靴擦れが気になったりもしていたが、両親の不穏な空気に直球の質問を投げ掛けるさくら。確かに、すみれは紀夫が戦地に向かう以前の時点で(意外といい人かもしれない)という好感を持って、戻らない期間は素直に帰還を待ってはいたが、待っていたのは『自分の夫でさくらの父で、現状を打破してくれるかもしれない男性で、たぶん良い人』であるという想定が大きかったはず。しかし夫でさくらの父まではその通りだが、それ以外がちょっと怪しかった。現状打破してくれなくても『でも良い人』という拠り所があったはずだが、こういう状況になると厳しい。紀夫がすみれ達を愛しているのは間違いないが、すみれの方が改めて『どこが好き?』と突かれると、『好きだから結婚したワケではない。加えて嫌いになる理由がこれまではなかった。結婚していて嫌いではないので、好きなのかもしれないと錯覚していた可能性を否定できる材料が、無い』という回答が出てしまいそうになり、何も言えない。紀夫は紀夫で『好かれていないかも知れない』という恐怖感をずっと抱いていたと見える。これは、二人の関係性の仕切り直しが必要ですな。その前にさくらの靴を買い替えた方がいいけどねっ!
呼応し合って変化したり再確認したり新しい回答を得たり近しくなっても、スッと自分の道に別れて離れてゆく。都会らしい。元気だといいな、と思いつつもう一生会わないとかざらだもんね。何組かはそれぞれ違う距離で関係性を保っていたけど。それでも、とても静かな所で力を蓄えていた沼ちゃんが、ある日、時がきて、浮上してくれたおかげで小さな波紋が起こって、限られた時間にすれ違った数名の人々の心を強くノックした。そうしてその反応に、意思はあっても一歩間違えばどう吹き飛んでもおかしくはなさそうに見えた沼ちゃんも確かになった。清々しくも孤独の影の濃い物語だったが、出会うことでどこか救われる、希望を信じている物語でもあった。帰るべき自分の、確かな家か。夢だな。