黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

実務では何の役にも立たない「法科大学院教育」の一例

2013-02-25 22:50:30 | 法学教育論
 法曹養成制度検討会議第の7回会議・第8回会議については,委員のトンデモ発言が多すぎてどこから突っ込んで良いか悩むくらいなのですが,悩んでいても仕方ないので順番に片付けていきましょう。

1 法律行為の意義をめぐる検討会議の議論(今回のテーマ)
 第7回会議では,民法の教授で早稲田大学の総長を務める鎌田委員が,次のような発言をしています。

「以前この会議の中でも,法律行為ないし意思表示の意義などというのは,実務にも役に立たないし司法試験にも出ないという指摘がありましたけれども,そういった傾向が蔓延したのが旧試験の弊害の一つの典型でありまして,こういうふうな基礎的なことがわからなければ,現行法がなぜ法律行為の無効と取消しを区別しているかとか,法律の規定がないときにどう対処するのが法体系に整合的な対応の仕方なのかということについて,十分に基礎的な理解に基づいた対応ができないのだという反省に基づいて,きちんと理論を勉強した上で実務との接合を図る。まさに実務と理論の架橋を図るということで,プロセスとしての法科大学院教育,法曹養成教育が提案されたわけであります。」

 この,法律行為や意思表示云々は実務にも役に立たないし司法試験にも出ないというのは,民主党の前川清成議員(弁護士出身)が鹿児島大学法科大学院で民法の講義を傍聴したとき,「私たちが傍聴した前半45分は「意思表示とは、動機に導かれて、効果意思が発生し、表示意思、表示行為に至る」等と、実務では何ら役に立たない観念論が、あたかも「お経」のように延々と続きました」と自らのブログに書いているのを,第4回会議で和田委員が引用していることから,これに対する反論として「法律行為ないし意思表示の意義がいかに重要か」,ひいてはそのようなことを教えている「法科大学院教育がいかに重要か」を説明しようとする趣旨と思われます。
 もっとも,民法改正問題を通じて「法律行為」に関する議論の現状を知っている黒猫としては,鎌田委員の主張は単なる笑い話にしか聞こえないんですね。今回は主にその理由を説明するわけのですが,要するに鎌田委員の反論に対する再反論として「法律行為の意義などという議論がなぜ無意味なのか」を説明する内容なので,法律を勉強したことのない人にはちょっと厳しいお話である,ということを最初にお断りしておきます。
 なお,少しでも分かりやすくするため,この記事では「法律行為の意義なんて意味ないよ」という主張(黒猫側の主張)を青色で,「いや,法律行為の意義は大変重要だ」という主張(鎌田委員側の主張)を赤色で表示しております。

2 「法律行為」に関する議論の概要
 「法律行為」とは,民法の第1編第5章(第90条以下)で使われている用語であり,この第5章は公序良俗違反,錯誤,詐欺など民法上極めて重要な規定が目白押しになっているところなので,民法を勉強するとかなり初めのあたりでこの「法律行為」に関する規定を勉強することになります。
 もっとも,民法の規定では「第5章 法律行為」というタイトルが付いているものの,その「法律行為」という用語がいったい何を指すのかという点については何の説明もなく,第5章最初の条文である第90条はいきなり「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は,無効とする」という規定から始まっているので,「法律行為」という言葉の意味を知らないと理解できない内容になっているんですね。
 そこで,「法律行為とは何か」という説明をする必要があるわけですが,素人向けに説明するのであれば単に「契約その他」と説明すれば足ります。実際,法律行為に関する規定の適用が問題になる事例はほとんどが契約であり,民法の授業でも契約の事例を取り上げて説明するのが一般的です。もっとも,契約以外の行為にも「法律行為」に関する規定が適用される余地はありますが,そのような細かい問題については初学者に説明してもたぶん理解できないので,後で個別の論点として説明すれば十分でしょう。素人向けというだけでなく,司法試験及び実務向けという観点でも,通常は「契約その他」という理解で概ね差し支えないと思われます。

