かけてこそ 思はざりしか この世にて しばしも君に わかるべしとは
かけてこそ おもわざりしか このよにて しもきみに わかるべしとは

父が常陸介ひたちのすけとなって、赴任ふにんすることになった(1032年)。じつに十二年ぶりの任官である。とはいっても、行く先が東国とうごく常陸国ひたちのくに(茨城県)なので、このたびは家族をつれずに単身赴任するという。
「今回はお前もおとなだし、連れていきたいのだが、私もトシだから、いつどうなるか分かったものではない。私が任地でたおれ、おまえ一人とり残されて、都へも帰れなくなったら、どうするか。たよりになりそうな親戚もいない京に、おまえを置いていくのも、気がかりでならないよ。せっかくの任官をお断わりするわけにもいかないので、私ひとりで行くときめたが、これが永久とわの別れになるかもしれないなあ」
父の嘆きがあまりにも深いので、私は歌をよむことも忘れ、しゅんとなってしまった。このとき、父はすでに六十歳、私は二十五歳になっていた。

いよいよ7月13日、出発の際さいの悲しみようは、たいへんなものだった。
父の一行いっこうを途中まで見送りに行った召し使いが、父から託された歌をもって帰ってきた。父が日ごろ使っている、懐紙ふところがみに書いてあったのは、

おもふ事 心にかなふ 身なりせば 秋のわかれを ふかくしらまし
私は涙にむせんで、父の歌がよく読めないほどだった。私も歌をつくったものの、悲しみが先に立って、ろくな歌にならなかった。いまとなっては記憶もおぼろだけれど、たしか、こんな歌だったと思う。

かけてこそ おもはざりしか この世にて しばしも君に 別るべしとは
I've never dreamed I would have to live apart from you in this world, even for a little while.
※even for a little whileは(never dreamed ではなく)、live apart from youを修飾する副詞句で、「ほんのしばらくの間でも、来世ではなく、この世で父上と別れて暮すなんて」の意。

Even for a little while ほんのちょっとの間にせよ
I have never dreamed いままで思いもしませんでした
I would have to live 暮さなければならないなんて
Apart from you in this world この世で お父様と別れて




野良仕事に加えて「雪踏み心の会」なる地域起こしサークルが主催する講演会で講師をすることになり、その資料作りに追われますので、ブログは当分の間休むことにしました😞




シホヤのyoshyさんは、『旺文社LL教室』の校長さんです。