■白い巨塔(2003~04)■ 田宮版は放映当時断片的に観た記憶がうっすらあるものの、唐沢版は初めて観た。すげー面白いじゃないですか! やっぱドラマ作りって進化するもんだなあと。しかしあえてドラマファンが注目しないだろう周辺から攻めると、加古隆ってほんと天才ですね。NHKスペシャル「映像の世紀」のときすでに感じてたけど、こういうヒューマンな盛り上がり音楽作らせたらこの人の右に出る者はないんじゃないか。加古ってジャズっぽい現代音楽のイメージが強かったんで、ほんとこの音楽には感動したですよ。でドラマのほうに行くと、いくらなんでもやりすぎっしょ、的デフォルメな部分は散見されるものの――患者の前で教授が助教授怒鳴りつけたり、癌告知受けた患者が取り乱して医師に当たり散らしたり、露骨なカルテ改竄とか――リアリティ高レベルだと思いました。総回診の場面は医局一同階段駆け上がってエレベーター前で教授を恭しく迎えるってあーた、ほんとにあんなんだったら世界認識改めなきゃ、てくらいのリアリティです。大成功ですよ、このドラマ。とくに東と財前の関係はこの唐沢版が一番しみじみ描かれていたような。財前が東の最後の総回診を避けるためにオペを急いで、それが第2部の誤診裁判の原因になるってあたり、それとラストで財前が東元教授の執刀を希望するあたり、泣けるじゃないですか~。末期は田宮版より時間かかってて、財前の無念感がセリフにも直接表われていて、明らかに改善されてましたね。財前と里見の関係も、難しい膵臓癌の患者をなんとか手術したいあまり東教授を敵に回す危険を冒してしまう財前のプロ意識vs保身出世欲のスレスレ感だの、教授選で協力してくんない里見への当てつけに患者を盾にとる姑息な態度をさすがに反省して手術途中からオペ室へ入ってゆく財前の描写だの、互いに才能を称え合う有様の濃厚さだの、ウムウム、進化してます進化してます、脚本のテクニックが。大学を去った里見を引っ張ろうとする財前の口調も、表面上は裁判関係の駆け引きに見えて実は本心っぽいという、敵であり友であるふたりのデリケートな関係がしっかり描かれてます。財前に子どもがいないのも唐沢版のポイントでした。遺された財前父娘の虚しさが強調されまくりですから。柳原と看護婦の関係がスタートライン以前の恋愛関係なのも好感持てました。田宮版より全般娯楽的というかミステリー的というか、誇張ぎみな感じは拭えないものの――末期の病床で鵜飼学長にニヤリと笑みを浮かばせるなんぞの演出はちょっとやりすぎだったでしょう――人間関係をとにかく複雑化してくれた凝った作りには、はい、私ってば大いに興奮し満足いたしました。
■白い巨塔(1978~79)■ 唐沢版観た後に改めてこれを観直したんだけど――初見の記憶はほとんどないので初見と同じ――、こっちのほうがさらに良いじゃないですか! つうか、たしかに「古い」って感じはするわけですよ、唐沢版に比べて。しかし財前と里見の身長差は田宮版のほうが自然だなあってことにこっち観て改めて気づきましたし、やっぱ余計な視聴者サービス抜きの一見地味なリアリズムに徹しきれたぶん、全般こっちに軍配挙げます。唐沢版は岳父に焚きつけられて踊らされちゃった感が強いんだけど、こっちは田宮の迫真的演技のせいか財前自ら野望ギラギラって温感たっぷりで。