黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

『自由財産の拡張』に関する最近の課題

2012-01-31 17:04:02 | 司法一般
 今日は,司法制度改革関連の記事ではありません。期待していた人はごめんなさい。

 最近,ボ2ネタ経由でこんな記事を見つけました。
http://www.kgl.or.jp/news/20120125.html
 一応リンクは貼りましたが,そのうち切れる可能性もあるので内容も転載しておきます。

「個人債務者の私的整理に関するガイドライン」の運用の見直しについて


 一般社団法人個人版私的整理ガイドライン運営委員会(理事長:高木新二郎)では、昨年8月の「個人債務者の私的整理に関するガイドライン」(以下「ガイドライン」)の適用開始以降、相談・申出の受付や登録専門家の紹介などを行い、個人債務者の生活や事業の再建を支援してきたところです。
 当委員会では1月23日に運営協議会を開催し、仙台地裁における自由財産拡張の認定例の公表を踏まえ、下記の通りガイドラインの運用を見直しましたのでご案内申し上げます。
 今後とも東日本大震災により被災された方々の生活再建、ならびに被災地の活性化に貢献できるようガイドラインの運営に努めて参る所存です。


・自由財産たる現預金の範囲を、法定の99万円を含めて合計500万円を目安として拡張します。なお、拡張する自由財産の運用にあたっては、例外的な事情がない限り500万円を上限とし、また被災状況、生活状況などの個別事情によっては減額もあり得ます。
・現預金以外の法定の自由財産(および義捐金等特別法による現預金等の自由財産)は、法律の定めに従い、本件とは別の自由財産として取扱います。
・地震保険中に家財(差押禁止財産)部分がある場合には、状況によって柔軟に対応します。
・既に返済したローンの弁済金は、今回の拡張により自由財産になるとしても返還できません。

 平成17年に施行された(新)破産法では,自己破産した場合でも破産者の手許に残る財産(自由財産)を現金99万円と定め,それ以外の財産についても破産者の申立てにより又は職権で,自由財産の範囲を拡張することができるものと定められています(破産法34条3項,同4項)。
 破産手続きにおいて自由財産の拡張が認められる範囲は,民事再生手続きや私的整理の運用にも影響してくるわけですが,東日本大震災の被災者に対する仙台地裁の運用例が公表され,それに伴って私的整理における自由財産の範囲も拡張されることになったわけです。
 もっとも,500万円というのは全ての破産者に対し認められるわけではなく,震災等で多大な被害を受けた破産者に対しては個別の事情に応じ500万円までの拡張を認めるという意味なので,解釈・運用条注意する必要があります。なお,ガイドラインと併せて公表された仙台地裁の運用事例を見ると,どうやら地震保険金について数百万円単位の自由財産拡張が行われた事例が複数あるようです。
 破産手続きの運用は裁判所によって大きく異なり,東京地裁は事実上全国どこの破産事件でも受け付けてくれる裁判所として(業界内では)知られていますが,自由財産の拡張に関しては,原則として以下の財産は自由財産として取り扱うものとされています。
1 99万円に満つるまでの現金
2 残高20万円以下の預貯金
3 見込額20万円以下の生命保険解約返戻金
4 処分見込額20万円以下の自動車
5 居住用家屋の敷金債権
6 電話加入権
7 退職金債権。支給見込額が160万円以下の場合は全額,支給見込額が160万円を超える場合は160万円+160万円を超える金額の8分の7
8 家財道具
9 差押えを禁止されている動産及び債権
 上記以外の財産についても,破産管財人の意見を聴いて相当と認めるときは自由財産の拡張を認めるという取扱いになっています。東京地裁では自由財産の拡張を申し立てる場合,まず申立代理人と破産管財人が協議し,管財人が拡張を認めてくれれば裁判所も大体認めてくれるのですが,自由財産の拡張を認めるかどうかの判断には大きな責任が伴うため,上記のような定型的範囲に属さない自由財産の拡張については,破産管財人にはなかなか認めてもらえない傾向があります。
 そもそも,上記の基準は現金99万円とする部分を除き,平成16年以前における旧破産法時代の運用(旧破産法には自由財産の拡張に関する規定がなかったため,憲法25条の生存権を根拠とする財団放棄という説明がなされていました)から基本的に変わっていません。破産法の施行直後については,新法施行による実務の混乱を避けるため,できるだけ旧法時代と変わらない運用にする方針が採られたのでしょうが,新破産法の施行から既に7年が経過した今日においては,自由財産についてもそろそろ新法の趣旨に適合した運用例が生じても良い頃でしょう。
 特に,2の預貯金については,その流動性の高さから現金と区別することは不合理であるとの批判がなされており,裁判所によっては,既に現金・預貯金併せて99万円までを自由財産と取り扱っているところもあるようです。
 東日本大震災に伴い,住宅ローンを組んで購入した家が全壊してやむなく自己破産を強いられたり,収入が年金しかない高齢者等が自己破産を強いられたりし,その際に地震保険金等を自由財産として認められるかどうかが問題となる事案が増え,そのような事案に対する裁判例は被災地の多くを管轄する仙台地裁に集中しているわけですが,破産手続きにおける取扱いの公平性を確保するためには,東京地裁でも仙台の運用例などを踏まえ,自由財産の拡張に関するガイドラインを策定することが必要と考えられます。