヤツがひるむ。その隙に俺は水槽の上に飛び上がると、
「はぁっ!」
上に繋がっているケーブルを一刀両断した。
そして上から水槽を一刀両断した。やつが俺に向かって飛び掛ろうとした瞬間、水槽が破裂した。
ドーンッという耳をつんざくような音とともに、予想以上の水圧の水がヤツに襲い掛かった。
俺は間一髪のところで逃げたが、ヤツはそのまま流され、巻き込まれて倒れた他の水槽に消えた。
そして水は様々な物を押し流し、それがぶつかって割れたガラスから一気に流れ出した。
「やったか・・・?」
俺は何とか天井のケーブルにぶら下がりながらつぶやいた。ほぼ確実にヤツは死んだか、流されたはずだ。
とにかく今はドネットと紅のいる場所に向かおう。俺は水の流れきった床に降りると、奥の部屋へと向かった。

 だが、仮面は流されなかった。ヤツもまた、天井のケーブルを片手で掴み、もう一方の手で剣を持って。
「おのれ・・・っ!」
仮面は憎しみをあらわにし、先ほど俺の向かった部屋へと向かった。

 奥の部屋もおそらく戦闘があったらしく、床に機械の破片が散乱していた。その奥に三つの影がいた。
「ドネット!大丈夫か!」
「ええ、僕も紅さんも一応無傷です。彼女は大怪我ですが」
「彼女?・・・、もしやドネットの知り合い?」
俺が聞くと、ドネットはそういう事にして下さい、と言った。なるほどね、ドネットのアレか。
「それより、もう一人の方は倒したんですか?」
「ああ、多分な。でももしかするとまだ死んでないかもしれ」
そこまで言ったところで、俺は後ろに殺気を感じ取って振り返った。そこにはあの仮面がいた。
「わりぃ、やっぱり死んでなかった」
俺はそう言いながら再び刀を構えた。仮面もまた、あの透明な剣を構える。
「今度こそ貴様らを殺す!」
そして俺に向かって突撃した。俺はその攻撃を受け止めたが、ヤツはそのまますり抜けた。
その後ろにはドネットたちがいる。非常にやばい。
「ドネット!よけろ!」
俺は彼に向かって叫びながら、ヤツの背後から刀を刺した。だが、それでもヤツは止まらなかった。
「しねぇ、小僧!」
ドネットはガンブレードを抜こうとしたが間に合わない。ヤツの剣が前に突き出された。
「ドシュッ・・・」
君の悪い音が辺りに響いた。だが、ヤツの剣はドネットに刺さってはいなかった。
そこに刺さっていたのはもう一人の仮面、ソフィリアだった。傷から鮮血が流れ落ち始める。
「貴様っ、なぜ邪魔を!?」
「ソフィリア!?何で」
次の瞬間、紅がヤツに向かって刀を振り下ろし、奴は剣を抜いて紅の攻撃をよけた。
「貴様の相手は俺だ」
紅はヤツに向かって言うと、もう一振りの紅い刀を抜き、空いている方の手に構えた。

 次回予告
なあ紅、お前油断しすぎなんだよ。
まあいいさ。こいつはこの俺が片付けといてやるよ。
次回「赤き眼の凶剣士」
俺の名?テメエに知る必要はねえ!

  作者のひとこと
ついに次回でこの小説も〆!一週間に一回のペースで書いてたけど、思えば結構長かった気がする・・・。
はい、かばって死んじゃいました、あの人。
この事件後、ドネットは多少影がつきます。え、どういう事かって?
それはこれからのお楽しみ~♪
そして次回はついに仮面VS紅という一番書きたかった構図。
果たしてうまく書けるかどうかわかりませんが、最善を尽くします。
というわけで今回はこの辺で。
次回はついに最終話、それなりに期待してください!

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1 コメント

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Unknown (蒼 光影)
2006-07-14 22:22:59
期待×100

どんなラストになるのかなぁ

楽しみに待っておく♪
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