「 おいなりさんと、かんぴょう巻きが入っていると、どうして
『助六寿司』 っていうんですかねぇ 」
お客様からのご質問に、主人も私も答えられず、
一気にその場がシラけてしまったことがある。
こういうときは軽く落ち込む。
休日のある日、“江戸東京博物館”に行った。
展示物の最後に、歌舞伎の十八番「助六縁江戸桜」の
実物大模型があった。
見回してみたが、『助六寿司』についての解説はなかった。
思い切ってガイドさんに『助六寿司』の由来を訊いた。すると
「いろんな説があるかもしれませんが、助六の恋人の花魁が
“揚巻”って名前だから、あげ=油揚げ=おいなりさん。
で、まき=かんぴょう巻き で、その弁当の名前が
揚巻のまんまじゃ粋じゃねぇってことでシャレで“助六”って
名付けたんじゃないんでしょうかねぇ」
「おぉぉ!そういうことだったのかぁ~!!」
主人とふたりで小躍りしながら喜んでいると、
その初老のガイドさんが言った。
「こんなに喜んでくれるなんてガイド冥利に尽きるねぇ。ところで
あんたたち何やってる人?寿司屋さん?あ、でも寿司屋さんなら
助六寿司は知ってるか。う~ん、なんだろうなぁ…」
それでも 「寿司屋なんです」 という勇気はなかった。