 では,民法学者はこの「法律行為」をどのように説明するのか。ウィキペディアの説明を借りれば,「法律行為は,人が私法上の権利の発生・変更・消滅(法律効果)を望む意思(効果意思)に基づいてする行為であり,その意思表示の求めるとおりの法律効果を生じさせるものをいう」「法律行為は一個または数個の意思表示を法律事実たる要素とし,それによって一定の法律効果を生じる行為である」などと説明するようです。
 そして,法律行為は契約・単独行為及び合同行為に分類されるほか,物権行為・準物権行為・債権行為,財産行為・身分行為,有因行為・無因行為,要式行為・無要式行為,生前行為・死後行為,独立行為・補助行為といった分類もある上に,さらに法律行為類似の行為として準法律行為(法律的行為)があり,準法律行為とは,通常の意思表示とは異なるが法律行為に準ずるものとして一定の法律効果を生じる行為をいい,準法律行為については法律行為に関する諸規定が類推適用されうる,準法律行為は表現行為と非表現行為(混合事実行為)があるが狭義には前者のみを指す,狭義の準法律行為には意思の通知,観念の通知,感情の表示がある・・・などと,あたかもお経のような話が延々と続きます。

 初学者の大半はこのあたりでうんざりしてしまうわけですが,司法試験に合格するためには,このあたりの説明は適当に聞き流すのが正解なのです。民法の学習でつまずく人の多くは,初学者の段階でこの「法律行為」という概念を正確に理解しなければならないものと思い込み,悩み過ぎて学習が先に進まなくなってしまうんですね。
 民法学者の中にも,このように「法律行為」の概念が複雑過ぎて学生に悪影響を与えていることを理解している人はおり,また「法律行為」という概念は19世紀のドイツ民法の影響を受けたものであり,英米法にはもちろんフランス法にもみられない概念であることから,そもそも「法律行為なんて概念は要らないんじゃないか」と主張している人もいます。また,現在法制審議会で議論されている民法(債権法)の改正では,議論の状況が複雑なので詳細は割愛しますが,法律行為に関する規定の大半を契約編に移し,法律行為という概念そのものをほとんど無意味にする改正案すら検討されているようです。

3 法律行為の意義と錯誤・詐欺との関係
 鎌田委員は,法律行為の意義といった基礎的な内容が分からなければ,現行法が法律行為の無効と取消しを区別しているか理解できないとも主張していますが,これは主に錯誤の効果が無効,詐欺の効果が取消しとされていることを念頭に置いたものと思われます。
 確かに,明治時代にドイツ法学の影響を受けて作られた学説(我妻民法など)では,2で書いたような長ったらしい説明を前提に,錯誤は効果意思が欠缺しているから無効,詐欺は効果意思に瑕疵があるに過ぎないから取消しだなどと説明しているようですが,今日では判例もそんな学説は気にしていませんし,学説上も錯誤と詐欺はともに表意者保護の規定であり,その法的効果を区別する意義は乏しいという見解が大勢を占めています。
 そして,現在法制審議会で議論されている民法(債権法)の改正では,錯誤の効果も取消しに改める方向で検討されており,この改正が実現すれば,法律行為の意義云々という議論は全部ゴミ箱行きにするしかありません。

4 まとめ
 このように,法律行為の意義云々という議論は,明治時代にドイツ法学の影響を受けて作られたというカビの生えたような議論に過ぎず,判例もそのような概念論など気にしておらず,しかも民法改正によって間もなく消え去ろうとしているものですから,これから実務家になろうとする人たちにそんな古典的観念論を教えても,実務では何の役にも立ちません。
 また,民法の初学者に対してはそんな観念論を教えても正しく理解できるわけがありませんし,司法試験受験者は学者から変な観念論を教わるとついそれを答案に書きたくなってしまう傾向があり,論文試験で聞かれてもいない抽象論を延々と書いて不合格になってしまう原因になっているので,司法試験受験者にこのような古典的観念論を教えるのはかえって有害です。
 特に民法改正については,鎌田委員は民法の教授であるというだけでなく,法制審議会民法(債権関係)部会の部会長までやっている人なので,さすがに改正の動向を知らないはずはありませんから,結局鎌田委員は,法律行為に関する観念論が実務はおろか法解釈上も役に立たないことを知りながら,そのようなことを教えるのが法科大学院教育の意義だと主張していることになります。これでは,実質的に「法科大学院では役に立たないことばかり教えています」と自白しているようなものですね。

