突然シネマカメラを発表したBlackmagic Design社。BMDシネマカメラというまんまな名前で型番や愛称など何もない本当の1号機だ。Blackmagicと聞いてピンと来る人は必ず映像業界の中の人だろう。そうでない人にはほとんど聞きなじみのない社名だと思う。Blackmagicは編集関連のパソコン用インプットアウトプットデバイスを開発しており、通常のバリバリ業務機と比べて破格の値段で商品を出し続け人気を得てきたオーストラリアの会社だ。そんな会社が何の前触れもなくシネマ用ビデオカメラを発表し、世界が驚いた。
その値段、25万7800円!!!やす!!

あまり自分が使ってない機材についてあーだこーだ論評を書くのは、いい加減な僕の性格上また間違いを書いてしまいそうであれなんだけど、おもしろい記事を見つけたのでご紹介がてら感想を。
BMDシネマカメラの開発の佳境で、BMDの開発陣はプロの撮影監督に意見を求めたのだそうだ。その方がJohn Brawleyさん。テレビを中心に活躍されている撮影監督で、数々の賞も受賞されている。大変申し訳ないのだが、オーストラリアのテレビ事情には詳しくなく(つーかテレビ番組そのものをアメリカだろうが日本だろうが見ないので知らない)、John Brawleyさんのお名前も初めて聞いた。経歴を拝見するともともと編集やVFX畑の人らしく、だからBlackmagicと懇意にされてたのかもしれない。ちなみにBlackmagicはオーストラリアの会社でこのJohn Brawleyさんもオーストラリアの方。
そのJohn Brawleyさんがこのカメラについて詳細を書かれている。非常に有益な情報が満載なんで少し訳してみた。
Blackmagic Cinema Camera – Let’s take it from the top
from John Brawley Blog
□関わった経緯
I joked with the guys that they should look at doing a camera, now that they had all the post pathways to do a RAW based camera. Just before Xmas I was summoned to the BMD offices for a special presentation. I’d have to sign the usual NDA’s. At the time, I’d actually been pestering them to do an Arri RAW recorder for the Alexa. I assumed that’s what they were going to show me.
Blackmagic Design社はRAWベース収録の編集機材をすべて提供できるんだから、なんならカメラも作ったらって、BMDの連中にジョークを言ってたことはあったんだ。昨年のクリスマスの直前にBMDのオフィスに呼ばれた。行ったらサインしたのはごく普通の守秘義務契約だった。行く前までは、僕はずっと彼らにAlexa用のArri RAWレコーダーを作ってよってしつこくお願いしてたから、それを見せてくれるのかと思ってた。
I couldn’t have been more wrong. What they showed me totally blew me away….
まさかと思ったよ。ぶっ飛んだ!
というわけで彼自身、ジョークでは言ってたことはあったけど、まさかカメラだと微塵も思ってなかったところになんとカメラが登場し、意見を聞きたいといわれたのだと。そりゃびっくらこき。編集機器の会社からまさかカメラが出てくるなんて。んで、そのプロトタイプのカメラをテストをし、何週間もかけてBMDスタッフと意見をいろいろ交わしたのだそう。以下、Johnさんのブログ記事は情報満載で長いので、全文は原文を見ていただくとして、いくつか僕が気になった点をピックアップすると。
□このカメラは誰に向けられているのか
In fact, it really was a simple as a camera could be. A box, with a screen, a sensor and a lens mount. It doesn’t get more basic than that does it ?
Everything else can be added…if you want…or you can go simple and naked.
事実、カメラを最もシンプルにするとこうなるんだろうと。箱と、モニタと、センサーと、レンズマウント、以上!これよりベーシックにはなれないだろ?他のすべては後から自由に自分で付け加える。もしシンプルで行きたいならこのままでもいい。
It’s worth mentioning who I think will love this camera. In a way, this is not a camera for DOP’s and working cinematographers like me. This is a camera for the masses. This is a camera for everyone that’s bought a canon 5Dmk2 or a GH2 and wanted more than what a “consumer” camera can do. This is a camera for those that can’t afford a scarlet or EPIC or a C300.
このカメラは誰のためのカメラかと僕が思うかを述べておくといいと思う。ある意味、このカメラは僕のような撮影監督として仕事をしている人が使うカメラじゃない。もっとマス向けのカメラだ。5D Mark IIやGH2を買って使っていて、そういうコンシューマー向けカメラでは飽き足らない人が買うべきカメラだ。だけどEPICやC300は高くて手が出ない人だ。
このあたり、逆に言うとBMDがどういう層を狙っているかを語っているともいえる。
□2.5Kセンサーの意義
Let’s not forget that the benchmark drama camera right now is the Arri Alexa. A camera which has a sensor resolution that’s about the same as this camera.
