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将来に向けての捕鯨 第4回世界捕鯨者協議会総会報告(アイヌ民族博物館だより)

2002-09-30 00:00:00 | アイヌ民族関連
将来に向けての捕鯨
第4回世界捕鯨者協議会総会報告

野本 正博
(アイヌ民族博物館学芸員)

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世界捕鯨者協議会

 昨年の9月25日から4日間にわたり、フェロー諸島の首都トルシャウンで、「将来に向けての捕鯨」と題した第4回世界捕鯨者協議会の総会が開催された。
 世界捕鯨者協議会(WCW)は、1997年にNGO(非政府組織)として設立された団体で、様々な分野の専門家が、鯨資源の持続的利用を実現するためのサポートを行い、世界各地の鯨類を利用する先住民や捕鯨者の声を、世界に発信する役割を果たしている。
 総会の開催地であるフェロー諸島は、18の島々からなる小国(デンマーク自治領)で、北大西洋のアイスランドとノルウェーの間に位置している。この島にヴァイキングが入植を始めた9世紀から、人々はゴンドウクジラを捕り続けてきた。そして現在も伝統的な鯨の追い込み漁が行われている。

将来に向けての捕鯨

 総会の冒頭、フェロー捕鯨者協会会長が歓迎の挨拶で、次のようなことを述べた。
 「フェロー諸島には捕鯨者と呼ばれる者はいないし、捕鯨船も無いが、世界でも有数の捕鯨共同体を維持している。
 フェロー諸島には1584年から現在まで続く世界最古の鯨の年間捕獲記録がある。この長期に渡るデータは、私たちの鯨資源管理にとって重要であり、他の海洋資源の科学調査にも役立っている。
 鯨資源に限らず、人間は多様な資源を利用している、という事実に目を向ける必要がある。これまでフェロー諸島は、反捕鯨運動の脅威にさらされてきたが、それにも関わらず私たちは捕鯨を続けてきている。反捕鯨運動は、私たちの捕鯨が違法だと強調し、私たちを世界から孤
立させようとしてきた。しかし、私たちの共通の目的は、海洋資源の持続的な利用であり、WCWを通して、次の世代が鯨資源を利用できる状況を維持して行くことにある」

先住民の捕鯨

 総会には、イヌイット(カナダ及びグリーンランド)、マオリ(ニュージーランド)、マカ(米国)、ヌチャヌフ(カナダ)、アイヌなどの先住民の他、ノルウェー、アイスランド、カリブ海地域の捕鯨者と科学者たちが参加した。日本からは、和歌山県太地町の捕鯨者、水産庁、日本捕鯨協会、日本鯨類研究所、鯨料理店の経営者らが出席し、開催国のフェローの人々も交えて、各地域の捕鯨の状況や問題点などについての意見交換が行われた。
 私は以前から、先住民の捕鯨や、鯨の歯や髭などを利用した工芸品に興味を持っており、個人的に今回の総会に参加した。総会では、WCW議長のトム・メクサス・ハッピーヌク氏(ヌチャヌフ)と、これまで共同研究を行ってきた岩崎・グットマンまさみ氏(北海学園大学教授)の協力により、アイヌの捕鯨と鯨に関わる伝承についての、発表の機会も得ることができた。発表のなかでは、現在、アイヌ文化の伝承に必要な資源を利用することが、難しい状況にあることも報告した。
 他の先住民の人々も、それぞれの地域の現状についての報告を行った。
 ニュージーランド政府は反捕鯨の立場をとっており、マオリは鯨を捕ることが出来ない。しかし、鯨の骨、歯、髭を利用したマオリの伝統的な工芸は、芸術的に高く評価されており、彼らはそうした伝統文化を維持するためにも、座礁鯨の利用を求めている。
 カナダの先住民は、憲法の先住権によって捕鯨の権利を認められている。しかし現在、ヌチャヌフはブリティッシュ・コロンビア州政府との条約交渉を進めている段階で、捕鯨再開の準備はできていない。さらに彼らは、長期に渡って鯨を利用できなかったために途絶えてしまっていた食文化を、いかに自分達のコミュニティーに導入するかという問題も抱えている。
 カナダ・ヌナブット準州では、科学者がイヌイットに対して、海洋哺乳動物の汚染の危険性について警告している。しかし、イヌイットにとって、それらの動物は重要な食料資源であり、彼らは国や科学者に対して、イヌイットの知識を活かした資源管理を行うことを望んでいる。
 マカの状況はさらに深刻である。彼らは、米国政府との交渉により、一度は捕鯨再開を果たした。しかし、その後、政府との交渉のなかで、条約の内容がねじ曲げられ、マカ捕鯨委員会はバニド内部からも閉め出され、捕鯨再開の見通はついていない。米国政府は、マカは捕鯨をしなくても生活できるので先住民生存捕鯨のカテゴリーには当てはまらない、という見解を示している。

ゴンドウクジラの解体

 総会の期間中、フェロー捕鯨協会の協力により、特別なワークショップが用意された。私たちは、トルシャウンからバスとフェリーを乗り継ぎ、別の島にあるクラクスビクという町へ渡った。そこの港では、茶色の伝統的なセーターを着てナイフをさげた男たちが待ち受けており(写真右上)、手漕ぎボートによる鯨の追い込み漁を再現して見せてくれた。その場に横たわっていたゴンドウクジラは、夏の漁期に捕獲され、今回のために冷凍保存されていたものである。
 鯨の解体は、漁師たちの自慢のナイフで手際よく行われ、部分ごとに仕分けされる。その傍らでは子供たちが小さなナイフを鯨の口に差し込み、大人たちに時々教えてもらいながら、一生懸命鯨の歯を取り出していた(写真右下)。
 その姿を見ていると、「フェロー諸島には捕鯨者と呼ばれる者はいないし、捕鯨船もない」という捕鯨協会会長の言葉が思い出された。クラクスビクでは、食料の30%をまかなう鯨の肉と皮は、それぞれの世帯に無料で分配される。この島の人々にとって、食べるために鯨を捕るというのはごく当たり前のことであり、商業的な「捕鯨」とは全く意味合いが違うのである。
 その場では、日本から特別参加した太地町の小貝佳弘氏(いさな組合組合長)も、持参した包丁と鉤で一頭の鯨をたちまちに解体してしまった。それを見ていた地元の漁師たちが、また負けじと腕を振った。どちらにも、伝統的な鯨捕りの技術が今も生きたものとして受け継がれていることを実感する光景だった。

 アイヌも近年まで、鯨を含め多様な資源を利用してきた。それらに関する知識や文化を受け継いでいくためには、そのための環境作りが必要である。
 現在進められているイオル構想も、アイヌ自身が主体的に関わり、どのように資源を利用し、文化を伝承していくのかを考えなければ、単なるテーマパーク作りに終わってしまう。世界の先住民の状況も踏まえて、今後さらに論議を深めて行く必要があるのではではないだろうか。


「アイヌ民族博物館だより」49・50号(合併号 2002年9月30日発行 B5判12頁)
http://www.ainu-museum.or.jp/dayori/No49_50/D04.html

「財団法人アイヌ民族博物館」
http://www.ainu-museum.or.jp/




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