大人のバレエ~不思議な魔法 & Something Good

大人になってバレエを始める方、始められた方に。
なにか、参考になれば幸いです。

現実を受け止め、どうしていくか。

2009-04-27 11:32:33 | バレエ大人
大先生。77歳。
今も「白鳥の湖」の女王様、「ジゼル」のおかあさん、「くるみ割り人形」の老シュタールバウム夫人、などなどで、舞台に立たれています。
最初の頃、大先生だと気づかずに舞台を拝見していましたが、なぜか、目がいってしまう。
女王様なら、ものすごい風格。
おかあさんなら「あ、おかあさんだ。」と思うようなおかあさんなのです。
余談ですが「ジゼル」の1幕の終わりで、ジゼルを抱きしめながら、おかあさんが嘆き悲しむシーンがありますが、あまりの迫真の演技で、不覚にも滝のように涙があふれて止まらず、すぐ休憩タイムで会場が明るくなるっていうのに、どうしても涙が止まらなくて、開き直って、泣いていたことがあります。




今もバレエのお稽古をかかさないその身体は、脂肪のかけらもありません。
ほっそりとして、まさにバレエをやっているのを語るその引き上がった身体。
首は縦に筋張ってはいますが、77歳にして横シワがありません。
直接、大先生に師事されている生徒さんの間では、首に横シワがないことで
「いかに引き上がっているか」
と、話題になるそうです。




少女時代が戦中・戦後と重なった大先生のバレエ人生は、決して恵まれた環境ではありませんでした。
ただ、焼け野原となった東京で、おなかを満たすだけでなく、心を満たす、心を豊かにするような、なにか美しいものへの渇望があったと言います。
大先生と10歳離れたお姉さまは、バレエのとりこになり、その美しさを妹にも見せようと、舞台を観に連れていってくれたのがバレエとの出会いだったそうです。

おとうさまは、大先生が赤ちゃんの頃に他界され、おかあさまが女手一つで育ててくれる家庭。
やがて、お姉さまも働き始め、家計を支えつつ、バレエを習いたい妹の月謝を払ってくれたそうです。

でも、長く続けることはできませんでした。
理由は、ポワントです。
バレエの先生からポワントの許可がおりたものの、当時、トウシューズは、とても高価なものだったそうです。
当然のことながら、今のように量産されておらず、買いに来た人の足にあわせて作るようなオーダーメイド状態。
「買って。」
と、どうしても言えず、それをきっかけに、一度は諦めたバレエでした。

そんな大先生のバレエとの再開は東勇作氏(あずまゆうさく/1910―71)の舞台だったそうです。
即「教えてください。」と弟子入りし、そこから、大先生のバレエ人生が本格的に始まったのでした。
同じ舞台に立った仲間であり同志は、今、バレエ・カンパニーの頭に名前がついていらっしゃる方ばかりです。
バレエの先生をしてほしいと言われれば、列車で十数時間という遠方でも赴き、いつしか覚えたバレエの衣装を縫い、そうやってこつこつと貯めたお金でトウシューズを買う。
列車で十数時間立ちっぱなしではと、お稽古の時間に間に合う時刻の列車に、おかあさまが並んでいてくれたそうです。





ただ、大先生は、今の若い世代やお子さんに、どこか寛大なところがあります。
同じようなことを求めないというか。
もちろん、しつけとお稽古は、とても厳しいそうです。
でも、自分が生きた戦中・戦後の時代がいい訳はない。
ただ、一言、
「(そんな時代を生きて来たので)私たちは、強いんですよ。」。





そして、初めて、大先生からの指導を受けました。
もちろん、バーレッスンの基本の基本だけですが。
お弟子さんにあたる若い先生がサポートでついているのに、自ら、お手本をやってくださいました。
何十年と繰り返して来たバーレッスンは、すごいです。
プリエ・タンジュ・デガジェ、ロン・ド・ジャンブ・ア・テール ,etc。
次につながるのが見えるようなのです。

幸運にも(というか、私がだめだからですが)姿勢を直していただきましたが、触れられた途端、身体の中でこんがらがっていた糸がほどけていくようでした。
さすがにスカートはつけましたが、レオタードにタイツでのぞんで幸いでした。
ご自身の培ったものを惜しみなく、細部の細部まで、丁寧に教えてくださる。
こんなバーレッスンはめずらしいのではないかと思います。
若い先生も、いつしか、真剣に確認し始めていました。





大先生の特別セミナーの後、受講者と自然に雑談が始まりました。
話の流れで、大先生がこんなことを言いました。
「毎日、どんなにお稽古していても、いずれ衰えはやってきます。これは、逃れようがない。今は、もう無理して足を高くあげようとすると、腰に来ちゃうんですよ。(笑)自然の摂理で、これは、間違いなく、誰にでも訪れます。だから、現実を受け止めて、どうしていくか、が大事ですよ。○○は、もうテクニックを披露する踊りはしませんが、表現力がすばらしい。芸術性に取り組む姿勢は、ほんとに立派ですよ。私は、今はとにかくボディをしっかり保つことに気をつけて取り組んでいます。」




想像していた通り、すばらしい方でした。
それを表現しきれないのがもどかしいです。
大人クラスでは、まず、指導していただけることのない大先生。
ぜひ、また、セミナーをやってほしいです。


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4 コメント

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Unknown (ダチョウ)
2009-04-27 17:29:00
大先生の特別レッスンが受けられてよかったですね。

M.Mさんのことででしょうか?大先生とは。
「白毛女」など思い出されますね。

ちょうど今、レッスンを続けていてもつまらないかな?と考えていたところなんです。
若い時みたいには、飛んだり回ったり、何にもできなくて。もちろんゆっくり1回ずつとかはいいのですが、続けてはできません。
でもそれでもいいのかな。
バーレッスンだけでも続けていければ、また何かが見えてくるのかも知れませんね。

どうぞ、
発表会の練習、がんばってくださいね。

躍りたい心は今も変わらずなんですけど・・・
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ありがとうございました (なお)
2009-04-27 22:10:20
素敵なレッスン話ありがとうございました。
なんか涙がでちゃいそうです。
大先生のお母様が列車に並ばれたこと・・・
心に響きました。
私も娘の支えになりたいです。
返信する
ダチョウさんへ (acbe)
2009-04-28 17:58:35
いえ、大先生は、校長先生をなさっている方なんです。

私も、歳を重ねるごとに、なんというか、心と反比例するかのような肉体を感じます。
心に対して、肉体が重荷になり、肉体に対して、心が重荷になり。
気がつかないうちにがたがたになっていましたし。

だから、かなり長い間、バレエが楽しいとか、とても言えませんでした。
ただ必死で、幸いにも先生がそれを支えてくれ、なんとか持ち直しましたが、ほんとにつらかったです。
今も、まだ本調子ではありませんし、なにかと戦っているような感覚があります。(苦笑)

ただ、大先生を拝見してて、やはり「継続は力なり」だと、心から思いました。
踊りたい心のあるダチョウさんなら、続けているうちに、また、なにかをつかまれると私は思います。
私も、ダチョウさんと同じく、ただ踊りたくて。。
えらそうにすみません。。




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なおさんへ (acbe)
2009-04-28 18:10:25
表現しきれず、もどかしさがありましたが、文脈を汲み取っていただいて、ありがとうございます。
コメント、とてもうれしいです。
なおさんは、すでに、お嬢さんをしっかり支えていらっしゃるじゃないですか。
そのまま自然体で充分にすばらしいおかあさんなんじゃないかと、私は感じますよ。
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