センター長より学術会議会員選挙のほうが医局の脱線ぶりが強調されて広がりあったせいもあるかな。あと断然勝ってるのは東教授。中村伸郎って役者さんさすがですね~って感じ。言葉と独特のうめき声と鼻息を同時に発しながらのプチ頑固な表情ったらまったくもってハイパー適任。あっちの石坂浩二も十分よかったけど、キレて植木鉢を蹴りまくるシーンなんかサイコスレスレの熱演だったけど、正直適役度が違ったかな。あと佐枝子が弁護士事務所でたまたま働いてたって唐沢版の設定ねえ、あっちだけ観てるぶんにはエンタメ的にうまくできてるって印象だったけど、やっぱこっち観てからだと不自然に感じちゃうのね。佐枝子は外からあれこれ要らぬ介入するからこそ里見への思慕の暗示が生きるわけで。ただ田宮版、アラも目立つのね。後半の佐枝子&里見に関わるシーンで、やたら俗っぽいロマンス系の音楽が入りまくるのには閉口。てわけで音楽じゃ唐沢版に完敗。あと第一審判決後にストーリーが俄然たるんでしまったのはどうしたことか。あの婆さん(っても60代って設定ですな)のエピソードは要らんでしょう。里見が良心的な名医であることの証明のためだけにあんな長々とやる必要はない。何度も山ん中まで往復ってのクドい。無理に引き延ばした感が強いな、超名作ドラマなのに惜しいよ。里見関係であと2つ言うなら、兄貴の存在はまったくもって不要。あとから思えば、物語で全然重要な役割を果たしてない人なんだから。暑ッ苦しいというかわざとらしい兄弟愛の確認みたいな上滑り激励シーンを何度も見せられるのはウンザリしました。町医者が大切なのはモーわかったからあっち逝けって感じ。あと里見の助手がプチ里見的に正義感満々、いっしょに大学辞めてドサ回りのお供ってのも……、あの助手は当然、里見への賛否両方に揺れる唐沢版の彼のほうが柳原との関係上も影が濃くてずっと共感できたです。関口弁護士にしても、悪徳弁護士寸前の多重人格的唐沢版のほうがこっちのただ正義感一筋、より却って好感持てたなあ。あと紅会の描写がほとんどないのが不満なんですがね。これは唐沢版を先に観ちゃったからであって田宮版の欠点とは言えないかもですが。それとちょっと気になったのは、民事裁判の証人になったくらいで人生が狂うと思い込んでるのはどうしてかなあ、あの元婦長夫婦。ムラマツキャップに陰険な飴鞭戦法かけられたせいで逆に被告側についた旦那の一本気は心理学的に面白かったけどね。あとさっきも言ったけど臨終の床に財前の子どもが2人もいたのは興醒め。もっと淋しく死んでいくんでないとアンチヒーローとは言えないでしょ。あとはそうそう、これを言わにゃ始まらないって最重要の比較項目だけど、島田陽子と矢田亜希子は甲乙付けがたし、黒木瞳と太地喜和子では太地かな、てのがワタシ的好みです。ともに人物そのものってより役柄としてですけどね。ペアの比較では、矢田・黒木より島田・太地のほうが対照度が高くて当たりでした(いや、ほんとは財前夫人とケイ子のペアを比較するべきか? 妻と愛人が接してしまった唐沢版はちょいエンタメに深入りしすぎだったかな)。しかし役柄的には俗っぽいメロディに妨げられて大損した島田陽子でしたが、発声時の表情が抜群っすね! 右頬にやたら出来まくるエクボがほんとにもう、たまりませんよ!
