6年生になると土曜日の1時間目は 詩の暗唱の時間にした。
頭が柔らかいこの時期に覚えた詩は一生覚えているだろう。
学期はじめに
短くても長くてもいいから 自分がみんなの前で暗唱したいと思った詩を用意しておくこと
次の週末 今日は出席番号順にやろう。
次の週は 背が大きい順にやろう
また次の週は 長男長女からやろう とイレギュラーで発表する順を決めていた。
初めは みんな短い詩を暗唱していたがだんだん 人の暗唱を聞いているうちに もっと長く心に訴えるものをやろうとする子が 増えていった。
その中で Aちゃんは みんなの前に立つとどうしても顔があげられず 声もささやくぐらいしか出ない。それでもみんなはちゃんと聞いていたし 終われば拍手もしていた。
あるとき みんながいなくなった休み時間 Aちゃんに 勇気は作るものよ。みんなもドキドキしながら一生懸命に暗唱しているのよ。このまま30回 小さな声で心のこもった暗唱ができなくて 悔しいまま卒業していくの?
来月の参観日は 暗唱をおうちの人たちに見てもらおうと思うの。
その前にいっぺん勇気を出してごらん。
次の土曜日の暗唱の時間 回を重ねるごとに みんなの声は心を映したように 情緒たっぷりにできるようになっていた。
そして最後 Aちゃんの番。みんなは ああ いつものように小さい声でうつむいてやるんだろうな と思っていた時 Aちゃんはまっすぐ前を向き みんなの顔を見て 聞いたこともないかわいい澄んだ大きな声で 始めた。
【いのち】
みんなは あまりの変化にびっくりし 呆然とし Aちゃんは長い詩を最後まではっきり暗唱した。 終わって誰も拍手しなかった。あまりにも感激して ボー――っとしていた。
Aちゃんは 礼をして自分の席に戻ったとき はじめてみんなは スゲーー!と言って 拍手が止まらなった。私もじーーーんとして 涙で前が見えなくなった。
Aちゃんはこの長い詩を どれだけ練習したのだろう。高いところから飛び降りるほど 緊張したんだろうなあ 子供ってすごいなあ
1か月後の参観日 Aちゃんはもっともっと心の中を出して 朗々と保護者の前で暗唱した、さざ波のようにお母さんたちに感動が伝わっていった。人の前で 声を出すことすらできなかったのに この素晴らしい暗唱は!!!
この素晴らしい感動の時を思い出しては 頑張るっていいなあ と思う。