最近,いまいち集中力がなくて,ブログの更新もときどきしかやってません。明日は弁護士会で民法(債権法)改正のバックアップ会議があるのですが,そっちの検討も進まないし・・・。
もっとも今日は,民法改正の話題ではなく,ふだんこのブログではあまり書かない刑事司法の話題です。
どこの事件だったか忘れてしまいましたが,最近のテレビで取り上げられた刑事事件の判決で,かなり無理のある「秘密の暴露」を認定し,被告人の有罪を認めてしまったという話題がありました。今回はこれを機に,「秘密の暴露」に関し若干の問題提起をしてみたいと思います。
今,黒猫の手元には『自白の信用性』という司法研修所編のテキストがあります(この本は修習生時代に買ったけど,ほとんど読んでなかったな・・・)。この本によると,刑事司法上の「秘密の暴露」という概念は,グラスベルガーが『刑事手続きの心理学』という著書(1950年刊)の中で主張した概念で,「秘密の暴露」の有無をもって,刑事事件の被疑者による自白の真偽を区別する標識とすべきという考え方です。
わが国には,「刑事心理学」という学問分野はほぼ無いに等しいのですが,この「秘密の暴露」という概念は早くから裁判実務に取り入れられ,被疑者段階における自白の信用性が争点になる刑事事件の多くでは,その自白に「秘密の暴露」があったか否かが重要な争点になります。
「秘密の暴露」とは,少し具体的に説明すると,被疑者による自白の中に,その当時捜査官が知り得なかった客観的事実が含まれている場合には,その自白は捜査官による作り話ではないため,一般的に信用性が高いという考え方です。
例えば,殺人事件における被疑者の自白で,その際被疑者が使用した刃物の投棄場所を供述し,その後の捜査で被疑者が言ったとおりの場所に刃物が見つかったという場合には,その自白は全体として警察官などの作り話ではなく,被疑者自身が真実を語ったものである可能性が高いといえるでしょう。
ただし,被疑者の供述に「秘密の暴露」があれば,それによって直ちに被疑者の供述すべてが信用できるというわけではもちろんありません。「秘密の暴露」の重要性は検察側も認識しているので,実際に公判段階で無罪とされた冤罪事件でも,被疑者による「自白」の中には,一応「秘密の暴露」らしきものは含まれていることが多く,警察や検察は自ら作り上げたストーリーの中に,被疑者から得られた「秘密の暴露」らしきものを織り込んで,一応信用性のありそうな供述調書を作ってしまうことも多いのです。
『自白の信用性』の中に具体例として挙げられている論点としては,①被疑者による供述と捜査官による発見の前後関係がはっきりしない場合,②「秘密の暴露」の内容と犯行との関連性が薄い場合,③被疑者の自白した遺留品が特徴のない物や,同種の物が多数出回っている物であり,被疑者による供述との関連性が確認できない場合などが挙げられています。
ただ,こうした「秘密の暴露」という問題は,刑事事件の事実認定上かなり重要な役割を果たしているのですが,これに関する具体的な研究は,わが国では司法研修所などで細々と行われているに過ぎません。法科大学院にいる刑法や刑事訴訟法の研究者は,実務など無視した独自の「法理論」を構築することに関心が集中し,自白の信用性などという実務的で地味な研究分野には見向きもしない(当然司法試験にも出ない)ので,司法試験に合格し修習生となった人のほとんどは,「秘密の暴露」について真剣に考えるのは修習生になってからでしょう。
ドイツの心理学は,刑事法だけではなく日本の現行民法典にも相当影響を与えているらしいのですが,現在のわが国における法律学は心理学と完全に切り離され,法学部に心理学の講座が設けられているところはあっても数少ないでしょう。そのため,実務上も司法に心理学の知見が活かされることはほとんどありません。
しかし,弁護士の実務としても,特に多重債務事件や離婚事件の処理ではカウンセリングの知見が必要であると言われていますし,今回挙げたような「秘密の暴露」について実質的な議論を深める場としても,本来法律学と心理学は相互交流があって然るべき学問分野です。現在の法曹養成過程に,心理学と触れる機会がないのは残念というほかありません。
もっとも,こうした傾向は昔からあったというわけではなく,旧司法試験には教養選択科目というのがあって,受験生が論文試験で選択すべき教養科目の中に,心理学も含まれていました。平成の初めころになって,教養選択科目は受験生の負担軽減という名目で廃止されたのですが,受験生に法科大学院で何年も勉強させるのであれば,教養選択科目も復活させるべきでしょう。
現在の法曹には,他学部による教育が必要な専門的な知見(例えば特許事件に関する科学など)を持った人が極端に少ないことが問題視されていますが,新司法試験に教養選択科目を設け,その科目にいろいろな学問分野を設ければ,こうした問題もいくらかは解決できるでしょうし,他学部出身の優秀な人材を取り入れる契機になるかも知れません。
もっとも今日は,民法改正の話題ではなく,ふだんこのブログではあまり書かない刑事司法の話題です。