■白い巨塔(映画版,1966)■ ドラマ版観たあとだとどうしても物足りないなあ。とうてい唐沢版ドラマにも田宮版ドラマにも及ばない出来でしかないのだが、だからこそ両ドラマより良い部分を挙げてみましょう。まず、時間が短い分、なりふりかまわぬ岳父・医師会陣営の選挙工作が戯画っぽくなる寸前でとどまっている点、決選投票での日和見の野坂教授のスタンスが短くもリアルに描けている点(とくに演技なんだか本心なんだか今津教授に食ってかかるあたりね)、今津が「おとなしい菊川なら……」と思惑を吐露するあたりの細かい演出、船尾教授の証言が複雑に曲がりくねって財前個人への批判と被告側支持の基調とをうまく融合させている点、そしてなにより、教授選と医療ミスとが同時進行で因果関係持ちながら展開する流れ(海外出張の準備で患者診れませんでしたってのと教授選挙気になって患者どころじゃありませんでしたってのじゃ罪の重さ全然違うからね)はこの映画版がピカ一ですな(それらすべてそざかし単に原作に忠実?なだけにせよ)。しかし裁判パートは、医学論議から対患者論議へとシフトする契機を明示した唐沢版が一番良かったのかなって印象をこの映画観て抱きました。映画版は万事あっさり流しすぎ。なんつっても柳原の葛藤の描写が端折られているところは致命的だし、東夫人の出番が極小なのも不満。大河内教授が金を突っ返すさい思い切り札束を蹴っ飛ばしたところはよかったんだが「なんとか賞受賞の学者をなんと思っとる」みたいな権威を振りかざすセリフはいただけなかったです。孤高の大河内教授のイメージと違うんで。原作通りだったらしょうがないけどね。あと大河内教授や佐枝子があからさまに「財前は嫌いだ」的セリフを口にするのもどうかな。ここの佐枝子は、島田陽子や矢田亜希子に比べて発声がどうしようもなく古臭い感じで(戦前の女優か?て感じ)里見と話す場面もとってつけた感じで。五郎の母ちゃんも後半でもっかい出てくれてもよかったんではないかなと。ま、たった150分に詰め込もうとしたらこんなもんが精一杯でしょうかね。
■医龍■ 『白い巨塔』が面白かったんで全巻買って観始めましたが、第1話で停止。それ以上観る気起きません。人物すべてカッコつけすぎというか。マンガとしてはいいんでしょうけどね……、でも第1話だけで判断するのは早計ですか。もし続き観る気になりましたら改めて評価レポートしますので。
■白い巨塔(1978~79)■ 唐沢版観た後に改めてこれを観直したんだけど――初見の記憶はほとんどないので初見と同じ――、こっちのほうがさらに良いじゃないですか! つうか、たしかに「古い」って感じはするわけですよ、唐沢版に比べて。しかし財前と里見の身長差は田宮版のほうが自然だなあってことにこっち観て改めて気づきましたし、やっぱ余計な視聴者サービス抜きの一見地味なリアリズムに徹しきれたぶん、全般こっちに軍配挙げます。唐沢版は岳父に焚きつけられて踊らされちゃった感が強いんだけど、こっちは田宮の迫真的演技のせいか財前自ら野望ギラギラって温感たっぷりで。センター長より学術会議会員選挙のほうが医局の脱線ぶりが強調されて広がりあったせいもあるかな。あと断然勝ってるのは東教授。中村伸郎って役者さんさすがですね~って感じ。言葉と独特のうめき声と鼻息を同時に発しながらのプチ頑固な表情ったらまったくもってハイパー適任。あっちの石坂浩二も十分よかったけど、キレて植木鉢を蹴りまくるシーンなんかサイコスレスレの熱演だったけど、正直適役度が違ったかな。あと佐枝子が弁護士事務所でたまたま働いてたって唐沢版の設定ねえ、あっちだけ観てるぶんにはエンタメ的にうまくできてるって印象だったけど、やっぱこっち観てからだと不自然に感じちゃうのね。佐枝子は外からあれこれ要らぬ介入するからこそ里見への思慕の暗示が生きるわけで。ただ田宮版、アラも目立つのね。後半の佐枝子&里見に関わるシーンで、やたら俗っぽいロマンス系の音楽が入りまくるのには閉口。てわけで音楽じゃ唐沢版に完敗。あと第一審判決後にストーリーが俄然たるんでしまったのはどうしたことか。あの婆さん(っても60代って設定ですな)のエピソードは要らんでしょう。里見が良心的な名医であることの証明のためだけにあんな長々とやる必要はない。何度も山ん中まで往復ってのクドい。無理に引き延ばした感が強いな、超名作ドラマなのに惜しいよ。