黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

『僕は依頼者が少ない』第4話(1)

2013-08-10 20:32:02 | パロディ小説『僕は依頼者が少ない』
 しばらくお休みしていた,パロディ小説『僕は依頼者が少ない』の続きです。プチ断食中で気分を紛らわすために書いているだけなので,適当に笑い飛ばしてください。


 東京弁護士会の新人研修は,クラス別で行われる。
 弁護士の人数が増えて横の繋がりが薄くなってきたので,少しでも同期の仲間作りをしようという配慮らしいけど,僕みたいに就職できず,なるべく知人の同期と顔を合わせたくないと思っている人間にとっては,はっきり行って大きなお世話である。
 ただ,幸いだったのは,良い事務所に就職できたリア充は必ずしも多数派ではないようで,就職先のことを話すのはタブーという雰囲気が出来ていたことである。
 先日第1回の研修があって,ちょうど修習でも同じクラスだった人と,ちょっとばかり情報交換というか雑談をしたけど,互いに就職先の話は一切しなかった。これが大人のマナーというやつである。

 研修を終えて,その足で現在の所属事務所となっている『世田谷クレセント法律事務所』に出向く。名目的には,東弁の非公認派閥である『隣人部』の活動であるが,実質的には事務所は京香の自宅であり,隣人部なるものの活動実績は,とある裁判ゲームの攻略に失敗したことくらいである。
 もはや,弁護士業で食っていけるようにしてくれなんて贅沢なことは言わない。せめて,廃業を余儀なくされるまでに,一度くらいは弁護士らしい活動をしてみたい。そんなマイナス思考の連鎖に陥っている今日この頃であった。

