釣銭を渡すため厨房から出てきたお姉さんは、
両掌を揃えて出している私には見えないように
小銭を左手の方にそっと落とした。
そしてお姉さんは、私が受けた左の掌を上から
握って、次のように言った。
「わざわざ遠くから来てくれたけんね、一杯目の
お代は頂戴した。二杯目は店からの奢りやけん、
遠慮は要らんよ」
釣銭を見せないように私に渡したのは、570円
を返したからだったのだ。
「そんなの、困ります。お礼を言うのは私の方で、
私の為にだけ作ってくれたんですから受け取れ
ませんよ」
「ええんよ、ええんよ。私もやる気が出たけんね」
このような押し問答が2分ぐらいは続いたのでは
なかろうか。
どう考えても二杯目が無料になる筋はない。
私もあれこれと出鱈目に出てくる言葉で断ったの
だが、お姉さんはガンとして私の左の拳を上から
握り、開けさせまいとする。
そして、私の拳を大きく上下に揺すって・・・。
「な・か・よう、しよっ!」と言ったのだ。
その言葉を聞いた瞬間、私の手の力は失せた。
もう、これは御名御璽(ぎょめいぎょじ)(注)だと
思った。
「わかりました。仲良しです。御馳走になります」
そう言ってもお姉さんは尚も私の拳を握った儘、
スタンド型冷蔵庫の前に私を連れて行き、ポカリ
スエットを取り出して持たせたのだった。
もう、それを断ることも出来ず、再び頭を下げて
受け取り二人で外に出た。
「嗚呼、覚えとるよ。このバイク」
「では、妹さんがリハビリを終えて店に戻られた
頃にまた来ますからね」
「妹にも言うとくけん」
気配を感じて後ろを見ると、何も知らない人が
二人、店に近づいてきた。
お姉さんはきっと断らないだろう。
もう一度頭を下げて、私は店を後にした。
【補足】御名御璽の意味。
天皇のサインが御名。天皇の印鑑が御璽。
即ち、天皇がサインして捺印したら、全て決定、
後は動かぬ、と私は思った訳である。
もったいなくてポカリスエットは冷蔵庫に入れて
あり、年末か正月に飲むつもりである。
頂戴した釣銭の570円も使わずに取ってある。
今度行った時に、このお金で食べる為だ。

両掌を揃えて出している私には見えないように
小銭を左手の方にそっと落とした。
そしてお姉さんは、私が受けた左の掌を上から
握って、次のように言った。
「わざわざ遠くから来てくれたけんね、一杯目の
お代は頂戴した。二杯目は店からの奢りやけん、
遠慮は要らんよ」
釣銭を見せないように私に渡したのは、570円
を返したからだったのだ。
「そんなの、困ります。お礼を言うのは私の方で、
私の為にだけ作ってくれたんですから受け取れ
ませんよ」
「ええんよ、ええんよ。私もやる気が出たけんね」
このような押し問答が2分ぐらいは続いたのでは
なかろうか。
どう考えても二杯目が無料になる筋はない。
私もあれこれと出鱈目に出てくる言葉で断ったの
だが、お姉さんはガンとして私の左の拳を上から
握り、開けさせまいとする。
そして、私の拳を大きく上下に揺すって・・・。
「な・か・よう、しよっ!」と言ったのだ。
その言葉を聞いた瞬間、私の手の力は失せた。
もう、これは御名御璽(ぎょめいぎょじ)(注)だと
思った。
「わかりました。仲良しです。御馳走になります」
そう言ってもお姉さんは尚も私の拳を握った儘、
スタンド型冷蔵庫の前に私を連れて行き、ポカリ
スエットを取り出して持たせたのだった。
もう、それを断ることも出来ず、再び頭を下げて
受け取り二人で外に出た。
「嗚呼、覚えとるよ。このバイク」
「では、妹さんがリハビリを終えて店に戻られた
頃にまた来ますからね」
「妹にも言うとくけん」
気配を感じて後ろを見ると、何も知らない人が
二人、店に近づいてきた。
お姉さんはきっと断らないだろう。
もう一度頭を下げて、私は店を後にした。
【補足】御名御璽の意味。
天皇のサインが御名。天皇の印鑑が御璽。
即ち、天皇がサインして捺印したら、全て決定、
後は動かぬ、と私は思った訳である。
もったいなくてポカリスエットは冷蔵庫に入れて
あり、年末か正月に飲むつもりである。
頂戴した釣銭の570円も使わずに取ってある。
今度行った時に、このお金で食べる為だ。