里見関係であと2つ言うなら、兄貴の存在はまったくもって不要。あとから思えば、物語で全然重要な役割を果たしてない人なんだから。暑ッ苦しいというかわざとらしい兄弟愛の確認みたいな上滑り激励シーンを何度も見せられるのはウンザリしました。町医者が大切なのはモーわかったからあっち逝けって感じ。あと里見の助手がプチ里見的に正義感満々、いっしょに大学辞めてドサ回りのお供ってのも……、あの助手は当然、里見への賛否両方に揺れる唐沢版の彼のほうが柳原との関係上も影が濃くてずっと共感できたです。関口弁護士にしても、悪徳弁護士寸前の多重人格的唐沢版のほうがこっちのただ正義感一筋、より却って好感持てたなあ。あと紅会の描写がほとんどないのが不満なんですがね。これは唐沢版を先に観ちゃったからであって田宮版の欠点とは言えないかもですが。それとちょっと気になったのは、民事裁判の証人になったくらいで人生が狂うと思い込んでるのはどうしてかなあ、あの元婦長夫婦。ムラマツキャップに陰険な飴鞭戦法かけられたせいで逆に被告側についた旦那の一本気は心理学的に面白かったけどね。あとさっきも言ったけど臨終の床に財前の子どもが2人もいたのは興醒め。もっと淋しく死んでいくんでないとアンチヒーローとは言えないでしょ。あとはそうそう、これを言わにゃ始まらないって最重要の比較項目だけど、島田陽子と矢田亜希子は甲乙付けがたし、黒木瞳と太地喜和子では太地かな、てのがワタシ的好みです。ともに人物そのものってより役柄としてですけどね。ペアの比較では、矢田・黒木より島田・太地のほうが対照度が高くて当たりでした(いや、ほんとは財前夫人とケイ子のペアを比較するべきか? 妻と愛人が接してしまった唐沢版はちょいエンタメに深入りしすぎだったかな)。しかし役柄的には俗っぽいメロディに妨げられて大損した島田陽子でしたが、発声時の表情が抜群っすね! 右頬にやたら出来まくるエクボがほんとにもう、たまりませんよ!
■白い巨塔(映画版,1966)■ ドラマ版観たあとだとどうしても物足りないなあ。とうてい唐沢版ドラマにも田宮版ドラマにも及ばない出来でしかないのだが、だからこそ両ドラマより良い部分を挙げてみましょう。まず、時間が短い分、なりふりかまわぬ岳父・医師会陣営の選挙工作が戯画っぽくなる寸前でとどまっている点、決選投票での日和見の野坂教授のスタンスが短くもリアルに描けている点(とくに演技なんだか本心なんだか今津教授に食ってかかるあたりね)、今津が「おとなしい菊川なら……」と思惑を吐露するあたりの細かい演出、船尾教授の証言が複雑に曲がりくねって財前個人への批判と被告側支持の基調とをうまく融合させている点、そしてなにより、教授選と医療ミスとが同時進行で因果関係持ちながら展開する流れ(海外出張の準備で患者診れませんでしたってのと教授選挙気になって患者どころじゃありませんでしたってのじゃ罪の重さ全然違うからね)はこの映画版がピカ一ですな(それらすべてそざかし単に原作に忠実?なだけにせよ)。しかし裁判パートは、医学論議から対患者論議へとシフトする契機を明示した唐沢版が一番良かったのかなって印象をこの映画観て抱きました。映画版は万事あっさり流しすぎ。なんつっても柳原の葛藤の描写が端折られているところは致命的だし、東夫人の出番が極小なのも不満。大河内教授が金を突っ返すさい思い切り札束を蹴っ飛ばしたところはよかったんだが「なんとか賞受賞の学者をなんと思っとる」みたいな権威を振りかざすセリフはいただけなかったです。孤高の大河内教授のイメージと違うんで。原作通りだったらしょうがないけどね。あと大河内教授や佐枝子があからさまに「財前は嫌いだ」的セリフを口にするのもどうかな。ここの佐枝子は、島田陽子や矢田亜希子に比べて発声がどうしようもなく古臭い感じで(戦前の女優か?て感じ)里見と話す場面もとってつけた感じで。五郎の母ちゃんも後半でもっかい出てくれてもよかったんではないかなと。ま、たった150分に詰め込もうとしたらこんなもんが精一杯でしょうかね。
■医龍■ 『白い巨塔』が面白かったんで全巻買って観始めましたが、第1話で停止。それ以上観る気起きません。人物すべてカッコつけすぎというか。マンガとしてはいいんでしょうけどね……、でも第1話だけで判断するのは早計ですか。もし続き観る気になりましたら改めて評価レポートしますので。