 京香に迎えられて事務所(京香の自宅)にお邪魔すると,事務所の応接間(自宅のリビング)の隅に,20インチくらいの液晶テレビとプレステが置かれていた。前回来たときにはなかったものだ。
 部屋には既に聖菜がいた。
「・・・・・・なにこれ?」
 僕が言うと,聖菜は馬鹿にした顔で,
「さすが,底辺太郎だけあって無知ね。これはテレビジョンとプレイングステイツという文明の利器よ。電気で動くわ。あ,電気って分かる?」
「僕は未開人か!? 僕が聞いてるのは,なんで事務所にこんなもの持ってきたのかってことだよ」
「つくづく愚かしい質問ね。ゲームをやるために決まってるじゃない」
「私の部屋に勝手に私物を持ち込むな」
 京香は不機嫌そうな顔でそう言って,こないだ聖菜が持ち込んだティーカップに,ポットからコーヒーを注いで飲み始めた。ちなみにポットも紅茶を淹れるために聖菜が持ってきたものだが,京香が勝手に出来合いのコーヒーを入れてしまっているらしい。
「なんでわざわざ事務所でゲームを?」
 大逆転裁判7の苦い思い出が脳裏をよぎり,僕はジト目で聖菜に尋ねた。
 聖菜は得意げに豊かな胸を反らし,
「あんなクソゲーじゃなくて,ちゃんと活動に役立ちそうなゲームを見つけたから,わざわざ持ってきてあげたのよ。感謝しなさいクズども」
 クソゲーよばわりですか・・・・・・。
 あのときは,楽しみ方が根本的に間違っていただけで,普通にプレイすれば結構面白いゲームだよ。僕はあれからもやってるし・・・・・・一人で。
「黙れ肉。コーヒーが不味くなる」
 京香はそれだけ言って,聖菜を放置して文庫本を読み始めてしまう。念のため説明しておくと,肉というのは京香が勝手に付けた聖菜のあだ名,というよりは蔑称である。大逆転裁判7をやったとき以来,いつの間にか定着してしまったらしい。
「ちょっと! せっかく用意してあげたんだから人の話を聞きなさいよ!」
 涙目になって抗議する聖菜に,京香は舌打ちして顔を上げた。
「あたしが無知蒙昧な馬鹿ギツネと使えない底辺太郎の代わりに用意してあげたのはこの・・・・・・って聞いてよ!」
 読書に戻る京香に聖菜はまたも怒鳴る。
 例によってしょうもないケンカ(?)をしている二人だが,先程クラスメイトから仕入れた情報によると,二人とも「美人過ぎる司法修習生」として同期では話題になっていたらしい。もっとも,こうしてケンカをしていると美しい顔も台無しで,ただの変な女二人組にしか見えない。
 あと,底辺太郎呼ばわりされるのはもう諦めた。たぶん一生言われ続けるのだろう。
「あたしが用意してあげたのはこれよ!」
 聖菜が得意げに鞄から取り出したのは,とあるゲームソフトのケースだった。
 パッケージには数人のアニメ調の女の子が描かれている。
「・・・・・・『ときめいてメモリーデイズ11 Second Edition?』」
 京香が聖菜からケースを受け取り,タイトルを読み上げた。
 さらにパッケージを裏返して淡々とそちらも読む。
「・・・・・・大人気美少女恋愛シミュレーションゲーム『ときメモ』待望の最新作びっくりびっくりびっくり。合計8人の美少女達と仲良くなってバラ色の学園生活を送ろうびっくりびっくりびっくり。セカンド・エディションでは,驚きの『社会人モード』も搭載びっくりびっくりびっくり」
「エクスクラメーションマーク(!)まで律儀に読む必要ないんじゃない?」
 おそらくわざとやっているのは察しが付いたけど,とりあえず京香にツッコむ。
 僕はやったことないけど,『ときメモ』の名前くらいは聞いたことがある。たしか女の子との恋愛を楽しむゲームで,世間的には『ギャルゲー』と呼ばれるジャンルに属する。
「ゲームのお店に行ったらたまたま見つけたのよ」
 聖菜が言う。
「大逆転なんとかより,よっぽどこの部の活動にふさわしい内容でしょう?」
「どこが!? どう見ても弁護士の仕事と全く関係ないよ!?」
 僕は全力で突っ込みを入れたのだが,
「・・・・・・たしかに,他人と会話する練習にはなるかもしれないな」
 京香は,真顔で同意してしまった。
「そうよ。それとそこの使えない底辺太郎くん,パッケージの裏をよく読みなさい。Second Editionで追加された『社会人モード』は,なんと法科大学院が舞台になっているのよ!」
「「法科大学院が?」」
 僕と京香の声がハモった。
「世間が法科大学院というものをどんな風に見ているか研究するのよ。馬鹿キツネと底辺太郎は,ついでにこれでせいぜい対人能力を鍛えるといいわ。さすがあたし,自分の天才ぶりに恐怖してしまうわ」
「そんなこと言って,どうせまた自分だけで何時間もやり込んでいるんだろう。これだから肉は・・・・・・さて,割るか」
 いきなりケースを割ろうと両手に力を込めた京香から,聖菜は慌ててふんだくり,
「こ,今回はやってないわよ! まだ開封もしてないでしょ?」
 聖菜の言うとおり,ソフトのケースは透明なビニールで包装されたままだった。
 京香は不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「ふん,だったらさっさと開けて準備しろまったく使えない肉だな。お前の使えなさにはつくづく呆れるばかりだ」
「ぐぐ・・・・・・」
 顔をひきつらせつつ,それでも聖菜はビニールの包装を破ってケースからソフトを取り出し,PS3にセットし電源を入れた。
 社会人モードとやらが法科大学院を舞台にしているとしても,やはり弁護士業務とは関係なさそうに思えるのだが,僕としても法科大学院ゲームに対する興味の方が勝ったので,その点はもうツッコまないことにする。たぶんツッコんでも無駄だし。
 その代わり,「説明書は読まなくてもいいの?」と尋ねたところ,
「やってみれば分かるでしょ。アクションじゃないから,そんなに複雑な操作もないわよ」
 テレビを付けると,メーカーのロゴが出た後,キャッチーなメロディーに合わせてオープニングムービーが流れ始めたと思ったら,
「邪魔」
 聖菜はスタートボタンを押してオープニングをスキップした。
 まるでやり慣れたゲームを始めるかのように,タイトル画面で「ニューゲーム」を選択し,モード選択で「社会人モード」を選択すると,名前の入力画面になった。
 どうやら主人公の名前を自分で決めなければいけないらしい。
「ええと,か,か,か,り,わ,・・・・・・ざ,き・・・・・・」
「おい肉。なんで勝手にお前の名前にしてるんだ」
 迷い無く自分の名前を入力していく聖菜に,京香がいちゃもんを付けた。
「あたしこそ主人公に相応しいからに決まってるじゃない」
 聖菜が即答した。
「却下。ここは部の代表である私の名前を入れるべきだろう」
「いつからあんたが部の代表になったのよ馬鹿ギツネ」
「・・・・・・主人公は男みたいだから,僕の名前にしたほうが・・・・・・」
「「却下」」
 僕の呟きに,二人はハモって即答した。まあ,そうなるだろうとは思ったけどさ・・・・・・。
「・・・・・・それなら,ゲームを持ってきたのは聖菜なんだから,命名権くらいは聖菜に譲るのが妥当じゃないかな?」
 僕が言うと,京香は暫し不機嫌な顔でごねていたが,
「いや待てよ,法科大学院モード? それなら・・・・・・」
 そう小さな声で呟くと,急に笑みを浮かべてこう言った。
「しょうがないな。心の広い私が譲ってやろう」
「ふん,分かってるじゃない底辺太郎くん」
 聖菜はそう言って,自分の名前を入力していく。京香が何を企んでいるか,僕には何となく察しが付いたが,京香の表情を見ていない聖菜は気付かないようだった。