And most of the work it’s doing in my part of the work is lowly HD 1920×1080. The truth is, Alexa is a camera with a slightly oversized sensor size gives you a really nice downscale to 1920. And that’s just what this the Blackmagic camera does. It’s an oversampled 1920 and this gives still puts a lot of resolution in your hands.(以下略)
ドラマ撮影のベンチマークにしているのはArri Alexaということを忘れないで欲しい。Arri AlexaはこのBMDシネマカメラとほぼ同じセンサー解像度だ。
私の仕事はほとんどHD解像度だ。Alexaはほんの少しHDより大きい解像度で、それを1920にダウンスケールすることで解像感が出る。このBMDカメラも同じだ。オーバーサンプルの1920のおかげで解像感がでる(※注)。
※注 要するに2K解像度を1920に小さくしたとき解像感が上がるってこと。フォトショなどで大きな画像を小さくしたとき解像感が増すのと一緒の仕組み。

ARRI Alexa M
Having shot extensively with the EPIC and RED in drama and episodic TV, the 4K files are nice if you want to blow or crop a frame, but usually they don’t really make very much difference to the end result. Dynamic range counts for more than pixels for most of the work I do.
EPICやREDでテレビドラマを撮ったことあるし確かに4Kはいいんだけど、結局最後テレビになるとそんなに違いは出ない。僕の仕事にとってはダイナミックレンジのほうがピクセル数より大きな影響が出る。
この点は僕も同じ意見。4Kは4Kで見ない限り必要ない。HD解像度で見せるために2Kくらいは欲しいけどなあ、、と前々から言ってたのでBMDシネマカメラはドンピシャだったのだが、、、
この後はRAWとProresの両方で撮れることのいい点をいっぱい書いてらっしゃるのでぜひご覧ください。ワークフローの説明、また作例もいっぱいあるので購入を検討されている方はとてもとても参考になると思う。
□カメラの構造について

アクセサリのハンドル。が、基本的にはサードパーティのリグを使うことになるんだろう。バッテリもつけないといけないし。
さらにカメラの機械的な構造についても書いてらっしゃる。
First thing you’ll notice is that it’s quite heavy for it’s size. I think that’s a good thing. (略)Yes more weight means it’s more tiring to hold, but it certainly feels solid in the hand.
まず「サイズのわりに重い」ってことに気づくだろう。僕が思うにそのほうがいい。確かに重いと疲れるけどしっかり支えられてぶれない。
このあとタッチスクリーンについても述べられていて、とにかくタッチスクリーンのメニュー階層構造がRED EPICを使っててイライラしたんで、かといってSONY FS700のようなカメラ表面全部にボタンだらけのボタンお化けもなんなんで、ある程度のカスタマイズできるボタンをいくつかつけた中間を目指して欲しいと要望したのだそうだ。
ほかにもBMDシネマカメラについていっぱい書いてらっしゃるし、このブログポストだけでなく、作例を次々UPされていらっしゃるのでぜひご覧ください。
BMDシネマカメラの操作部
さて、本命の記事。Daniel Freytagさんというドイツの映像作家が、そのJohn Brawleyさんととり行ったインタビュー記事がおととい出た。こちらはユーザー視点からの質問をぶつけていたのでおもしろい。いくつかのこのカメラの問題点が浮き彫りにされている。
The new Black Magic Design Cinema Camera - A talk with John Brawley
from freytag-film.com
以下抄訳。間違いがあったらご指摘を。
It was very impressive from the first time I used it. It's gotten better, literally week by week as they improved things. The main thing that just made me happy was to see so much DR and resolution from such a low cost camera. I've shot a fair bit with 5ds and the like. they have a great look, but they are inherently soft and lack DR. They are soft beside of their line skipping approach which also introduces other errors. This camera was sharp and with lots of resolution from the start. AND plenty of DR after that. The ergonomics were a challenge at first and I'm sure it won't be for everyone. But at its heart it's very simple and can be easily built up.
