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「銃・病原菌・鉄」の今(NationalGeographic)

2007-06-30 00:00:00 | イベント情報・書評
マラリアにみる『格差』の人類史

写真=Pieter de Vries/Lion TV

ジャレド・ダイアモンド
1937年、米国ボストン生まれ。専門の生物地理学や生理学に加え、文明論の著作もある。1998年のピュリツァー賞受賞作『銃・病原菌・鉄』、『文明崩壊』(ともに草思社)など著書多数。

マラリアとスペイン風邪は何が違う?地理的条件が人類の未来をどう変えるのか?「銃・病原菌・鉄」の著者ジャレド・ダイアモンド博士に語ってもらった。
 ピュリツァー賞を受賞した著書『銃・病原菌・鉄』で、ジャレド・ダイアモンド博士は人間社会の謎を解き明かすために、1万3000年にわたる人類史を研究対象に選び、世界各地で、さまざまな発展段階にある社会を調べ上げている。

 日本でも話題を呼んだこの書籍が映像化され、7月にDVD『銃・病原菌・鉄』として日本でも発売されることになった。

「あなたがた白人は皆、たくさんのものを持ってニューギニアにやってくるのに、なぜ自分たちはこれまで“積み荷”(カーゴ・価値ある物資)をほとんど生み出せなかったのか」

 ニューギニア人の政治家ヤリから、こんな素朴な疑問を投げかけられた博士。地域間で広がり続ける格差の根底に何があるのか? その答えを求めて旅に出る。

 博士は米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校の地理学教授で、ナショナル ジオグラフィック協会付き研究者でもある。これまでにニューギニアとその周辺の島々を22回訪れているほか、北米、南米、アフリカ、アジア、オーストラリアで多数の現地調査プロジェクトにかかわった。歴史を動かす「病原菌」の一つ、本号の特集で取り上げたマラリアについても、人類史における位置づけを考察。国力が疲弊するほどの大流行に苦しむアフリカ・ザンビアへも足を運んだ。そんな博士に、改めて話を聞いた。

(聞き手=藤田宏之 本誌日本版編集長)
世界の地域間に存在する格差を意識したのは、いつ頃ですか?

 私は、米国の東海岸にあるボストンで生まれ育ちました。先進国の人々がほかの社会の人々よりもたくさんの“積み荷”を持っていることは、ほかの子たちと同じように、学校で知識として学びました。ですが、実際にそのことを目の当たりにしたのは、“積み荷”をほとんど持たない開発途上国に自分で出かけるようになってからのことです。1963年のペルー、翌64年のニューギニアを皮切りに、各地を訪れています。

DVDで『銃・病原菌・鉄』の“今”を語る舞台として、なぜアフリカを選んだのですか?

 DVDの中で、私は三つの旅に出かけます。食料生産の起源を考察するニューギニアへの旅、ヨーロッパ人による南北アメリカ大陸の征服の歴史を振り返るインカ帝国への旅、そして現代へとつながるアフリカへの旅です。

 アフリカに注目した理由はいくつかあります。一つは、貧しさの謎です。アフリカは現在、平均的にみて、世界で最も貧しい大陸です。思えば、これは実に不思議なことではないでしょうか。アフリカで誕生した人類が、ほかの大陸にも住むようになったのは、何百万年も後のことです。もし何事も出だしが肝心ということであれば、先にスタートしたアフリカは最も裕福な大陸になっていてもおかしくないはずです。

 現代アフリカの貧困の背景には、この大陸が南北に長いために、農作物や家畜が伝播しにくいという地理的要因が存在します。このことも、アフリカに目を向ける大きな理由となりました。

アフリカへの旅では、数ある感染症の中から特にマラリアの問題を取り上げていますが、その理由は何でしょうか?

 アフリカの感染症というと、エイズやエボラ出血熱を思い浮かべる人もいるでしょう。なぜマラリアに注目したのかというと、まず、マラリアは世界中でエイズに次いで人間への影響が大きい感染症だからです。

 また、エイズは人間の死因としては比較的新しく登場したもので、それまではマラリアが人間の生命を脅かす最もおそろしい病気でした。そして、マラリアは、世界のどの大陸よりもアフリカを苦しめています。

もしマラリアがなかったら、アフリカの歴史はどのように変わっていたと想像されますか?

 もしこの病気がなかったら、ヨーロッパ人はもっとたやすく熱帯アフリカを征服し、そこに定住することができたでしょう。マラリア原虫はアフリカ大陸にもともと存在していた土着の病原体で、ヨーロッパ人の行く手を阻んだ主な要因の一つとなりました。

 もっとも、マラリアがもし存在しなかったとしたら、現在のアフリカはもっと人々が長生きできる、豊かな大陸として繁栄していた可能性はあります。

アフリカへの旅でザンビアの病院を訪れてみて、この国はマラリアを撲滅できると感じましたか?

