「滾滾・滾々」について 2003年記
「滾滾」という語を、擬音語としたり、「わきいでる」さまとしたり、解釈が分かれていて、どう理解して、訳出したらいいのか苦労する。
擬音語なら、日本語に置き換えると、
日本にある川のような急流の「ゴー」や「ザー」という重々しさを伴った音に近いのか、
「ぶくぶく」や「どっぷんどっぷん」
に近いのかなのか、そこが知りたいとこでもある。
詳しくみてみよう。
【滾滾】
○水の盛んに流れる貌(増補『字源』簡野道明・1955・私蔵本)。
○水の流れ続けるさま(転じて、尽きないさま)。車輪の回転するさま(転
じて押し寄せるさま。『中日大辞典』・1973)。
○水など液体が盛んに流れて尽きないさま。泉が尽きることなく湧き出る
さま。(BookShelf)
○大水奔流貌(『辞海』1977)。
○浪のうねるさま(『岩波中国語辞典』・倉橋武四郎・1985)。
○水の流れるさま(『大漢和』1986)。
○水がぼこぼこと、ころがるように流れるさま(『漢字源』・1988)。
○(波などが)逆巻いている。(煙などが)もくもく立ちこめている(『中
国語辞典』白水社・2002。下敷きにした『現代漢語詞典』では、「形容急速
的翻騰」)。
説明として、『大漢和』は群を抜いて「最悪」だが、それにしても、これでは、最大公約数的な意味が不明だ。杜甫の「登高」という詩に、
不尽長江滾滾来
というのが見える。中国語では擬音語の類が、記録されることが少ないが、日本の急流の「ザー」というさまとは違うことが想像される。
後に、非常に驚いたさまを、生々しく「屎滾尿流」「屁滾尿流」というが、「滾」は、「ごろごろ」「ごぼごぼ」「こぼこぼ」というイメージに近いさまで中国人に理解されているのであろう。
今でも定番の輿水優著『中国語基本語ノート』1982に、「滾」の記載があり、
現代語では、滾滾は雷鳴や車輪の回転音などの形容としても使われます。
……水がわきたち流れるさまと、ものがころがって移動するさまが、感覚的
につながっていることは、いうまでもありません。
とある。
現在、『靖亂録』を訳しているが、そこに、「滾木」という語が見える。訓読を主とした『王陽明靖亂録』(6/3)明徳出版社・p117の中で中田勝氏は、「滾水」の誤かとしているが、見当はずれである。
「滾木壘石」を、「築城して戦闘準備する」と『中日大辞典』では記しており、「滾木」を『大漢和』では、「丸い木。ころばし木。丸太棒。」と説明する。
『靖亂録』(6/3)で、
「滾木礧石」(「峻壁四面、滾木礧石、以死拒戰。」)
また、
(8/5)で
「滾水【滾木の誤り】磊石」(「但多備滾水磊石、爲守城之計。」)
と記されている「滾木」という語は、(ごろごろところがる)「落とし丸太」のことである。すなわち、防城の際に使用される武器の一種で、城を上ろうとするのを阻止するため上から落とされる装備としての丸太のことでなのである。
そうである以上、「滾木壘石」については『中日大辞典』の解釈より、「守城の装備を整え交戦の準備をする」と解する方が妥当な場合が多いだろう。
図は、『城守籌畧』卷五もの。「滾木壘石」の具体的な装備例である。『防守集成』卷十四にも同じような画像がある。ちなみに、画像の説明文に見える「滾石」は、(ごろごところがる)「落とし石」のこと。日本の「木落とし」と構造が違っているが、『防守集成』に拠ると城壁の厚い各部分に設けて、敵が半分ほど城に上ってきた時に落とすものとされる。
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