新型コロナと喫煙所
「喫煙所」が「新型コロナ」クラスター発生源に
石田雅彦 | ライター、編集者 3/2(月) 14:26
「喫煙所」が「新型コロナ」クラスター発生源に(石田雅彦) - Yahoo!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/byline/ishidamasahiko/20200302-00165682/
感染の流行が続く新型コロナウイルス(COVID-19、以下、新型コ
ロナ)だが、次第にその「顔つき」がわかってきた。この記事では、
新型コロナと喫煙、そして喫煙所との関係について述べる。
感染リスクと喫煙率の差
新型コロナの影響は大きくなるばかりだが、少し前に感染リスク
と喫煙の関係が世界的なニュースになった。
このシナリオは、中国で新型コロナの感染者や重篤化の割合、死
亡率を男女で比べてみると、男性のほうが3倍以上とかなり多く(※1)、
その原因は中国における喫煙率の男女差によるのではないか、とい
うものだ。
実際、中国の喫煙率は全体で約25%だが、男性の喫煙率は約45%、
女性は約2%と男女で大きな差がある(Tobacco Atlas)。日本の喫
煙率も男女差が大きいが(約28%:約9%)、中国人男性の喫煙率は
日本人男性と比べてもかなり高い。
高い発がん性のあるタバコは、呼吸器の機能を弱め、呼吸器の病気
も引き起こす。そのため、喫煙者は新型コロナにかかりやすく、肺炎
によって重篤化しやすいのではないか、というわけだ。
だが、そもそもオスは感染症や寄生虫の寄生に脅かされやすい。
脊椎動物の性成熟したオスは感染症のリスクが高まり、寄生虫に寄
生されやすくなることが知られ、これは性選択のコスト負荷のために
オスの抵抗力が落ちるのではないか、と考えられている(※2)。
このような性差は、喫煙によるウイルス感染リスクの違いにも影響
を及ぼす。SARSでは女性のほうが感染リスクが低かったが、これは女
性ホルモンのエストロゲンによる保護作用と考えられている(※3)。
中国の新型コロナ感染の性差には、こうしたことが影響しているの
かもしれないが、タバコを吸う女性はエストロゲンが不足することが
知られ(※4)、そのため新型コロナでは喫煙女性に感染リスクが高
くなっているかもしれない。中国人女性の喫煙率は低いため、感染リ
スクの男女差が広いが、女性の喫煙率が高い国や地域でどうなるか、
まだよくわかっていない。
タバコとウイルスの受容体
新型コロナが、どうやってヒトに感染するように変異したのか、過
去のSARS(SARSr-CoV)ウイルスの時と同じように、野生動物に宿主
がいて、そこからヒトに感染したのではないかと推測されている。そ
の野生動物に候補はいろいろいて、SARSの感染源の生物はコウモリだ
った。
新型コロナの遺伝子は、ほぼSARSの遺伝子と同じ(96%)であるこ
とがわかっていて、SARSと同様に新型コロナもコウモリが感染源なの
ではないかと考えられている(※5)。そして、新型コロナもSARSと同
じように、ヒトの細胞のACE2という受容体から侵入するようだ。
つまり、本来なら肺の奥のほうにあって、あまり多くないACE2がた
くさんある場合、新型コロナにかかりやすくなる。人種的にACE2の発
現の差には議論があり、アジア人に多いという研究と人種的な差や性
差はないという研究が混在する(※6)。
ACE2というのは、アンジオテンシン変換酵素2の受容体で、この受容
体の機能を抑制することでアンジオテンシン2による血圧上昇を抑え、
血圧を下げるなどすることができる。ACE2の機能は複雑で、まだわか
っていないことも多いが、喫煙から影響を受けることが示唆されてき
た(※7)。
特にニコチンとアンジオテンシン系の関係に最近、注目が集まって
いる(※8)。加熱式タバコにも紙巻きタバコと同等のニコチンが含ま
れているので、この影響はアイコス(IQOS)などの加熱式タバコでも
出てくると考えられる。
つまり、タバコを吸うとACE2という受容体に変化が起き、アンジオ
テンシン系の活性の低下などを引き起こす。特に、タバコに含まれる
一酸化炭素やシアン化水素、ニコチンが肺の内皮細胞に損傷を起こし、
血管を収縮させ、血圧の上昇や下降に関与するアンジオテンシン系が
変化するなど、生体が様々な反応を示すというわけだ。
査読を受けていないプレプリント研究には、ACE2の発現が活発な喫
煙者や元喫煙者で新型コロナの感染リスクが高くなるのではないか、
というものがある(※9)。この研究では、白人やタバコを吸わない人
と比べて特にアジア人の喫煙者でACE2の高い発現がみられ、元喫煙者
については異なった理由があるのではないか、と示唆している。
いずれにせよ、タバコから吸い込む有害物質は、気道や呼吸器の粘
膜バリアや細胞組織などを破壊する(※10)。さらに、身体の免疫系
の応答にも悪影響を及ぼす(※11)。
タバコを吸うとインフルエンザや風邪、肺炎にかかりやすくなる。
これは年齢に関係なくタバコを吸う若い世代にとっても大きなリスク
であり(※12)、新型コロナについても例外ではないだろう。
喫煙所がクラスター発生源に
新型コロナの感染では、クラスターと呼ばれる感染者の集団から玉
突き状に感染者を増やすことがある。このクラスターを作らず、早期
に発見して拡大させないことが重要だ。
クラスターが発生しやすい環境は、多数の人間が換気の悪い狭い区
域や場所に長時間、集まって濃厚接触をするようなケースだ。コンサ
ートや展示会などのイベント会場や立食パーティなどを行うボールル
ームなどが該当する。
政府やクラスターの発生を防ぐため、換気が悪く人間が密集する空
間を避けるように求めているが、喫煙室や喫煙所もクラスターの発生
源になる危険性が高い。
感染予防のためには、入念な手洗いをして手指についたウイルスを
体内に入れないことが重要になるが、タバコを吸う行為はまさに感染
のリスクを高める。マスクをしながらタバコを吸うことはできないし、
タバコは必ず手でつまんで吸うからだ。
タバコを吸える場所が少なくなり、喫煙者は喫煙室や喫煙所に集ま
ってくる。そうした喫煙者は、まだタバコの吸えるパチンコ店やスナ
ックなどにも足を運ぶだろう。喫煙室や喫煙所からクラスターが発生
すれば、それはすぐに広がっていく危険性がある。
クラスターの発生を防ぐためには、喫煙室や喫煙所の使用も避ける
よう呼びかけるべきだし、施設管理者はその一時的な使用停止も考え
るべきだろう。