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「悟性」を備えた共同体であることの幸せ⑤

2019年06月17日 | 政治・経済
(移民国家アメリカの劣等感とトラウマ)
高山:私がロサンゼルスにいたのは、20年くらい前です。郊外にあった行きつけの日本料理店でよく見かけた光景が、どんな料理にもアメリカ人はケチャップをかけることです。「もう勘弁してくれよ。ケチャップかけるくらいなら、なんで日本料理店に来るんだ」と(笑)。

その経営者が10年ほど前、今度はロスの市街に鮨屋を出したので、立ち寄ったら、「高山さん、アメリカ人も変わりました」と言う。彼らはケチャップを“卒業”して、ちゃんと醤油を味わえるようになってきた、と。

『産経』の支局では助手をつけてくれなかったので、南カリフォルニア大学(USC)の女子大生に仕事を手伝ってもらったりしたんですが、ときどき彼女たちを鮨屋で慰労してやると、ずいぶん喜ばれたものです。

彼女たちはカリフォルニアロールみたいなアメリカ風の鮨を食べたあと、必ず最後に鮨飯をもらって、それに醤油をかけて食べるのです。スプーンですくって口に運びながら、「これが美味しいです」と得意げな顔をする(笑)。これは日本人がアメリカ人に、ケチャップから醤油にワンステップ、インプルーブ(以前よりも良くすること)できたということになるかとおかしく思いました。

日下:牛丼の「吉野家」の初代社長・松田瑞穂さんが「アメリカに進出したとき、醤油をかけた丼飯をアメリカ人が食べることに感慨無量だった」と語っていたのを思い出します。

まあ、最初に出店したのはマクドナルドなどの廉価(れんか)なファストフード・チェーン店の隣で、利用者はさすがに肉体労働者が多かったという。醤油のかけ方が尋常じゃないので驚いたとも言っていました(笑)。

醤油の普及は、キッコーマンの努力が大きいね。いまや醤油の代名詞のごとく、江戸時代の「亀甲萬」から世界の「キッコーマン」になった。

高山:アイリッシュ、スコティッシュ、フレンチ、イタリアン、ダッチ・・・・・、世界のあちこちから移民が集まってできたのがアメリカですから、そこに日本のキッコーマンが入っていっても何ら不思議はないわけですが、建国から二百年程度では、まだまだそうした多様性がもたらす成熟には程遠い。荒々しくて洗練されていないという気がします。

「アメリカ人とは何か」というアイデンティティは、「自由・平等・幸福の追求は天賦の人権」とした独立宣言にあるように、理念的、人工的なものです。そうした理念が掲げられていても、それぞれを見れば、出自の異なる相手に対する警戒心、狡猾(こうかつ)さといったものが見え隠れしている。

「それが競い合うことで、全体として、より大きな力を生み出せればよい」というのがアメリカンドリームを語る人たちですが、先に述べた三菱自動車への不当な追及に見られるように、現実はそんな“良き競合”にはなっていない。

日下:アメリカ人が恐れるのはアイデンティティ・クライシスですね。これは一般的には、自分の主体性や社会的役割を見失って不安定になることと言われますが、移民の後裔(こうえい)たる彼らは、アメリカという新しい国を常に意識していなければ自らの存在を保てない。

アメリカでは幼稚園児の頃から星条旗に忠誠を誓わせるように、国民にある種の緊張感を強いることで一体感を維持している。建国のときから「頼れるものは自分だけ」という過剰な信念を持ってきた。

イギリスをはじめヨーロッパの干渉を撥(は)ねつけるだけの実力を常に持っていなければ、再び植民地にされてしまうという強迫観念、植民地独立戦争に起因するトラウマを、いまだにアメリカは引きずっていると思います。

だから彼らは常に、「アメリカ・イズ・ナンバーワン」と言い続け、周囲にもそれを認めさせなければ気が済まない。アメリカ・イズ・ザ・グレイテスト、アメリカ・イズ・ザ・リッチェスト、です。日本の価値観では、それは“はしたない”と考えますが、彼らは絶えずそうした自己肯定、自己認識をしなければ、ヨーロッパから事実上の棄民(きみん)、流民(るみん)の末裔(まつえい)という劣等感と、かつてのヨーロッパから受けた干渉、圧迫の記憶から解放されないのです。

移民国家アメリカのこうした劣等感、トラウマを日本人は理解しておく必要がある。
私たち日本人は、日本という国が長い歴史の蓄積の上に立っていることを自明のように思っていますが、これは世界史的に見てなかなかすごいことなのだと、自負を持ってよい。

---owari---
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