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のがみの蛸の話

2014-02-10 19:05:00 | 04 どんこ・しいたけ

・網の色によって獲れた場所が違います・
今、築地
緑 横須賀 赤 小柴 青 佐島 なう

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・暴れまくる蛸と格闘・

Img_1178真ダコの仕込み風景です。吸盤を使って洗い桶にへばり付きながら逃げようとするタコと格闘しているこの方法は数年前までのスタイルです。当時はビニール袋に海水と酸素を充填させたフーセンと呼ばれる袋に生きたまま入れて持って帰っていました。最近では築地で絞めてもらってから持ち帰ります。暴れるタコの目と目の間に包丁の切っ先を立て、動きを止めます。「目と目の間にツボみたいなところがあって、ジャストミートするとサーって皮が真っ白になっていわば瞬殺されて、それが成功したっていうしるし。少しでも逸れると白くならない。赤い肌のままなんだ。だからもう一度刺してもらう。大概二回も刺せば急所にあたるから」と主人は解説します。タコは生命力が強く、バイクで二~三十分運ぶくらいではビクともしません。それでも万が一店に到着する前に弱ってしまうより築地で先に絞めてもらった方が、タコの味にとってはいい影響の方が多いのだそうです。そのあとの仕込みは今も昔も同じです。頭を裏返し、墨袋とワタを切り取り、大量の塩をまぶして揉んでヌメリをとり、足と足の間の膜のところに包丁で切り込みを入れ、吸盤の汚れをひとつずつ丁寧に落とし、流水で洗い、また塩で揉んで水を流し…と手の感覚をフルに使っておこないます。洗い終えたら水気を絞り、やわらかく煮るために足の一本一本を棒でまんべんなく叩き繊維を断ち切ります。水に大根・番茶・醤油・砂糖・酒を入れた煮汁を沸騰させてタコを投入します。中火で三十分ほど煮れば出来上がりです。023

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・仕込みで煮ているときの大根について・

『おかみノート 003

タコと一緒に煮ている大根は、おいしそうだった。
火にかけた大きな雪平鍋の中で、タコ一匹と輪切りにした大根が煮えてゆくのを見つめていた。
タイマーの合図で引き上げられたタコは、主人の手で首からSカンに引っ掛けられ、もうもうと湯気を立てている。
私は逸る気持ちを抑えきれずに訊いた。
「あのさ、これ食べていいんだよね?」
吊るしたタコの足を1本ずつ切り取っている主人が私の方を見ないで返事をした。
「大根?別にいいけど。でも旨くないよ」
「えっ、ウソ!」
「タコを軟らかく、おいしく煮るために入れてるんだから。それに醤油が濃いし、番茶も入ってるし」
いいや、それでも私は食べる。だってタコ飯って料理もあるし、絶対にタコの旨みが滲みこんでいるはずだから。
鍋を覗き込み、醤油色の大根を菜箸でつまみ出した。ひとくち食べた途端、口の中にアクと渋みが拡がった。
おいしいとは言えない。ちょっとショックだった。
「でも、そのぶん凄く旨くなったよ、ほら」
硬くてお客様にお出しできない、タコの吸水管の部分を食べさせてもらった。
滋味深い味である。
あらためて、プロの仕事とはこういうことなのだなと思った。
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わたしの魚(ウォ)キペディア 第26回 たこ039

たこ焼きに入っているタコ、お正月の食卓にあがるようなタコ、寿司桶一人前〈並〉もしくは小僧ずしチェーンのお持ち帰り一人前に入っているタコのにぎり。

昔、タコと対面する機会はこのくらいでした。

成人してからタコわさびを食べた時には感動しました。
チェーンの居酒屋さんだったと思います。お酒がすすみました。他にもタコぶつ、タコ刺し、タコの唐揚げ、天ぷらと出逢い、茹でた頭の部分を薄く切ってタマネギのスライスと混ぜておかかがドバッのったものを初めて見た時はおいしそうで醤油の分量を失敗しちゃいけないと掛ける手が震えました。

「兄弟弟子の店だけど、カメちゃんも一緒に行くか」
主人の修行先の親父さんに声を掛けてもらいました。たしか1997年か1998年だったと思います。昔一緒に働いていたという後輩の板前さんが閑静な住宅街に店を出したということで、板前である主人と顔を出すからもしよかったら‥ということでした。

有難くお受けして、当日は自分なりにおしゃれをして出掛けました。

渋谷から何駅か離れたその場所は四~五年前に歩いたことがありました。
「あ。この道一回だけ来たことあります、あれ、その時はここにお寿司屋さんはなかったなぁ‥」
出来たばっかりの店だもんそりゃないさというツッコミを親父さん主人どちらからともなく浴びながら店の暖簾をくぐると、威勢のいい短い声がいくつも飛んできました。
「いらっしゃいませぇッ!」
カウンター御主人の正面、どうぞと勧められ左から親父さん、主人、私と並んで座りほどなく出てきたお通しは青柳のぬたでした。
小ぶりの器は何焼きかわからないけれどすごそうで、お箸を置いてそれとなく店内を見渡してみました。新しい内装の輝きと御主人の熟練した雰囲気と若いお弟子さんのテキパキとした感じに圧倒されて、また目線を自分の席に戻しました。
「ね、これ見てみ」
と主人が敷いてあるテーブルマット風の布の右端を少しめくりました。
「ガラスの下がディスプレイできるようになってんだよ」
自分のマットを少しだけめくってみると、分厚いガラス板がカウンター兼ディスプレイスペースの蓋になっており、中には桜をモチーフにした手ぬぐいが二枚と水色のガラスのオブジェと同じ色の砂が飾られていました。カウンター全部がそうなっていました。初めて見るデザインのカウンターにクラクラしていると、次のお料理が出てきました。

「タコの桜煮です」
御主人の言葉に頷きながら慣れない長い割り箸でひとつ口に入れると、こっくりとした濃い旨味がひろがりました。
「おいしい‥」
こんなにおいしいタコの煮ものを食べたのは初めてでした。
また何焼きかわからないけれど黒いすごそうな足の付いた小ぶりな器に盛られたタコは木の芽で飾られていました。
「これ、どうやって煮るんですか」
と私は御主人に質問しました。
いろいろ教えてもらったのですがすっかり頭に入らず、唯一覚えているのが「小豆を色付けのために少し」という言葉でした。
帰り間際、もう一度失礼にならない程度にマットをめくりました。ガラスケースに飾られた手ぬぐいの桜の花びらはほんのりあずき色で、タコの桜煮と少し色が似ているな‥と思いました。

ちなみに主人のタコのやわらか煮はお茶を入れて煮ています。

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・2kg超えの佐島産が好み・

009_2タコは三浦半島・佐島のもの、大きさは2kg前後と決めて仕入れています。

2kgのタコとなると産地にかかわらず入手困難なのだそうです。1kgくらいのものはわりとあるらしいのですが‥。

主人はこの大きさが好きなのです。

予め仲買さんにお願いして、「のがみさんの希望するタコ、入ったよ」と知らせてもらった時に仕入れます。

手で揉んでよくぬめりを取ってから、煮ます。

棒でまんべんなく叩いて繊維を断ち切り、水に大根・番茶・醤油・砂糖・酒を入れた煮汁を沸騰させタコを投入し、中火で三十分ほど煮れば出来上がりです。

以前、煮タコの味のことを “こっくりとした濃い旨味がひろがり‥” と表現したことがありました。

もう一言なにか言うとするならば

「栗」

でしょうか。

栗のような濃厚な味がすると感じます。


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