44 コメント

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Unknown (Unknown)
2013-02-26 09:45:46
法科大学院、いいじゃないですか。地方公務員試験にすら合格できない人たちに、大金を払わせて、無能な弁護士予備軍を排出し、弁護士になっても何の役にも立たない知識を植え付けて、おまえらは旧試の人間よりも優秀だ、と勘違いさせて、世の中に送り出し、世の中をカオスに巻き込んで、国力を低下させ、社会経済を疲弊させて、その役割を終えていく。
法科大学院は国賊です。その現実と向き合わなかったことで、日本はオワター(この言葉が使ってみたかったw)。
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Unknown (Unknown)
2013-02-26 13:57:25
誰も、ローなんか期待してないよ。
ただ、入らないと司法試験受けられないから入ってるだけ。
授業なんて聞いてないし。
口を開けて鼻くそほじってるだけだよ。
どうせ、勉強は自分でしろっていうんだから。当たり前だけどね。授業なんて、本をさっさと読むほうが早いし。
学者教員なんて司法試験に通ってもいない分際でなんであんなに偉そうなのかね。不思議だわ。
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Unknown (Unknown)
2013-02-26 15:00:51
関所商法
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Unknown (Unknown)
2013-02-26 16:09:33
ベテラン弁護士も多少は被害受けてるのかな?
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Unknown (Unknown)
2013-02-26 17:35:05
なるほど、この鎌田なる人物の素性がよくわかりました。
で、これほど実務と無関係なことばかり延々と得意げに振り回して恥じないような輩が、どうしてまあ、森・濱田松本法律事務所なんてところで客員弁護士なんてやってられるんでしょうか?
MHMとやらはこの人物に何を期待して迎え入れているんでしょうか? そんな奴らが集まっているような集団が、主流中の主流として最も日の当たる場所で法外な高給を貪り続けているという事実が、私から日本の法曹界への敬意を奪い続けます。
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Unknown (Unknown)
2013-02-26 19:14:28
客員弁護士だからやってられるのでしょう。
「お、お願いですから、動かないでください」「書面は書いていただかなくて結構です」「弁論なんて、滅相もございません」「ただ、そこにいて下されば結構でございます」
実働されたらたまったものじゃないでしょう。
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Unknown (Unknown)
2013-02-26 20:50:51
そりゃあこんなんでも一応早稲田の総長ですから用心棒代を払ってるだけですよw

仮にも私学の雄と呼ばれる大学の総長がこれだけ詐欺的な欺瞞に満ちた活動をやってるんですからね。族の総長の方がよっぽど人としてマトモです。
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Unknown (案山子)
2013-02-26 21:17:26
現行法が意思欠缺=無効という意思主義を前提につくられていることは明らかですから、条文を理解するうえでもそうした原則を知っておくことは必要ではないですかね。そういう原則を理解したうえで現在の判例や通説を学んだ方が理解が早いと思います。なぜ効果の全く違う錯誤と瑕疵担保責任の競合が生じるのかとか、理解できると面白いですし、そういう思考を経た知識の方が定着するし使えるように感じます。
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Unknown (Unknown)
2013-02-26 21:29:42
学問的興味のために、あるいは法科大学院まんせーなロー教授を目指すために、法律行為の理論を究極まで突き詰めることを否定するものではありませんが、だったら司法試験の関所にするのを辞めろと言っているだけなのです。
実務では全く何の意味もないことは、公知の事実です。
条文を理解する上でも法律行為の形式的な分類は無用の長物でございます。
もちろん、知っていて損するものでも軽蔑される訳でもございません。
ただ、司法試験という目的のために、時間が限られているのであれば、間違った無駄な時間配分だと言っているのです。司法試験のためにローの授業があるのではないというなら、関所にして無理矢理通そうとするな、ということです。
これ以上無能な(というより補助金にぶら下がるために必死な)ロー教授に何を言っても無駄だということが検討会議の議事録を読むとよく分かりますね、というきわめて普通の感想ですね。
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Unknown (案山子)
2013-02-26 23:12:48
勝手に法律行為の形式的な分類をwikiから引っ張ってきてこんなの無意味だと息巻かれても、誰もそんな話触れていないわけでして…。
問題となっているのは、法律行為論というよりむしろ意思表示論、意思主義の意義といったはなしでは。
もうちょっと落ち着きましょう。
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