goo blog サービス終了のお知らせ 

のがみのかんぴょう巻の話

2013-11-25 00:00:00 | 04 どんこ・しいたけ

031004_4

007_2007_2

Nogami1007_019

007_3

「かんぴょう巻がおいしい店だね」とお声掛けいただきたく頑張っている主人です。半本(二切れ)でも巻きますのでお気軽にどうぞ‥


おかみノート 『五ツ切り』

かんぴょう巻きを五ツ切りにしてみようかと
主人が言った。
「は?“かんぴょう巻きは四ツ切り”って決まってる
 もんなんでしょ」
「よく知ってるね」
「だって『将太の寿司』に書いてあったもん」
「あ、そうなの」
「五ツ切りなんていうのがあるの?」
「いやないよ。オレが考えた。かんぴょう巻きの
 四ツ切りってひとくちで食べると大きくない?
 昔やってみたことがあるんだよ。一本の細巻きを
 切らないで何口で食べ終えるのかって」
「うん」
「そうしたらね、五回だった。だから五等分に切って
 みよう、と」
「ほー・・」
主人は手早くかんぴょう巻きを巻くと、細巻きの腹の
真ん中あたりに柳刃包丁の切っ先を何度も何度も
あて始めた。
「・・・・・」
眉間にシワが寄っている。
「・・・切らないの」
「どうやって切っていいのかわかんない」
「はぁっ?」
「いやね、細巻きはまず真ん中で切るでしょ。で、その
 二等分したものを揃えて、六ツ切りならそれを三等分、
 四ツ切りならもう一回真ん中を切るっていう動きを
 目ぇつむってもさ、ピチーッと同じ長さに切り揃えられる
 まで繰り返し繰り返し叩き込むわけ。 大げさに言うと、
 五等分にしようとすると、どうしても四ツ切りか六ツ切りかの
 いつも切る位置に手が自然に戻っていっちゃう、みたいな」
「ひぇー・・」
「・・・五等分となると、一本を三対ニになるようにして、
 それぞれを切り分けたほうがいいのか、端っこの一切れをまず
 五等分のサイズに切って、残りを四等分にしたらいいのか」
そう言いながら主人は既に巻いてあった一本は前者の切り方で、
そしてもう一本すぐに巻き、後者のやり方で五つに切った。
「あれ!やっぱ、ずれちゃうなー」
バラバラの長さのかんぴょう巻きが十切れ、まな板に並んだ。
主人にとってはかなりショックな出来だったようだ。
リベンジでもう一本巻こうとしている。
私はレジ横に置いてある定規を持ってきて言った。
「測ってみたら?細巻きの長さが・・・19.5cmでしょ。
 えーとえーと、割る5で・・・ひと切れあたり3.9cm」
端っこのひと切れを定規で測って3.9cmに切り、あとを
四等分にしたら、きれいな五ツ切りになった。
「おー、できたけど、これまたやれって言われるとオレ、
 無理かもしんない」
「まな板のどこかにさ、四ツ切りとか六ツ切りの目盛りを
 付けとく人とかいないの?そういう感じでこっそり
 五切れ用の印を付けておくとか」
「あっはっは、板前はそんなことするわけないでしょ。
 たとえばね、全然知らない板場に行ったとして
 “目盛りがないから切れません”なんてあり得ないでしょう」
たしかにそんなことをするわけがない。
自分の姑息な部分を見られたようで恥ずかしかった。
少しの間黙っていると
「ちゃんと切れたやつ、食べてみようよ」
と促された。
同時に五ツ切りのかんぴょう巻きを口に入れた。
「・・・・・」
「・・・・・」
先に呑み込んで終わった主人が言った。
「あんまりうまくねぇな」
私はまだ口に入ったままだ。
「大きさは口にジャストサイズだけどな」
「・・・うん。やっぱり口に余る四ツ切りのほうが
 おいしく感じるね」
「この長さになったことには理由があるんだな。やっぱり」
「そうなんだね」
お茶をすすりながら残ったふぞろいのかんぴょう巻きを
黙々と食べた。003


