放浪日記

刮目せよ、我等が愚行を。

ガンシセイノウホウ(3)

2021年11月22日 | 大阪編集精進道
入院初日。

病院から事前にもらったパンフレットを参考に準備した、前開きのパジャマやタオル、箸やスプーンなどのアイテムを放り込んだバックパックをかついで家を出た。
コロナの影響で、入院期間中は病棟から出られないということを言われており、病院内にあるコンビニへの出入りも禁止ということなので、お茶やゼリー飲料などの食料も大量に持ち込んだ。
朝10時に病院の入院窓口に行き、簡単な説明を受けた後、自分1人で入院病棟まで向かう。
あわただしいナースセンターの窓ガラスをノックし、入院する者ですが…と声を掛けると、ベテラン看護師がベッドに案内してくれた。
4人部屋だが、すべてカーテンがしまっており、入院患者同士がコミュニケーションをとったりすることは、どうやらなさそうな雰囲気だった。

看護師さんから入院時の病室使用の説明や、トイレなどの場所を案内され、また来ますからとベッドに放置された。
バックパックから荷物を取り出し、使いやすい位置に置く。なんだか懐かしい感じだ。旅をしていたときは、新しい宿に着くたび、部屋の設備を確認し、自分の荷物を一つずつ部屋の中に配置していた。何百回と繰り返したあの感覚。
病室と宿の差はあるものの、窓の外には初めて見る景色が広がっているし、大部屋がドミトリーだと思えば、旅の空の下にいる気になってくる。

この病棟は、僕がかかっている口腔外科のほかに、耳鼻咽喉科の患者も入院しているらしい。
同室には、カーテンで隠れているのでよくわからないが、絶えずピューピューと音をたて、からんだ痰を出すため時折咳き込む爺さんがいた。その音は、どうやら気管に差し込まれている管から出ているようだ。気管切開は大変だよな…と同情していたら、ブッ、と放屁なされた。その後もピューピュー、ゲホッゲホッ、時折ブビッ。その音が絶え間なく続く。先の2つは仕方ないとしても、胃腸は健常なのではと思うと、その放屁にだけ腹がたってきた。
放屁爺の隣のベッドには、僕から遅れること30分、新しい患者が入ってきた。親知らず2本を抜く手術を明日受けるらしい。へー2本なんだ、僕は4本だからね。と病気マウントをとってしまいそうになるが、ぐっとこらえ、心の中だけでつぶやいた。

特になにもすることなく、スマホをいじりながらベッドで寝転んでいると、熱と血圧を測りますねとヤング看護師が訪れたのをきっかけに、栄養士、看護師長が次々と挨拶に訪れる。そのたびに、あ、こりゃどーも、お世話になります。とへこへこして、挨拶を返した。

だいたい1時間に1回くらい何かがある程度で、基本は暇である。病室に入った以上、どこにも行けない。
そういえば、外を歩いている格好のままでいたのだが、いつパジャマに着替えればいいのだろう。通りがかった看護師に聞いてみたら、もうしばらくしたら外来と麻酔科での説明があるので、それ以降のほうがいいのでは?と返される。
そういうイベントがあることを初めて知る。病棟から出られないのではなかったのか。なんだかいいかげんな感じだ。
いろいろやるべきことはあるっぽいが、特に何も知らされていないので、いつかかるともわからない呼び掛けまで、ひたすら待機の時間であった。

小学校の給食を思い出させる昼飯を食べた後、外来へ行ってください。と看護師から告げられる。付き添いの看護師もおらず、道順を教えてくれただけで、自力で向かえとのこと。
エレベーターに乗って、長い廊下を歩き、外来へ。
すでに昼を過ぎているが、大勢の患者さんがソファに座って、自分の順番を待っている。そこに腰掛けながら、この状況が半分外にいる状態だと気付く。
外来で呼ばれたため、診察室に入ると、明日の手術担当という医者(若い女性)から手術の説明を改めて受け、口の中のクリーニングを兼ねた診察を少々。では、明日よろしくお願いしますねと、診察終了。このまま自分の病室まで戻れとのこと。
本当はやっちゃいけないんだろうけど、この隙にと、コンビニに行った。
特に何か欲しいわけでもないが、行けないと言われると言ってみたくなる不思議。あんまり目立つことをやると怒られそうだったので、ポケットに入るくらいのささいな買い物をし、こっそり病室に戻った。

(つづく)

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