 こうして,主人公の名前は「刈羽崎 聖菜(かりわざき せいな)」に決まり,ゲームの本編が始まった。メッセージ画面で,主人公の語るモノローグが表示される。

 僕の名前は刈羽崎聖菜。自分で言うのもなんだが,ごく普通の法科大学院生だ。充実した学園生活を送って,将来は立派な弁護士になりたいと思っている。

 そこまで流れたところで,京香はいきなりハンカチで目頭を押さえ,おいおいと泣き始める。
「な,なんて残念な奴なんだ,肉・・・・・・。今時法科大学院に入って,充実した学園生活を送った挙げ句,将来は立派な弁護士になれるなんて脳内お花畑な妄想をしてる奴がいるなんて・・・・・・」
「しかも学園生活は3年間っていうから,未修者コースだね。学園っていうよりは,懲役3年,罰金400万円の併科って感じだよね。法科大学院に入ったのなら,自分は地獄の一丁目に来たっていう自覚を持つべきだと思うよ」
 京香の言葉に僕が続けると,聖菜はムキになって,
「こ,これは現実じゃなくてゲームよ! それにあたしは天才なんだから,どんな狭い難関だって乗り越えて,見事に充実した法科大学院ライフを送って,立派な弁護士になってやるんだから!」
「どうだか。見事に肉が中退して自殺するエンディングにでもなったら,このゲームを神ゲー認定してやろう」
「くううう・・・・・・」
 聖菜は涙目で悔しげに呻きつつ,それでもゲームを進める。
 果たしてこのゲームの制作者は,法科大学院の現実を分かっているのか。それとも分かっていなくて単に高校を法科大学院に置き換えただけなのか。それが問題だ。
 入学式で,研究科長と思しき人からのメッセージが流れる。

「新入生のみなさん,ご入学おめでとうございます。・・・・・・(中略)・・・・・・法科大学院については,マスコミやネットなどで,様々にネガティヴな情報が流れています。しかし,我がときめき大学法科大学院は,巷に流れるネガティヴな情報とは一切無縁です。皆さんは,決してネガティヴな情報に惑わされることなく,安心して自信と誇りを持ち勉学に邁進してください」
「しかし,間違えてもらっては困るのですが,ロースクールに入ったら,ひたすら司法試験合格に向けて受験勉強にいそしむべきなどと考えてはいけません。ロースクールの授業に背を向けて,1人閉じこもって,予備校本を頼りにひたすら受験勉強に明け暮れていては,かえって合格から遠のくということをしっかり認識してください」


 どうやら制作者は,それなりに現実を分かっているようだ。
「リアルだな。見事なまでにウソばかり・・・・・・。可哀想な馬鹿肉は,こんな奴らに騙されて,そのまま解体されて肉屋に売られてしまうのだな・・・・・・」
「ときめき大学法科大学院。実在する法科大学院じゃないけど,見るからに下位ローって設定だよね。たぶん入学者の7,8割くらいは中途退学か三振,残りの2割はニート弁護士になるのかな?」
 言いたい放題の京香と僕(ちなみに京香はドナドナを歌い始めた)に向かって,聖菜は泣きそうな顔で呻く。
「あ,あんたたち・・・・・・。見てなさいよ,何と言われようとも,あたしは絶対に立派な弁護士になってやるんだから!」

(続く)


4 コメント

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昨晩のMr.サンデー (Unknown)
2013-08-12 10:08:24
 ガソリンスタンドで他人のクレジットカードを使ったとして窃盗罪で逮捕された事件が弁護士の立証で誤認逮捕だったことがわかり、大阪地検堺支部長は起訴取り消しになった男性に支部で会い謝罪したとのこと。

