地獄谷には8つの砂防堤があります。
最初の2つは、コンクリート道から見下ろしながらやり過ごします。
3つ目の砂防堤からは左右どちらからか越えていかなければならないのです。
簡単に越えて行ける砂防堤もあれば、先に越えたメンバーが差し出すスリングにつかまり越えて行くこともありました。
8つ目の砂防堤を越えたところで本格的な登攀がはじまります。全ての登攀具を身に付け、5人全員一段と気合が入ります。
岩壁が左右から迫り谷が狭くなりました。
私がビルの高さ程もある岩壁のすぐ近くをメンバーの一人と会話しながら歩いている時の事です。
後ろを歩いていた会長さんが私たちに向けて厳しい口調で声を懸けられたのです。
「あんまい壁に近づくぎんいかんバイ!」
「いつ上から岩の落ちてくっかわからんやろが!」
いつも冗談ばかり言う会長さんですが、山に入ると周囲の細かなところまで注意を払い、メンバーの一挙手一投足に目を向けられていたのでした。
私は会長さんに喝を入れられた思いがしました。
谷が二俣に分かれる辺りから積雪が見られるようになり、左側の谷の方へ進んで行きました。