どこの事件だったか忘れてしまいましたが,最近のテレビで取り上げられた刑事事件の判決で,かなり無理のある「秘密の暴露」を認定し,被告人の有罪を認めてしまったという話題がありました。今回はこれを機に,「秘密の暴露」に関し若干の問題提起をしてみたいと思います。
今,黒猫の手元には『自白の信用性』という司法研修所編のテキストがあります(この本は修習生時代に買ったけど,ほとんど読んでなかったな・・・)。この本によると,刑事司法上の「秘密の暴露」という概念は,グラスベルガーが『刑事手続きの心理学』という著書(1950年刊)の中で主張した概念で,「秘密の暴露」の有無をもって,刑事事件の被疑者による自白の真偽を区別する標識とすべきという考え方です。
わが国には,「刑事心理学」という学問分野はほぼ無いに等しいのですが,この「秘密の暴露」という概念は早くから裁判実務に取り入れられ,被疑者段階における自白の信用性が争点になる刑事事件の多くでは,その自白に「秘密の暴露」があったか否かが重要な争点になります。
「秘密の暴露」とは,少し具体的に説明すると,被疑者による自白の中に,その当時捜査官が知り得なかった客観的事実が含まれている場合には,その自白は捜査官による作り話ではないため,一般的に信用性が高いという考え方です。
例えば,殺人事件における被疑者の自白で,その際被疑者が使用した刃物の投棄場所を供述し,その後の捜査で被疑者が言ったとおりの場所に刃物が見つかったという場合には,その自白は全体として警察官などの作り話ではなく,被疑者自身が真実を語ったものである可能性が高いといえるでしょう。
ただし,被疑者の供述に「秘密の暴露」があれば,それによって直ちに被疑者の供述すべてが信用できるというわけではもちろんありません。「秘密の暴露」の重要性は検察側も認識しているので,実際に公判段階で無罪とされた冤罪事件でも,被疑者による「自白」の中には,一応「秘密の暴露」らしきものは含まれていることが多く,警察や検察は自ら作り上げたストーリーの中に,被疑者から得られた「秘密の暴露」らしきものを織り込んで,一応信用性のありそうな供述調書を作ってしまうことも多いのです。
『自白の信用性』の中に具体例として挙げられている論点としては,①被疑者による供述と捜査官による発見の前後関係がはっきりしない場合,②「秘密の暴露」の内容と犯行との関連性が薄い場合,③被疑者の自白した遺留品が特徴のない物や,同種の物が多数出回っている物であり,被疑者による供述との関連性が確認できない場合などが挙げられています。
ただ,こうした「秘密の暴露」という問題は,刑事事件の事実認定上かなり重要な役割を果たしているのですが,これに関する具体的な研究は,わが国では司法研修所などで細々と行われているに過ぎません。法科大学院にいる刑法や刑事訴訟法の研究者は,実務など無視した独自の「法理論」を構築することに関心が集中し,自白の信用性などという実務的で地味な研究分野には見向きもしない(当然司法試験にも出ない)ので,司法試験に合格し修習生となった人のほとんどは,「秘密の暴露」について真剣に考えるのは修習生になってからでしょう。
ドイツの心理学は,刑事法だけではなく日本の現行民法典にも相当影響を与えているらしいのですが,現在のわが国における法律学は心理学と完全に切り離され,法学部に心理学の講座が設けられているところはあっても数少ないでしょう。そのため,実務上も司法に心理学の知見が活かされることはほとんどありません。
しかし,弁護士の実務としても,特に多重債務事件や離婚事件の処理ではカウンセリングの知見が必要であると言われていますし,今回挙げたような「秘密の暴露」について実質的な議論を深める場としても,本来法律学と心理学は相互交流があって然るべき学問分野です。現在の法曹養成過程に,心理学と触れる機会がないのは残念というほかありません。
もっとも,こうした傾向は昔からあったというわけではなく,旧司法試験には教養選択科目というのがあって,受験生が論文試験で選択すべき教養科目の中に,心理学も含まれていました。平成の初めころになって,教養選択科目は受験生の負担軽減という名目で廃止されたのですが,受験生に法科大学院で何年も勉強させるのであれば,教養選択科目も復活させるべきでしょう。
現在の法曹には,他学部による教育が必要な専門的な知見(例えば特許事件に関する科学など)を持った人が極端に少ないことが問題視されていますが,新司法試験に教養選択科目を設け,その科目にいろいろな学問分野を設ければ,こうした問題もいくらかは解決できるでしょうし,他学部出身の優秀な人材を取り入れる契機になるかも知れません。
刑法・・・。
よく事務所で話し合いましたよね。
あの頃が懐かしい・・・。
経験に勝るものなしでしょう。
駒場時代はメガネデブだった?
元気ですか?
彼は弁護士界でも著名な弁護士として活躍しておられます。
弁護士活動、がんばってください!
windepth、なつかしいですね!
らのべもがんばってくださいb