黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

時代の流れと司法との関係

2008-01-01 14:03:22 | 司法一般
 明けましておめでとうございます。
 大晦日は,古典的ですが紅白歌合戦を観て過ごしました。最近は歌番組を観る暇もないので,年末くらいは歌番組を観ないと,最近どんな歌が流行しているのか分からなくなってしまいます。
 「昨年の」紅白は,何といってもGacktがすごかったですね。「我こそは毘沙門天なり!」ってな感じで,完全に上杉謙信になりきっちゃってました。その前に歌った小林幸子がかすんで見えましたね。ただ,Gacktの歌っていた曲自体は,さほど売れているとは思えないのですが。

 歌の流行はその時代に大きく左右されますが,司法の世界もその時代の流れに左右されます。ただ,司法の特徴として言えるのは,時代の流れが一般社会の常識よりかなり遅れて反映されるということです。
 裁判には,どうしても何年単位で時間がかかってしまいます(これは,日本の裁判が特に遅いのではなく,弁護士が100万人いるというアメリカでも,訴えを起こしてから陪審員の裁判にかかるまでには,ディスカバリーなどの手続きで1年や2年は優にかかります。)から,何らかの重大事件が発生しても,判決が出る頃には社会的にはどんな事件はとうに忘れ去られていて,その判決が法律論として重要なものだったりすると,判決が出た後でその事件のことが法曹界で大きな話題になったりする,といったことが起こるからです。
 昨年,橋下弁護士が弁護団に対する懲戒請求をテレビで唆して物議を醸した,光市母子殺害事件も,事件自体は平成11年に起こったものですが,その他の例もいくつか挙げてみましょう。

1 サブリース問題
 昭和62年ころからの不動産バブル期に,不動産のサブリース契約というものが多く利用されました。不動産の有効活用ということで,都心の空き地にビルを建てて,それをデペロッパーが一括で借り上げ,第三者に転貸するというのが基本形態ですが,事例によってはビルの建設までデペロッパーが請け負っていたりします。
 そして,当時は不動産の地価もさらに上がると思われていたので,年3%くらいの割合で賃料の自動増額特約が付けられ,地主もその賃料を当てにしてビルの建設資金を借り入れたりしていました。
 ところが,平成4年ころに不動産バブルが崩壊し,このスキームではデベロッパーが大損することになってしまったのですが,これに対しデベロッパー側が借地借家法32条の借賃減額請求権を行使して,これに反発する地主側との間で訴訟が頻繁に発生しました。
 その中でも,升永弁護士が地主側の訴訟代理人になったセンチュリータワー事件では,不動産のサブリース契約は建物賃貸借契約ではなく事業委託型の契約であるなどといった主張をして,第一審や控訴審の判決ではこのような主張が一部認められたりもしたのですが,この問題について最高裁の判決が出たのは,平成15年10月21日になってからのことです。

2 「ゆとりローン」問題
 これも不動産バブル絡みの話ですが,一時期住宅ローンについて「ゆとりローン」,つまり将来の年収増加を見越して,住宅ローンの返済額を最初は少なめにし,年を経るに従って返済額を増やすという契約が多用されたことがあります。
 しかし,終身雇用制の崩壊に伴い,年功序列型で給料が上がっていくという常識が崩れると,当然ながら「ゆとりローン」では年を経るに従って住宅ローンの返済ができなくなってしまうことになります。
 そのため,ゆとりローンの契約は数年でとりやめになり,FP業界では通常の住宅ローンへの借り換えに関する相談事例が増えたこともありましたが,それも平成12年か13年ころには一段落ついたか,といったところでした。
 ところが,黒猫がやっている住宅ローン条項付き個人再生では,そういったゆとりローンの事案が,平成16年か17年くらいになっても散見されました。要するに,「ゆとりローン」の住宅ローンが払えなくなった人が,消費者金融から借入を続けて頑張り続け,やがてそれも追いつかなくなって債務整理の相談に来るといった事例があったわけです。さすがに,最近はあまり見かけなくなりましたが。

3 「多子高齢化」問題
 表題を見て,少子高齢化の間違いではないかと思う人もいるかもしれませんが,これは相続事件の話です。
 現代社会で問題になっているのは「少子高齢化」ですが,最近の相続事件で問題になるのは,子供の数が非常に多かった時代の人が,非常に高齢になってから亡くなるので,相続人の数がやたら多く,しかも子供の方が先に亡くなって孫が代襲相続人になっていたりして,相続関係がやたら複雑になっている上に,相続人間の人的交流がほとんどなく,遺産争いでもめるケースが多くなっており,これが「多子高齢化」問題というわけです。
 もっとも,これは単に昔の人の子供が多かったというだけではなく,戦前の民法はそもそも均分相続制を採っておらず,戦後もしばらくは親と同居している長男などが遺産を総取りして誰も文句を言わないといった事例が少なくなかったところ,最近は一般人の権利意識が強くなってきてそれでは立ち行かなくなってきたという側面もあるので,ある意味現代的な社会現象とも言えなくはないのですが。