 マラリアを一掃できた国としては、アジアのシンガポールやマレーシアが挙げられます。シンガポールでのマラリア撲滅を容易にしたのは、島国という地理的条件です。また、マレーシアがマラリア撲滅を達成できたのも、国土が比較的狭く、地理的に孤立しているからです。

 ザンビアは国を挙げてマラリアの根絶に取り組んでいますが、国土が広く、ほかの国々に囲まれているので、その達成ははるかに困難だと思います。しかし、ある程度の資金があれば、マラリアによるザンビア国民の苦しみを大幅に和らげることは十分にできるはずです。

温帯地域のインフルエンザに対する取り組みと比較して、マラリアに対する取り組みの現状をどう考えますか?

 一口に感染症の流行を防ぐ対策といっても、インフルエンザとマラリアでは、事情がかなり異なっています。

 まず、インフルエンザについては、さまざまなウイルスに対するワクチンを開発できることがわかっています。ところが、マラリアについては、まだ誰もワクチンの開発に成功していません。これは、マラリア原虫は進化が速く、変わり身の早い病原体だからです。

 もう一つの違いは、インフルエンザによる犠牲者の発生や経済への影響が、マラリアに比べればとても小さいということです。インフルエンザは毎年、欧米や日本などの温帯の国々で発生し、人々の注目を集めますが、マラリアの脅威がこうした先進国に及ぶことはなく、忘れられがちです(マラリアの流行している熱帯地域を訪れる場合は別ですが)。

今後、地球温暖化がさらに進むと、マラリアが欧米や日本などにも広がるという予測もあります。そうなった場合、世界はどのように変わると考えられますか?

 確かに、温暖化が進めば、病気を媒介する蚊などの生息域が現在の温帯地域にまで達し、欧米や日本の温暖な地域にマラリアなどの熱帯感染症が広まるかもしれません。私たちは、そのことを心に留めておくべきです。

 マラリアが広まった場合、欧米や日本の人々も、当然のことながらマラリアのことを真剣に受け止めざるを得なくなります。「熱帯など特定の地域にふりかかっている問題であって、私たちには関係ない」などと、他人事として済ますことはできなくなるでしょう。

社会と経済の面で、日本という国の成り立ちに地理はどのような影響を及ぼしているのでしょうか?

 日本が歴史と文化、経済の面でこれほどほかに例をみない独特の国になったのには、地理的な要因がきわめて大きな役割を果たしていると思います。個々の具体的な要因としては、日本列島のある地域、位置、アジア大陸からの距離、肥沃な土地、豊富な降水量などが影響を及ぼしています。

地球温暖化や環境破壊、資源の枯渇など、地球の現状や未来を悲観的に考える人が増えていますが、100年後の地球はどうなっていると思いますか?また、将来のために私たちにできることはありますか?

 100年後の世界の状況は、地球がいま直面している危機を、今後の数十年のうちに克服できるかどうかによって変わってくると、私は考えています。

 なぜかというと、いま私たちは、水産資源、エネルギー、森林など多くの点で、持続可能とは到底いえない道を歩んでいるからです。これから数十年のうちには、私たち自身が望んだとおりに問題を解決できるか、飢饉や戦争などで、私たちの決して望まなかった形で決着してしまうか、いずれかの結末が訪れるはずです。次の数十年を生き延びることができれば、100年後、私たちは明るい未来を迎えられるでしょう。100年後の地球の状態について、いまあれこれ考えるのは意味のないことです。まず、次の数十年を生き延びることを考えるべきです。


今後の研究は、どこに向かっていくのでしょうか?

 『銃・病原菌・鉄』では、ヨーロッパ系の人々やヨーロッパ文明が世界を席巻し、この世界に格差が生まれた理由を探りました。また、それに続いて著した『文明崩壊』では、かつて大いに繁栄していた社会が滅亡するに至った理由を探りました。今後の方向としては、まず部族社会の研究があります。また、裕福な国がある一方で貧しい国々があるという、社会間の格差が存在する理由をさらに追求していきます。歴史の研究にもっと科学的な手法を取り入れることにも、引き続き取り組んでいきたいと思っています。








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2 コメント

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炭素結晶の競合(CCSC)モデル (二次元格子電子系研究者)
2020-11-12 17:25:42
 元島根大学客員教授でダイセルリサーチセンターの久保田邦親首席技師によると、ダイヤモンドこそが地球環境の良くしようとエンジニアが挑む機械のトライボロジーの世界で邪魔しているという摩擦制御理論CCSCモデルを発表しているが。
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境界潤滑現象の本性を読んで (品質工学エンジニア)
2020-11-19 13:22:15
まだニューノーマルな理論なのでオートモティブサイエンスの端緒といったところでしょうか。しかしそのうち主流になるのは間違いなし。
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