このゆびと~まれ!

「日々の暮らしの中から感動や発見を伝えたい」

ウクライナ侵攻、キエフ制圧の先に見据えるプーチンの「本当の狙い」(それでも「戦略的敗北」は避けられない) 2022.03.02

2022年03月03日 | 政治・経済
今日は“ウクライナ侵攻”の続報として、国際関係アナリスト・北野 幸伯さんの現代ビジネス記事からお伝えします。

ロシアとウクライナの戦争が激化している。戦闘はウクライナの首都キエフ、第2の都市ハリコフなど全土で行われている。
その一方で、両国の和平交渉が2月28日、ベラルーシで行われた。欧米は、強力な経済制裁によって、ロシア経済に壊滅的打撃を与えようとしている。

今、ロシアとウクライナと取り巻く情勢は、どうなっているのだろうかーー。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(ロシア国民を驚愕させた「キエフ侵攻」)
ロシアがウクライナ侵攻を開始した2月24日以降、ロシア全土で、連日、大規模な反戦デモが起こっている。人権団体OVDインフォによると、2月28日までに、反戦デモ参加者6400人が逮捕されたという。

なぜロシア国民は、この戦争に反対しているのだろうか?
実をいうと、ウクライナ全土に侵攻するという事態は、ほとんどの国民にとって「想定外」だったのだ。

プーチンは2月21日、ウクライナからの独立を目指す自称ルガンスク人民共和国、ドネツク人民共和国の独立を承認した。この時点では、反戦の動きは起きていなかった。

なぜだろうか?

ウクライナ東部にあるルガンスク、ドネツクの住民はロシア系が多く、ロシア語を話す。2014年3月、ロシアがクリミアを併合したとき、彼らの一部は「私たちもロシアに編入してほしい」と考えた。

翌月、ルガンスク、ドネツクは、人民共和国の建国を宣言。ウクライナ政府は当然これを認めず、内戦が勃発した。

この内戦は、2015年2月の「ミンスク2合意」で、停戦が成立している。しかし、その後も、散発的戦闘はつづいていた。

ロシアメディアは、「ウクライナがルガンスク、ドネツクの同胞をジェノサイドしている」と報道しつづけたため、多くのロシア人が信じていた。そのため、ロシアが独立を承認したとき、「プーチンがようやく同胞を救ってくれた」と考えた人が多かったのだ(一般国民は「国際法的にどうか」ということまでは考えない)。

プーチンが「平和維持軍を派遣する」と宣言した時も、ロシア国民の多くは「同胞を守るために仕方ない」と考えた。しかし、2月24日、状況は一変する。

プーチンはこの日、「特殊軍事作戦を行う」と宣言し、ウクライナ全土への攻撃を開始した。これは、ほとんどのロシア国民にとって、完全に意外な展開だった。キエフ侵攻に至っては、驚天動地の事態だ。

ロシアの起源は、12世紀から15世紀に存在したキエフ公国にある。そこを攻撃するというのは、日本人的にいえば、奈良や京都を軍事攻撃して破壊するような感覚だろうか。ここから、ロシア国内での反戦運動が盛り上がっていったのだ。

(ウクライナが健闘できている3つの理由)
ウクライナ軍が健闘している。いや、「ウクライナ国民が健闘している」というべきだろう。
侵攻開始から6日が過ぎた現時点で、ロシア軍はキエフ、ハリコフを含む主要都市を制圧できていない(だが、ロシア軍は現在、キエフ攻略にむけて、大軍を集結させている)。
なぜ、ウクライナは、強大なロシア軍と対等に戦えているのだろうか?

考えられる一つ目の理由は、「士気の違い」だ。国際社会の反応を見てもわかるが、今回のウクライナ侵攻は、「誰がどう見ても」ロシアが悪い。
ウクライナは、ロシアを攻撃していない。ロシアが、ウクライナに侵攻してきたのだ。だから、ウクライナ人には、戦う「正当な理由」がある。

一方のロシア軍には、正当な理由がない。プーチンが何をいっても、これは自衛戦争ではない。
筆者は2月16日の現代ビジネス記事で、「全ロシア将校協会」がウクライナ侵攻に反対し、プーチンの辞任を要求した事実に触れた。自国の将校たちまでもが、この戦いに反対しているのだ。
⇒【全ロシア将校協会が「プーチン辞任」を要求…! キエフ制圧でも戦略的敗北は避けられない】

軍人は、大義があるとき、「国を守っている」と確信しているとき、強くなれる。しかし、大義が理解不能で、世界中が「侵略戦争だ!」と非難するような状況で存分に戦えるだろうか?

二つ目の理由は、「ウクライナ国民」が動員されたことだ。
ゼレンスキー大統領は「国民総動員令」を出し、18歳から60歳の全男性が戦いに参加する。キエフでは、このカテゴリーの人に武器が配られている。
ウクライナを包囲したロシア軍は、19万人とされている。ウクライナ軍だけと戦うなら簡単に勝利できるだろう。しかし、「ウクライナ国民」と戦うとなると、形成は逆転する。

ウクライナの人口は、およそ4300万人。正確にはわからないが、男性はその半分の2150万人いるとしよう。そのうち18歳から60歳までの男性は、少なくとも1000万人はいるだろう。
仮に1000万人のウクライナ国民が皆、武器を持って戦い始めたら、19万のロシア軍は勝てるだろうか? しかも、武器は、欧米諸国からほぼ無尽蔵に提供されつづけている。