このカメラを使ってみてまず本当に感銘を受けたよ。そして彼らが改良するごとに良くなっていった。彼らが一番がんばったのはこれだけ安いカメラでこれだけのダイナミックレンジと解像感を実現したこと。僕も5Dとかその手のカメラでかなり撮影してきたけど、そういうカメラはとにかくソフトでダイナミックレンジが欠けてるんだ。そしてソフトな上にラインスキッピング (※注1) という方式を採用しているからエラーが出やすいんだ。このBMDシネマカメラはシャープで解像感を損なうことがない。そして十分なダイナミックレンジがある。エルゴノミクスは確かにめどくさいし (※注2)、みんなが使えるカメラじゃないかもしれない。でもシンプルだから簡単にリグを作れると思う。
※注1 ライン・スキッピングとは、せっかく解像度が大きなメガピクセルのセンサーで撮影しているのに、その画像を1920HDの小さな解像度に縮小するときに、ただ小さくすればいいものを、間を抜いて小さくするというやり方。なのでジャギーが出たりモアレが出たりよろしくない結果が出る。もちろん技術的な理由があるからなんだろうけど、、、
※注2 エルゴノミクス=人間工学、ここではカメラの形のことに言及していると思われます。つまりカメラだけだと使いづらく、リグをつけないと安定した絵が撮れないということだと。。
□スーパー16というセンサーサイズについて
またみんなが残念がっているセンサーサイズについては非常に正直にコストの問題だったと話されていた。
S35 would have been nice but they tell me they are very expensive sensors. BMD were chasing the best they could for DR and low cost. This sensor was a good choice for this. The so called crop factor shouldn't really be an issue for for most unless you want ultra wide angle Or are chasing ultra low dof. You can still put very fast primes on an get most of the way there.
スーパー35センサーだったら確かに良かったけど、彼らは高いっていうんだ。BMDは「ダイナミックレンジ」と「価格的な安さ」を追求していた。なのでこのセンサーはよい選択だったと思うよ。クロップファクター (※注)は気にならないと思う。ほんとに超ワイドの絵とか超深度が浅い絵が必要でない限り。F値が明るい単玉レンズを使えば解決できるはず。
※注 小さいセンサーを使うことで光学的にどうしてもワイドに撮るのが難しくなることと、深度が深くなる問題。
以下、RAWとProResについてお話されているんだが、そこは略しますので原文をあたってください。
□交換できない内蔵バッテリについて
そして、世界中からブーイングを浴びている交換できない内蔵バッテリについて。。
Loom I would have preferred a replaceable battery. But that would have added a lot to the cost. The body is made from a single piece of aluminium. But I'm used to running cameras from an external battery. Alexa an RED work in this way. When you plug in an external battery it also recharges the internal battery. So you can think of this as a camera that has external batteries plus an emergency internal battery.
確かに交換できるバッテリのほうが良かったね。でもそれもコストがかかるんだ。ボディは1ピースのアルミでできているんでね(※注)。 でも僕は外部バッテリのカメラを運用してきているし、例えばAlexaやREDもこの方式だし違和感ない。外部バッテリをつければ内蔵バッテリもチャージできるし、こう考えればいいんだ。「外部バッテリ+緊急用の内蔵バッテリがある」ってね。
B&HでBMDシネマカメラを買おうとすると出てくるアクセサリの外部バッテリ。こういうのをつけることになる。
※注 この説明は良くわからないですね。大概の民生のビデオカメラが格安で実現できていることをなぜできないのか、、、ボディの中に入れなくても外にカチャンとつけられるようにすればいいのでは?と思うけど。まあよくわからん。デザインが不細工になるのがいやだったから?
□新しく出たCANONカメラとの比較
さらに5D Mark IIIやC300との比較については、、、
To be honest the only advantage I see for a 5dmk3 or a c300 is for very low light work. The c300 probably has better skew performance too. But it's a lot more expensive. You can get a Blackmagic for a fraction of the cost of a c300. You can then spend more money on lenses, or even other accessories.
正直にいうと5D Mark IIIとC300の優位点は、暗いところで撮れる、ということ以外はないと思う。C300はローリングシャッター問題についてはBMDシネマカメラより優れているだろう。でも高い。C300の何分の1かで買えて、残ったお金でレンズを買えるよね。アクセサリだって買えるし。
Anyone who's thinking of a 5dmk3 or and upgrade from a 5d/7d then you should really look at this camera. Awesome pictures and bang for your buck. Plus don't forget you get the best color correction software made on the market included ! That's pretty amazing value. Sure it's not a perfect camera but you can't deny it's appeal for the price.
もし5D Mark IIIを購入検討してる人や、5D/7Dからアップグレードしたい人はこのカメラを検討してみたらいいと思う。すばらしい画質だし価格以上の価値がある。そして、忘れないで欲しいのは、最高のカラコレソフトがタダでついてくること。お値打ちだよ。もちろんカンペキじゃないけど、この価格でこの値打ちは否定できないよ。
とまあ最後のほうは若干通販番組みたいになってしまうのだが、最後の一言が真理をついていると思う。
The BMD will appeal to pros like myself, but probably more so to low budget filmmakers who are frustrated by compressed and soft line skipped dslr footage.
