関西大学記者懇談会の資料より
https://www.kansai-u.ac.jp/global/guide/conference/2011/120131.pdf
第80回 記者懇談会実施概要
日 時 2012年1月31日(火)15:00~17:00
場 所 関西大学100周年記念会館 第2会議室
内 容
研究発表・質疑応答 田中謙 法学部教授
発表テーマ
「たばこ規制をめぐる基本的な視点と今後の法制的課題」
たばこ規制をめぐる基本的な視点と今後の法制的課題
関西大学法学部 田中 謙
【概要】
日本は、先進諸国の中でも喫煙率が高い「たばこ汚染国」であるが、
その原因の 1 つとして、日本においては、たばこをめぐる行政的規制
(たばこ規制)が際立って弱いことを指摘できる。それが、国際的真空地帯を生み、
外国たばこ業者の進出を誘発している。
しかし、(1) 非喫煙者は、自分の意思とは関係なく、一方的に受動喫煙の被害を受ける
だけであるという「喫煙者と非喫煙者の利害の対立構造」、(2) 喫煙の自由は、
人権の本質上他に迷惑をかけないことを「内在的制約」としていること、
(3) 嫌煙権は、喫煙者の喫煙の自由を認めたうえで、単に喫煙の場所的制限を
制度化することを訴えているにすぎないこと、
(4) たばこの問題を加害者のモラルに期待する限りは何の解決にもならないこと、
(5) 政府は、喫煙によってもたらされる国民の健康への悪影響、とりわけ
疾病への罹患を防ぎ健康を維持するということに関してきわめて強い政府利益を
持つこと、等を踏まえれば、たばこ規制の強化は不可欠である。
今後のたばこ規制のあり方としては、(1) 非喫煙者の被害を防止し、
健康を保護するという視点から、「受動喫煙防止施策」を充実させる
ことはもちろんであるが、(2) 現在、未成年者による喫煙があり
未成年者を保護するという視点から、「未成年者の喫煙防
止施策」も必要である。さらに、
(3) 喫煙者も「やめたいけれどもやめられない」という面があり、
喫煙者を保護するという視点から、「喫煙者減少施策」も必要である。
今後の法制的課題をあげると、(1)「受動喫煙防止施策」の視点からは、
①公共スペースにおける禁煙規制、②職場における禁煙規制、
③路上喫煙規制の強化、などが考えられる。
(2)「未成年者の喫煙防止施策」の視点からは、
①学校における全面禁煙、②たばこの宣伝広告規制の強化、
③ドラマ・映画における喫煙シーンの禁止、④たばこ自販機の全面禁止、
⑤「年齢ノ確認」の義務づけ、⑥たばこ税の大幅値上げ、などが考えられる。
(3)「喫煙者減少施策」の視点からは、①たばこの宣伝広告規制の強化、
②ドラマ・映画における喫煙シーンの禁止、③たばこ自販機の全面禁止、
④たばこ税の大幅値上げのほか、⑤たばこの有害表示の義務化、などが考えられる。
マスコミのみなさんに対しては、とりわけ、
「テレビドラマ等で喫煙シーンを流さないこと」及び
「たばこ会社をスポンサーとしないこと」の 2 点を要望したい。
本研究発表は、2008-2011 年度 科学研究費補助金(若手研究(B))の研究課題
「タバコ規制をめぐる法と政策」(課題番号 2073007)の研究成果の一部である。
【プロフィール】
1971 年静岡県生まれ。2000 年 4 月長崎大学経済学部専任講師、同助教授、
同准教授、
関西大学准教授を経て、2010 年 9 月から現職。
専門は、行政法、環境法。たばこ規制に関する論文としては、
「タバコ訴訟の動向と今後の法制的課題」長崎大学経済学部研究年報
20 巻(2004 年 3 月)53-88 頁、「たばこ訴訟の論点と課題」
関西大学法学論集 59 巻 2 号
(2009 年 9 月)31-87 頁、
「たばこ規制の法システムと今後の法制的課題 (1)(2)(3・完)」
関西大学法学論集 61 巻 6 号、62 巻 1 号、同巻 2 号(2012 年)がある。