ホイッスルバード あいざわぶん

小旅島旅独り旅「佐柳島」編 パート4

フェリーの乗船客待合所の隣には寝るのに
丁度いいベンチがある。
そこにマットを敷いて眠ればいいのだ。
枕だって、蚊取線香だって、あるんだぜ。
雨なんか降る筈がない・・・と決め付ける。

考えが纏まったら夕食の仕度。
ついでに、明日の朝食の準備もしてしまえ。
お米を二合炊いて、一合弱は明朝の分とし、
レトルトカレーを温める。
残ったお湯でスープを作り、晩御飯は完成。
持参した電池ランプが不必要なほど周囲は
明るく、潮風は心地よく吹いている。

・・・こりゃ贅沢な野良人間だ・・・

残っている御飯に鮭のフリカケをまぶして、
海苔を巻いて、朝食の準備もほぼ終了。
朝に味噌汁を作って、鰯の缶詰を開ければ
OK欲情なのだ。

今宵の寝床の20m先に公衆トイレがある。
お茶をガブ飲みしてたら尿意を感じたので
滅法明るいトイレに行くと、昼には気付かな
かった燕の巣があった。
雛だけが四羽居るようである。
薄目を開けて私を見ている。
驚いているに違いないので、今宵は岸壁
から立小便することにした。



ベンチの上に寝ていると、様々な事が頭に
浮かぶ。
例えば、ここから約20キロ先の倉敷市では、
女児の誘拐事件が起きて解決していない。
(自宅に帰ったら、無事保護されていた)
北国にも野良人間は生きていて、冬の寒さ
から開放されて足を伸ばして眠っている。
女児は生きているのか、野良人間は何故
雪を知らぬ町へと移動しないのか。
いつ知らに雲は消え、夜空には満天の星
が煌いている。

私の心の中には昔から、十四歳の少年と
八十歳の老人が棲んでいる。
彼らと話をしていれば少しも寂しくはない。
十四歳は問い続け、八十歳は応え続け、
現在五十七歳の私も会話に混じる。
・・・どうして誰も知らぬ町に移住を・・・
な~に、私は常に二人と一緒なのだ。
理解できぬ人には話しても詮無きこと。

気がつくと午前零時を過ぎていた。
・・・そうか、眠っていたのだな・・・
飛行機が赤い光を点滅させながら飛んで
いく。
数秒遅れて、飛行機の音が空から神話が
降る如く落ちてくる。
寝転びながら左に頭を向けると、真っ黒に
浮かぶ高島の横に半月に近い三日月が
昇っている。
港の遥か沖合いを、灯りを点した船が静か
に横切るように進んでいる。
視野の左から右に船が横切って姿を消す
と、しばらくして船が立てた波が港内に押し
寄せて来て、浮いている桟橋をキイキイと
鳴らす。
飛行機の音も、月の光も、船が立てた波も、
全て時を通じて私にその存在を知らしめる。
・・・嗚呼、おもしろや・・・
深夜だというのに、船は頻繁に行き来する。
灯りの点り方で船の大きさが想像される。
写るだろうか、と思ってカメラを取り出す。
船は写せたが、月は写せなかった。



堤防の先の灯りの下には、私と一緒に船を
降りた釣り人の影が見える。
朝になったら彼らを見に行こうと思った。

【明日に続く】
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