おかみノート 『かんぴょうの種』

「もう一回言いますけど、最高級なんですよね?」
扉を開けたら主人の怒鳴り声が飛びこんできた。
「おかしいでしょ?これで二回目ですよ!?・・ええ、はい
 明日持って寄りますよ、よろしくお願いします」
電話を切る主人を見た。
「なんかすごい怒ってるね」
「え・・・あ、オレ?」
「どうしたの」
「いや、種がさ」
「種?」
「混じってんのよ」
「何に」
「これ」
突き出された手にはクッションのように押し込められた
ビニール袋入りの干したかんぴょうがあった。
「わかるでしょうよ、ほら、これ、この部分。ポツポツポツって」
カウンターに手を着き、身を乗り出しながらビニール越しの
太い白い平ゴムのようなかんぴょうに目を凝らした。
「えー・・見た限りではよくわかんないけど・・・」
すると主人はかんぴょうの束を取り出し、一本を選んで
私に見せた。
「あー、このかけらみたいなやつね。なんだかカボチャのタネって
 感じだねー」
白いかんぴょうに薄っすらクリーム色の種のかけらが数センチ間隔に
並んでいた。
「築地でこれ以上のものはないっていうランクのものを買ってるのね」
「はい」
「今まで三~四回は全く問題なかったんだけど、先週のに種が混じってて」
「おー」
「アッタマきて速攻抗議して替えてもらって」
「おー」
「これなわけ。また混じっているわけ」
「おおー・・」
主人はまたかんぴょうの束をビニール袋に入れた。
「えー、種が入ってるとそんなにダメなの?」
「口にあたるでしょ」
「あーそうか。でも丁寧に手で取れば大丈夫なんじゃない?」
「種に近い部分って軟らかいんだよ」
「それがダメなの?」
「表面に近い部分と全然違うから、水に戻すのも、火入れも
 味付けの滲み込み具合も、とにかく話しにならないくらい
 種の付近のものはダメなんだ」
「へぇ~。でも何で種が入るんだろう・・」
「かんぴょうって何から出来てるって知ってる?」
「うーんイマイチわかんない。なんか、ひょうたんみたいなんだっけ」
「夕顔の実を剥いていくんだよ」
「夕顔?」
「丸くて大きな実」
「ふーん」
「瓜科だからね。例えばそうだな・・身近なものでキュウリがあるじゃない。
 表面の緑の皮からカツラ剥きみたいにクルクル剥いていくと外側に近い
 部分は硬めな感じじゃない?スイカで想像してもいいけど。で、どんどん
 中心に向かって剥いていくと軟らかくなって水分が多くなって種が・・」001
「入ってる!」
「そこ、そこなの。今オレが困ってるのは。かんぴょうにおけるそこの部分が
 入っちゃってることに怒っているの。安いものだったら在り得るんだけど、
 オレが仕入れてるかんぴょうは絶対にそんなことがあってはならないの。
 肉厚で、種から一番遠いところのばっかりで、質がいいものだけを
 選りすぐった特選のかんぴょうしか仕入れないんだから」
“かんぴょうだけは安ものを使うな。うんといいものを使え” と
修行先の親父さんからずっと教えられてきたんだと主人は言った。

おかみノート 『かんぴょうのあぶり』

かんぴょうは、かんぴょう巻で食べるものだと思っていた。
ほかの食べ方など、考えたこともなかった。
店を始めたら、「かんぴょうをつまみで」と
頼まれることに気付いた。

「はい、かんぴょう」
主人は煮含めたかんぴょうに包丁を入れ、2、3切れを
お客様のつけ台へ。
そしてそれとは別の、肉厚そうなかんぴょうを選ぶと
焼き網の上で慎重に伸ばし、弱火でじっくり焼き始める。
火が通ってくると、所々ぷっくり膨らみ、端が焦げてきて
店の中は醤油と砂糖の香ばしいにおいでいっぱいになる。
焼き上がりを待つ間、まな板の上で叩いていた白胡麻をまぶして
お客様にお出しする。

店が終わったあと、どうしても食べてみたかったので
それをやってもらった。
干物みたいで面白い食感だった。けっこうおいしい。
「なんでそんな食べ方を知ってるの?」と訊いたら
八丁堀で寿司屋をやっているお兄さんに教わったという。
お兄さんはこういうことをさり気なく教えてくれる人だ。
カウンターでのやりとりの“わくわく感”みたいなものを

いっぱい教えてくれる

003


最新の画像もっと見る