 昨晩のTV番組Mr.サンデーで、誤認逮捕を客観的な証拠により覆した若手弁護士(30歳)の特集を再現ビデオでやっていました。

 金星を挙げたのは、何と2011年に新司法試験に合格、昨年12月に弁護士登録したばかりの新米弁護士だとか。

 無名の事務所所属でしかも新米のロー卒弁護士に見事一本取られた旧試合格エリート検事の悔しさは相当のものでしょう。

 ロー卒弁護士もなかなか捨てたもんじゃないですね。
あっぱれです。
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Unknown (Unknown)
2013-08-12 22:18:56
最近のブログのコメント欄,特に弁護士の発言を見ていると,雰囲気の悪さを感じます。

みなさん,よっぽど余裕がないのか,本当に大丈夫なんでしょうか?

黒猫さんは,最近の法曹界の雰囲気をどのように感じておられますか?

http://blog.livedoor.jp/schulze/archives/52032770.html

http://ittyouryoukai.cocolog-nifty.com/blog/2013/08/post-d5c0.html

特に,一聴了解さんの上記ブログに書き込まれた,「通りすがりの弁護士(旧試験)」の発言の雰囲気は,もしそれが法曹界の標準だとしたら,結構やばいように思います。
(一聴了解さんの反応はさすがだと思います。)
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Unknown (Unknown)
2013-08-13 01:19:24
心情で裁判をすることが専門家だとは思いません。
そもそも「違憲」にこだわらなくても、裁判は出来たでしょう。
しかし、立法府に改正の義務づけというところにこだわるから、違憲訴訟を選択するのです。
何の根拠もなく。
問題提起をすることなどと言って欲しくないですね。
問題提起だけなら、給費廃止の立法改正の裁量権逸脱だけを問題に出来たと思います。
無理な裁判なんて誰の共感も得られませんし、まあ言っても無駄でしょ。宇都宮健児が団長なのだから。


投稿: 通りすがりの弁護士(旧試験) | 2013年8月 6日 (火) 11時29分


平等権侵害だけでなく多岐にわたる違憲の主張?
下手な鉄砲も数撃てば・・・ということですか?
下手な鉄砲は何発撃っても下手なのです。
あれもこれも言っている分、あーこいつ何も分かってねえぜ、という意味にしかならないのでは?
第一、対案を示さなければ批判するな、という発想自体頭がおかしいのではないでしょうか?
対案を出す義務がどこにあるのですか?私は65期修習生の代理人ではありません。
批判してもらえるだけありがたいでしょ。無視されることこそ存在を否定されているのです。
ところが、対案を出さなければ批判するなというのは、要するに、自分の頭で考えることが出来ないから、他人が何か言ってくれるのを待っているのに、自分達への批判だけでは、便乗できないじゃないか、というだけの話なのでしょう。

給費制廃止違憲訴訟なんぞに興味ありません。共感が得られると思っている彼らは自意識過剰でしかありません。
勝手にしくされ。

投稿: 通りすがり | 2013年8月 7日 (水) 00時07分


上記の発言のうちで特に「対案を示さなければ…」のあたりは,かなりやばい雰囲気を醸し出して,「勝手にしくされ」は結構きてます。
ネット弁慶なのか,リアルでもこんなんなのか。
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Unknown (Unknown)
2013-08-13 01:21:31

私は給費制を廃止された司法修習生及び弁護士に対する心情を求められても困惑するしかないですね。
人のことに構っている余裕がないのです。
0302氏やschulze氏らが、給費制廃止違憲訴訟にどのような思いをもっているかなど、他人の思想や信条について踏み込むつもりもないですが、なんで、そのような配慮がないのかと言われると、私の人生に関係ないから、人のこと気にしていられるほど生活が裕福ではないから、としか回答しようがないですね。
修習生を突き放すのかと言われると、まず修習生を500人に戻すことに一言も言及せずに、給費制を廃止したことはおかしい、と言っている人間であれば、私は突き放します。


投稿: 通りすがりの弁護士(旧試験) | 2013年8月 7日 (水) 16時06分

これもまた,荒れていますね。
弁護士ってみんなこんな感じなの?

しかも,突き放すとかわけわかりません。何様でしょう。
少し先に合格して弁護士になれば,偉いのでしょうか?
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