三つ目は、ゼレンスキー大統領の勇気だ。
世界中のメディアを見てわかるのは、プーチンは「ヒトラーのような侵略者」として、ゼレンスキーは「祖国を守る英雄」として報じられている。
彼は、今もキエフにとどまり、一日に何度も動画メッセージを発信している。もしもゼレンスキーが逃亡していたら、国民は「もうダメだ」となり、総崩れになったかもしれない。だが彼は、逃げずに戦う姿勢を示しつづけている。

私たちは、「大国が小国に勝つのは当たり前だ」と考える。しかし、必ずしもそうとはいえない。いい例が、世界最強国家アメリカだ。
アメリカは、朝鮮戦争で引き分け、ベトナム戦争、アフガニスタン戦争で敗北している。初戦は圧倒的に強いのだが、全国民を敵に回した長期戦になった時、超大国でも小国に負けることはあるのだ。

同じように、ロシア‐ウクライナ戦争においても、「首都を陥落させたら終わり」とはならないかもしれない。ウクライナ成人男性1000万人対ロシア軍19万人の戦いが長期化すれば、ロシア軍が敗れる可能性もゼロではないのだ。

(ベラルーシではじまった停戦交渉)
2月28日、ウクライナ侵攻後はじめてのロシア‐ウクライナ交渉が、ウクライナ国境に近いベラルーシのゴメリで開催された。
ロシア側の要求は、次の4点。
1)ウクライナ政府が、クリミアをロシア領と認めること
2)ウクライナ政府が、ルガンスク人民共和国、ドネツク人民共和国の独立を認めること
3)ウクライナの非軍事化、非ナチ化(ロシアは、現在のウクライナ政府をネオナチスと呼んでいる)
4)  ウクライナの中立化、NATO非加盟の保証
一方のウクライナ側は、「(クリミア、ルガンスク、ドネツクを含む)全土からのロシア軍撤退」を求めている。
両国の主張は全く異なるため、一度の交渉で歩み寄ることはできなかったようだ。だが、交渉は、今後も継続していく。

(「地獄の制裁」で、ロシアの戦略的敗北は必至)
そんな中、欧米はどう動いているのだろうか?
バイデン大統領が前々から警告していたように、非常に厳しい対ロシア制裁を打ち出している。
欧米は2月26日、ロシアを国際銀行間送金・決済システムSWIFT(国際銀行間通信協会)から排除することを決めた。これによって、ロシアからの送金、ロシアへの送金が困難になり、貿易量が激減する。

野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト木内登英氏は、NRI3月1日付で、「ロシアの貿易は3分の1まで縮小する」と試算している。そして、同氏は2018年にイランがSWIFTから排除された際、GDPが8%減少した事実に触れている。
ロシアも、同程度の縮小を覚悟する必要がある。さらにルーブルの大暴落が追い討ちをかけ、ひどいインフレがロシアを襲うことになるだろう。

筆者は以前から、「プーチンは戦術的勝利をおさめるかもしれないが、戦略的敗北は確実」という話をしている。
プーチンは2014年3月、ほぼ無血でクリミア併合を成功させた。これは、ロシアにとって「戦術的大勝利」であり、彼の支持率は9割まで上がった。
しかし、ロシア経済はその後、欧米日の制裁を受け、まったく成長しなくなった。ロシアのGDPは2000年~08年、年平均7%の成長をつづけていたのだが、クリミアを併合した2014年から2020年は、年平均0.38%の成長にとどまっている。

これを筆者は、プーチンの「戦略的敗北」と呼ぶ。
だが、プーチンは今回、懲りずに同じことを繰り返している。ウクライナを降伏させることができたとしても、地獄の制裁は長くつづくことになる(クリミア併合後の制裁は、8年間ずっとつづいている)。
つまり、今回の侵攻においても、プーチンの戦略的敗北は、確定しているのだ。

(真の目的は、ウクライナ全土の制圧か)
ところで、プーチンは、そこまでしていったい何を目指しているのだろうか?
彼が主張しているのは、「ウクライナがNATOに加盟しない法的保証」だ。それに、ウクライナがクリミアを「ロシア領」と認めること、ドネツク、ルガンスクの独立を承認することなども求めている。
プーチンの目的は、本当にこれだけなのか?

クレムリンのプロパガンダマシーンである国営テレビ「ロシア1」を見ると、司会者が興味深い発言をしていた。
毎週日曜日20時から放送される「ヴェスティ・ニデーリ」2月27日放送分で、司会のキシリョフは、「ロシアとウクライナは、ドイツと同じ状況だ」と語った。
ドイツは冷戦後、西ドイツと東ドイツに分断された。それと同じように、ロシアとウクライナも、本来は一つの国だったが分断されたというのだ。
1990年、東西ドイツは統一された。同じように、西ドイツに当たるウクライナと、東ドイツにあたるロシアは、「再び一つの国になるべきだ」と。

彼のこの発言が、クレムリンの意向とは無関係の個人的見解とは考えにくい。つまり、もしかするとプーチンは、ウクライナの「完全併合」を願っているのかもしれない。
だが、仮に彼がそれを成し遂げたとしても、どうなるというのか。国際社会から完全に孤立し、地獄の制裁で、ロシア経済はボロボロ。ウクライナ人は、プーチンとロシアを憎悪し、再独立の戦いをつづけていくだろう。
プーチンが、ウクライナとロシア、そして世界中を不幸にする決断を下さないことを切に願う。

---owari---
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 高い理想を持っても*増上慢に... | トップ | 五十歳以降も、人生の可能性... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

政治・経済」カテゴリの最新記事