職人というか専門家というか、とにかくそういう人がいなくなっては困る。しかし、現実にはどんどん少なくなっているのも動かしがたい事実である。「ああ、職人てすげぇなぁ」と思う機会はそんなにないのだが、たまーに遭遇するとそれは深く記憶に刻まれるのである。
しばらく前、姉がウチの娘にくれた腕時計のバンドが壊れた。当時まだナナックが健在で、その中に時計の電池交換や修理をする小さなお店もテナントで入っていた。何となく記憶にあったので、娘を伴って修理をお願いしてみた。すると、ためつすがめつ確認の後、このように説明してくれた。
「あのー、この腕時計のバンドのサイズ、一般的なモノじゃなくてちょっと小さいんですね。で、このバンドと時計部分をつなぐ金具があるんですが、ここにはそのサイズの在庫がなくて、もしかして、古いお店だったらそのサイズの金具があるかも知れません。まあ、ウチではちょっと交換出来ないです」
とまあそんな感じのことを言われた。なるほど、そんなこともあるのかと、しばし熟慮をし、そういえば、と思いだした。確か八幡町からもりげきに曲がるあたりに古い時計屋さんかあったはずだ。で、行ってみると、オレの記憶に間違いはなかったようで、古い時計屋さんがあった。店の中に入ると、もう商売っ気は全然ないよ、という潔さに溢れていた。
で、ナナックのお店で言われたことを言ってみると、ノギスでサイズを測りながら
「んー、確かにこのサイズの金具は無いんだけど、ちょっと削っていいですか?」と聞かれた。
なるほど、本体の方をちょっと削って、ちょっと大きい金具を入れちまおうってわけだ。削ったところで目立つところでもないし、本人も気にしていないので
「んじゃ、お願いします」ってことにして、バンドも娘が気に入ったヤツを選び、しばし待つ。
待ちながら店内をうろうろしてみる。うろうろしてみるったって、そんなに広い店じゃないから、そこら辺に置いてあるモノを見て「へぇー」とか「ほぉー」とか言ってるだけなんだが、なんと時計屋さんだけあって、宝石も置いてある。値段を見ると結構良いお値段のモノなのだが、わりと無造作に陳列してある。流石に、手に取れるような棚に置いてあるわけではないのだが、エメラルドだのサファイヤだのルビーだの、いろんな指輪だったりネックレスだったりがあった。
そうこうしているうちに修理も仕上がった。
サイズ違いで金具がない状態でも、本体を削れば入れられるということを思いつき、それを提案し、滞りなくやってのける技術。まさに職人の技だろう。多分ナナックの人も、削って入れてしまうという選択肢を持っていれば、出来るくらいの腕はあると思う。しかしそれは経験に裏打ちされた予想と判断と腕が必要なのだ。
まあそんなこともあって、敷き布団を買うにしても、○トリとか○cmとかじゃなく、布団屋さんで買うことにした。まあ、それまで使ってた敷き布団は、○トリで買ったんだけどね。
目指すは「ふとんの菅原」。以前20年使った羽毛ふとんをリフォーム出来るか相談しに行ったお店だ。そのときは、いろいろと確認して、リフォームは難しいという結論になり、新しいのを買ったのだが、その説明などがいろいろ腑に落ちるもので、またなんかあったら来ようと思っていたからだ。
そんなわけで前回書いたように、腰痛と敷き布団について一通り説明し、店にある敷き布団を試させてもらった。敷き布団と言っても、現在の主流はマットレスで、高反発やら低反発やら点で支えるやら、とにかくそういうモノらしい。なるべく硬いモノが良くて、出来ればコンパクトになるヤツ、という希望は言ったのだが、コンパクトになるモノはあんまり無いようだった。
主に2種類のマットレスを試し、ついでに大谷翔平が使ってるらしい西川のマットレスにも寝てみた。そうやって試しているあいだにも、枕を選ぶ際に見るべき、立っている姿勢との関係だとか、大谷翔平のマットレスの調整に、西川の職人が渡米しているとか、いろいろと説明してくれる。
結局、一番最初に試した、一番硬いマットレスを選び、その上に敷くパッドも購入。そして一週間が経った。朝起きたときに腰痛はない。このマットレスで良かったようである。