このBMDシネマカメラは僕のようなプロにも魅力的だけど、低予算制作会社さんにとってはもっと魅力的に映ると思う。特にDSLRの眠くてラインスキッピングされてる映像にイライラしている人にとってはね。
なかなかおもしろい話だった。BMDシネマカメラはとにかく解像感とダイナミックレンジのカメラだと。そこがDSLRと違うということを何度も強調していたので、たぶんそういうことなのだろう。
さてちょこっと感想。
結局取捨選択の問題なんだな、と。何を取るのか、何が欲しいのか。解像感とダイナミックレンジを取るか、深度とワイドアングルへの選択肢、そして明るさを取るか。
そしてBMDはポスプロ機材の会社なんだなあ、、、、、とホントつくづく思う。つまり、「カメラで何もすんな!あとからオレらの編集機材とソフト使って自由にするから!」と。その思想が色濃く現れているカメラだなあ。。と。
とにかく撮影はできるだけそのまま、生のままの映像をキャプチャーしてこいと。細かいことはポストに任せろ!
あとDaVinciをタダでつけるっつうのも意外にカメラ本体を安くできる戦略な気がする。そうやってBlackmagicのポスプロ用製品へ誘導しているのかなあ、と勘ぐったり。。
僕的にはまだ解像感とダイナミックレンジに飢餓感はない。このカメラの話を聞いてパっと思ったのはクロマキー撮影で絶大な威力を発揮するだろうな、ということくらい。
それにやはり外付けバッテリがないとほぼ運用不可能なので、バッテリ代もかかるしリグはつけないと使えないし、、という点でも少し不満。。あとSSDはまだ高いし(価格コムで見ると256GBで3万円くらい。これでProResで2時間強撮れるらしい)、日本で買うとなんのかんので金かかりそうだなあ、、という気がする。もちろん半年もすればわんさかサードパーティのリグやらバッテリやらが出るんでしょうが。。バッテリも中国製とかだと安いしね。
興味はめちゃめちゃあるんですが、、、、でもたぶん次期機種が出るまで待つだろうな。
この記事を日本語で紹介するにあたってJohn BrawleyさんとDaniel Freytagさんからは快諾をいただきました。ありがとうございました。Thank you very much for your kindness to give me the permissions to translate the posts into Japanese. お二人のツイッターアカウントは、Johnさんが@brawlster、Danielさんが@FreytagFilmです。
私は映像制作の側の人間ではなくて、機材を作る側の人間なのですが、最近、動画用機材も考えろとの話があり、raitankさんのブログをきっかけに、こちらにも寄らせていただくようになりました。
raitankさんも、良く情報を集めているなぁと感心しますが、今回の記事は本当に関心しました。
物作り側の見方をすると、バッテリーは外付け式にすると、バッテリーの外装が必要になったり、バッテリー単体として各国の安全基準を通したりしなければならないので、それが嫌だったのかなぁとは思います。
EOSムービーをやっているような人のステップアップがターゲットとの事ですが、一眼ムービーは大きな撮像素子を生かした被写界深度が売りみたいなところもありますので、スーパー16はどう評価されるのか、見てみたいですね。
また、機会があれば寄らせていただきます。よろしくお願いいたします。
いや、僕なんかただ翻訳しただけですので。。
でもこういう意外な会社がカメラを出してどんどん競争が激しくなり、それだけじゃなくて多様性が生まれていろんなチョイスができるのはいいですね。
それにしても撮影監督がこうやって開発に関わって、世界中から注目を浴びるというのはすごく面白い。
あ、バッテリに関してはナルホドです。そういうことは思いつかなかった。。確かに燃えたり熱くなったりと、バッテリの問題多いですしね、、
今後もどしどしご意見ください~
いやあ、ボクもちょうど BMD CCについて、また別の記事を書いてたんですよ~。そしたらこんな凄いエントリが。さっそく本文内にてリンクを貼らせて頂きました。事後報告で恐縮ですが、よろしくです!
↓
http://www.raitank.jp/archives/10515
参考になりました。
候補にあげてみます。
実機が出たらまた死ぬほど情報に溢れるんでしょうけどね。。
カメラもコモディティ化しそうだから、そのうち他社からもいろいろ出て来たらおもしろいですね。レンズはコモディティ化は無理でしょうけど、、、、