樹木希林さんが亡くなられました。僕もドラマ寺内貫太郎一家のばあちゃん役からのファンで、年を重ねるごとに円熟と新しい個性が生まれる樹木さんの演技に魅せられたひとりです。
樹木さんと言えば、やはり老婆役。様々な老婆を演じられた樹木さんですが、老婆役の存在感を初めて感じた作品として、今回の映画館で観れなかった作品をDVDで観るシリーズは、2011年公開の原田眞人監督、井上靖原作の映画「わが母の記」をお届けします。
昭和39年、役所広司演じる小説家の伊上は、父が亡くなったことで樹木希林演じる痴呆の母八重の面倒を看ることに。母から離された幼少期を過した伊上は、母に捨てられたとの思いを抱いていました。失われていく家族との思い出と引き換えに、八重は、過去の悲喜こもごもとした思い出だけが、断片的に蘇り、伊上や家族を困らせる日々を送っていきます。そんな中で、伊上も知らなない過去の真実が浮かび上がり、母との絆を少しづつ取り戻していきます。
家族までも題材にする小説家としての性を役所広司が、自己中心的に家族を巻き込みながら過ごす姿が面白く、また、痴呆老人の姿を決して不幸なことではなく、自由奔放な姿で演技し、それが疎遠だった親子の関係を近づけて家族愛がじわりじわり伝わっていきます。また、三女役の宮崎あおいが、二人の関係のつなぎ役となり、父娘の絆をも取り戻す展開に家族愛の広がりを感じました。
痴呆の親の面倒をみることは、並大抵なことではありません。最後まで家族が面倒をみることは、僕の母が地方の義母を面倒みていた経験から難しい場合が多いと思います。まして、実の親子関係は、思いもしないで出来事により崩れてしまうこともあります。その意味では、伊上家の家族や伊上の兄弟の振る舞いは見事でした。
家族の心を取り戻すことは、家族が寄り添うことしか道はないなと感じる作品でした。