読書の森

小池真理子 『Kiss』




人との距離をとる事が余儀ない状況下に眉を顰める様な表題で恐縮です。

実は、この短編集を執筆当時、(文庫が発行されたのは2011年です)著者小池真理子の現実は甘やかなkissとは程遠いところにあったようです。

老親の介護、夫である作家藤田宜永の不調、ご自身の体調、私の感じるところ、才気あふれる美人作家にとって相当過酷な日々だったようです。

彼女が親を看取った後、長年の同志だった夫藤田宜永が昨年1月癌で亡くなりました。

当方のブログに出した『死の島』の切実感が今さらに思い出されます。

「今はただ寂しくて」という言葉が私にも痛く伝わるのです。

この短編集の殆どは回顧譚で、何処か死の香りが漂うのです。

その香りも彼女の手にかかるととても美しく、描かれるkissシーンは浄化された印象で残るのです。




「覚えている、覚えている、すべて覚えている。
わたしはうっとりしながら、あのころの自分たちを眺めている。
木漏れ日が踊っている。
未来も過去もない、この瞬間だけの幸福。
これから起こることなど何も知らずにいられる至福のひととき」
(オンブラ.マイ.フ)

これは主人公の手に恋人が唇を寄せた瞬間を、思い出の中で語らせた一節です。

小説で語るイマジネーションの豊かさが伝わって、私は魅了されました。

殆どの現実が色褪せたとしても、小説の世界のビビッドな色は変わらないようです。

当然小説は書き手の状況によって変化するものではあるけれど、その人独自の想像力は変化しない(出来ない)ように思えるのです。

私は「小池真理子さんふたたびの創作」を心から願って止みません。



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