30日にバスに乗った。その時のちょっといい話。
その日はもりげき演劇アカデミー「井上塾」の花見ってことで、ヌッフ・デュ・パブに行こうとしていた。天気も悪くないので自転車で行こうと思っていたのだが、最近いろいろとうるさいので、バスで行くことにした。
連休前半の最後の日の夕方、17時22分紅葉が丘団地前からバスに乗車。ほとんど遅れることもなく定時で乗ることができた。この時点で、バスは貸し切り。俺の他には誰も乗っていない。
「もしかして俺乗らなかったら、誰も乗らないでまわってるのか? このバスは?」などと思いながら椅子に座っていた。
次の停留所も次の次の停留所も無人。
「誰も乗らないバスを運転してたらモチベーションも上がらないよなぁ、一体どのくらいのバスが無人で運行してるんだろうなぁ」
などと思いながら、さらに無人の停留所を過ぎる。
愛宕町の信号を右折して、次の停留所に近づく。やはり停留所には誰もいない。
しかし、その手前10メートルくらいのところに、杖をつきながら歩いているおばあさんがいた。何となく急いでる風情でもあるけれど、バスを振り返るわけでもないので、乗るかどうかは分からない。
バスは慎重にそのおばあさんの横を通り過ぎようとしていた。と思ったら、停留所よりかなり手前でバスが止まった。
そして、自動ドアが開いた。少し間があって、そのおばあさんが乗り込んできた。
(ああ、乗る人だったんだ)
「どうもすいません、ありがとうございます」
と言いながらステップを上がって、バスに乗り込んだ。
「ああ、これは良く乗ってる人なのかな? しかし、バス停ぴったりじゃなくて、乗りやすいところに停めてあげるとはなかなかやるじゃないか運転手さん」
とか何とか思いながら、またしばらくバスに揺られる。
まあ、客も俺しか乗っていないという事情もあったろう。しかし、なんというか、すうっと自然にそういうことができる運転手さんに感動もしていたので、何か声をかけたい、と思ったのだ。
おばあさんは俺が降りるより手前で降り、なんか声をかけたい俺と運転手さんが残った。
で、信号待ちの時に思い切って声をかけてみた。
「さっきの人はいつも乗る人なんですか?」
「いや、初めて」
「初めての人なんですか? いつも乗ってる人じゃなくて?」
「初めて、びっくりしちゃって」
と、運転手さん。
何にどうびっくりしたかは分からないが、とにかく、いつも乗る常連さんではなくて、杖をつきながら急ぐ様子を見て、バスに乗りたいんじゃないだろうか? と、判断していたのだ。
「素晴らしい対応でした」
と声をかけてバスを降りたのだが、なんだかとても良いものを見たなぁとしみじみ感動したのだった。